第五話 不審な男
未成年の飲酒は法律で禁止されています。物語はフィクションです。
初めて会った時の彼はあまりよく覚えていない。
新人戦の後の打ち上げで、せっかくのお祝いだからお酒を飲んでみようと話が決まり、一軒家の基の家に白羽の矢が立った。2年のうちで一番年をくってみえる井ノ原と栄が酒を買ってきて、幼く見える加藤と幸治は食い物を買ってきて。俺と基は減量のためしばらく遠ざかっていたお菓子コーナーで新製品を山のように選んだ。
初めて口にしたお酒のせいでみんなふざけていた。いつしか王様ゲームが始まり、井ノ原と幸治が一本のポッキーを二人で食べると言う罰で盛り上がっている時、仕事帰りの基の兄貴がやって来たんだ。目の前に広がる男同士の痴態に慌てる事もなく、むしろにやっとわらったスーツ姿の男。
それから視線が合った気がする。
基とはあまり似ていないなと思った。身長は確かに一回り大きい気がするが、細身な事には変わらない。でも、なぜか違うと感じた。6年も歳が離れているとそんなものかもしれない。
そして俺はこのときかなり馬鹿な事を彼に向かって言ったんだと思う。仲間が一斉に吹き出し、手を叩き、その人は目に見えるほど動揺し部屋から出て行った。
それっきりの事だった。
次に会ったのは数週間後の週末の繁華街。
その頃には、俺は基と寝るようになっていた。
俺は仕事で酔いつぶれる予定の母親を馴染みの交番で待っていた。
母の絵里子さんは水商売をしていた。子供の俺から見てもとても綺麗な人だ。俺が小学校2年のとき父親が事故で亡くなって、それがお仕事のきっかけになった。
お店のオーナーは父の古い友人とかで、絵里子さんを快く引き受けてくれたと言う。ママさんは少し小太り気味だけどいかにもママさんと言った感じの優しい人だ。
その店はいわゆるスナックに毛の生えた様なクラブとでも言うのだろうか。絵里子さんはそこで夜6時から2時まで働く。平日の仕事はそんなにキツくない。ただ、給料日直後やボーナスが出た後、年末年始や年度末はかきいれ時になる。
そんな時絵里子さんは無理をする。
お店が終わるまでお付き合いし、新しいボトルの為に無茶をする。だからいつしか酔いつぶれた母さんを介抱するのは俺の習慣になっていた。
お迎えがかかるのはだいたい4時から5時と決まっていて、その日も時計は4時20分を指していた。
さすがにその時間帯に明らかに10代の俺がほっつき歩くのは都合が悪い。最初の頃は喫茶店で時間をつぶしていたが、ひょんな事から顔見知りの交番のお巡りさんに声をかけられ、それ以来図々しくもその人が居る晩は交番で過ごすようになっていた。
眠い。俺はその交番の片隅で船を漕ぎだしていた。
そこに突然の女の人のののしり声。
「ぼったくられた!!」
ここではそんな言い争いがしょっちゅうだ。俺は睡魔と仲良くおててを繋いでいた。
断片的に店の名前が聞こえる。
ああ、またあそこか、なんて思いながら頷く。うんうん、あそこは悪いね。でも、たいした金額はボラレ無い。せいぜい3掛けってとこだろ。薄目でサラリーマン風のその集団の人数を見る。4人。4人×1萬×3倍 12萬かあ。確かに安くはないよな。まあ、やたらと身なりがいいから5掛けいったかなあ。でも、ヤバいの分っていて入った口調も感じていて、ま、金持っている奴が社会勉強したって話しか?なんて見ていると、その中の一人と目が合った。どこかで会った事が有る?身長180センチ弱の中肉中背。広い肩幅によく似合う背広。手足の先が少し出ている変わったデザイン、きっと海外ブランドものだ。整った顔つきは“生徒会長”のあだ名の同級生を思い出させた。歳は大卒2年目と言った所か。その人は俺に向かって、奇妙なモノを見るかのように目を細めた。
この時は俺の事を“売り物”だと勘違いしているBL系かと思った。
その女の人がひとしきり文句を言った後、一緒にいた男の人達になだめすかされて交番を出ようとした時(こういうトラブルは処理が難しいらしい)、もう一度眠るつもりだった俺の腕を強引に引っ張るヤツがいた。
Left Alone つづく