最後の逃避行(仮)
はじめまして、初めて筆を執ってオリジナルを書いてみようと思い立った空仰です。物凄い見切り発車感が溢れているので、ルーデル好きの方は肌に合わないと感じる作品かもしれません。もし、「なにこれ酷い」という点がありましたら、ご指摘くだされれば幸いです。
それでは、大空の大英雄ことルーデルさんが繰り広げるであろう大冒険。その序章をご堪能ください。
第二次世界大戦。
六千万とも八千万とも言われるほどの戦没者を出した、忌まわしき大戦。
大地は焼け焦がれ、川は血で染まり、かつて街であった場所は廃墟とかしていた。
そんな大戦がまだ終結していない頃、枢軸国側の大戦力、ナチスドイツのとある基地で一人の空の大英雄が今まさに大空へ舞い上がらんとしていた。
彼の戦果は計り知れない。その成果は、記録に残っていないところにまで及んでいるからだ。
何故か? ……単純なことだ。彼がただ空を飛びたいがために、命令を無視し、公文書を偽って出撃していたから。
そう、彼……ハンス=ウルリッヒ・ルーデルは、ソ連人民最大の敵、対ソ最終兵器として恐れられる存在であった――
「なぁ、ニールマン」
「なんです大佐。まさかこの期に及んで、奴らに一泡吹かせたいとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「はっはっは。そんなこと……あるが」
「やめてくださいよ。ただでさえ血の気の多い連中だ、大佐が突っ込んだら喜々としてついてきますよ」
「わかった、わかった……」
ドイツの大英雄は、なんとも気の抜けた男だった。
目は垂れていて、人を威圧するような存在感もない。
ただ、気が付いたらそこにいる……そんな言葉が似合いそうな、唯の一般人のような男。
「大佐。将校三名、下士官六名、民間人一名の搭乗、確認しました。今すぐにでも飛び立てますよ」
「ん、よし。それじゃ奴らに一泡吹かせに――」
「大佐ぁ! 私の話聞いてました!?」
「――何の話だったか?」
「あんたが! 突っ込んだら! 周りの連中も! 付いてくるって言ってるんだ!」
「……ダメなのか?」
「少なくとも、私が大佐に殺意を持つ程度には」
「冗談だ、冗談……」
ルーデルはかなり本気で怒っている様子のニールマンと、報告をしに来て苦笑いを浮かべている将校から目をそらし、かつかつと歩き始めた。
その後ろから、ため息をつきつつも二人共後を追い始める。
「ニールマン大尉、大佐のあれはもうお馴染みじゃないですか。大尉だって割と無茶なことしているんですし、一々目くじら立て無いでも」
「赤軍が大量に展開している場所に、たった三機の急降下爆撃機と五機の直掩機だけで突っ込むことを“無茶”だけで済ませられるなら、私だって何も言わないさ」
「それをただの“無茶”で済ませるのが、大佐ではないですか?」
「……そうなのかもなぁ」
またもため息をつきつつ、ニールマンは前を行くルーデルへ視線を移した。
いつの間にか自らの愛機に到着していたルーデルは、その胴体を様々な感情がこもった眼で見つめながら撫でている。
おそらく、『最後の飛行』前に愛機の姿を目に焼き付けておきたかったのだろう。
「大佐、相棒とのお別れはもう良いですか?」
「ん? なんだニールマン、お前残るつもりか?」
「私のことじゃありませんよ。大佐の大事な大事なスツーカの話です」
「あぁ……長年一緒に空を飛んできたが、そろそろお別れの時期だろうしな。今更、心残りはない。最後にめい一杯飛ばしてやるさ」
屈託のない笑顔を浮かべながら、ルーデルはスツーカの操縦席へと乗り込んだ。それを見て、ニールマンも後部銃座へと腰を下ろす。
ルーデルがスツーカのエンジンを始動させると、後方に待機していた七機も同様にエンジン音を響かせ始めた。
他に誰もいない滑走路に、計八機のエンジン音が響き渡る。
聞き慣れたエンジン音に、身体へと伝わる振動。その全てが愛おしく感じながらも、ルーデルは愛機を――人生最大の相棒と別れを告げるために、スロットルレバーを押した。
ルーデル機以下八機の編隊は、僅かな乱れもなく宙へ浮き立つと目的地、バイエルン州へと機首を向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
群がるヤク戦闘機の追撃を躱しながら、八機は手慣れたように空を舞う。
直掩のフォッケウルフは、スツーカに追いすがろうとするヤク戦闘機を片っ端から落としていく。
そのスツーカは二機とも、鈍足ながら巧みな軌道でヤク戦闘機の射線を切っていく。
そう、“二機”とも。
「大佐ぁ! あんた何急降下爆撃機で戦闘機とドックファイト繰り広げてるんだ!?」
「ふっ、ケツをとられる奴が悪い」
「そういう問題じゃ……うわ!?」
ルーデルの乗るスツーカは、あろうことかヤク戦闘機とドックファイト、空中戦を繰り広げていた。
更に驚くことに、彼らは既に四機撃墜を達成している。直掩機が合計で五機撃墜しているのに比べれば……尋常じゃない戦果だ。
「よし、ニールマン。敵を引き付けるぞ」
「だからそれは私達の仕事じゃねぇッ!」
機銃手席で後ろから追いすがってくるヤク戦闘機に7.92mm弾をばら撒きなが叫ぶニールマンの声は、ルーデルが軽快に放つ37mm砲の轟音にかき消されていった。
「いやぁ、危なかったな」
「主にあんたのせいでな! 何度死を覚悟したか……!」
「なんだ、命あっての物種じゃないか」
「命を捨てに行ったのはあんただろうが!」
ニールマンの怒鳴り声を受けて、ルーデルは飄々と笑いながらスツーカを駆る。
一時的に逸れていた僚機とも無事合流し、一機も欠けることなくソ連の包囲網を突破した。
最終的に、ルーデルたちが落としたヤク戦闘機は16機。ソ連側からしたら大損害であった。
『ニールマン大尉、大佐をスツーカに乗せて飛び立たせているのですから、我慢しましょうよ』
「笑いながら37mmタングステン徹甲弾を敵に叩き込まれる恐怖を、君も味わってみるかい? シュウィルブラット中尉」
『遠慮しておきます』
苦悩が滲み出てこんばかりの通信を聞いて、シュウィルブラットは苦笑いしながら通信を切った。
暫く手元の通信機を睨みつけていたニールマンは、操縦席にいるルーデルに恨みつらみをぶちまけ始めた。
「本当、いい加減にしてくださよ。何度死にかけるんですか死にたい欲求でもあるんですか? 大体大佐は書類偽装してまで空に何を求めているんですか? バトルジャンキーか何かですか?」
上官に対して、かなりぶっちゃけたことを話しているが、ルーデルに於いては問題にならない。
そもそも、ルーデルにはそういった上下関係はどうでもいいことだったりする。
この場においての問題は……
「……大佐?」
いつもは何かしら返してくるルーデルが、一切の言葉を喋らなかったからだ。
すわ、怒らせてしまったか……?
ニールマンが恐る恐る後ろを振り向こうとした瞬間、ルーデルの鋭い声が飛んだ。
「ニールマン、揺れるかもしれんが、しっかりと捕まっていろよ」
「へ? 大佐、一体どういう……」
一瞬呆けたような声を上げたニールマンは、すぐさま異常に気がついた。
まだ暗くなるような時間でもないはずなのに、手元がやけに暗い。さらに、手元の通信機からは妙なノイズが……
ガクン
「ッ!?」
次の瞬間、ルーデル達の乗るスツーカを凄まじい衝撃が襲った。
ガタガタと機体が激しく揺さぶられ、飛んでいるのか落ちているのかすらわからなくなる。
その状態がどれくらい続いたのか、珍しく焦ったようなルーデルの声がニールマンの耳朶をうった。
「ニールマン! 備えろ!」
何もわからないまま咄嗟に耐衝撃姿勢を取ったニールマンは、一際激しい衝撃を受けた後その意識を真っ白に染め上げた。
いかがでしたでしょうか。作者の知識が足りないために、必死に調べながらではありますが間違えている点もあるかと思います。なるべく、曖昧な表記は避けているのですが……
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