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第三十話 失ったもの・手に入れたもの

 もうすぐ春が来る。

 本当はする予定だったホストのバイトは当たり前のようにキャンセルしていた。でも免許が取れしだい車は譲るとオーナーは言ってくれた。

「十分がんばってくれたからね。君の気持ちをみんなが嬉しいと思っていたんだよ。」

昔だったらその言葉を素直に喜べた。でも今の自分は少し変わってしまった気がする。

 車の必要がなくなったのも皮肉だった。


 母さんの元の職場の人達に挨拶にいく事も考えたけど止めた。


 それでも時間は過ぎていく。

 教習所だけは契約が有るから行かない訳にはいかない。ただそれだけの生活。


 入学後は奨学金の申請をするつもりだ。学校の奨学金と、県の奨学金、国の奨学金。学費免除申請も。その為にはいい成績を取らなきゃいけない。ただ漠然と過ごしていられる日々には限りが有るって知っていた。


 毎朝2時半に家を出て行く母さんにいってらっしゃいを言い、それからしばらく寝かせてもらってから起きる。朝ご飯を作り、帰って来た母さんとそれを食べる。それから二人で掃除をして、二人で洗濯物を干した。夕方には一緒に買い出しをして、献立を考える。時々母さんの新しい服を選んだりもした。

「遊里はいらないの?」

って言われて

「学校の雰囲気に合わせようかなって思ってるから。まだいいや。」

なんて答えてみたり。

「スカートだったら得意だからつくってあげる。」

そのデザイン画に爆笑した。

「母さんね、こう見えて昔宝塚に憧れてたのよね。」

でもそれ、ネグリジェだよ。

 それから毎晩8時には布団に入る母さんにお休みを言った。

 確実に新しい生活が始まっている。

 母さんの色の抜けたような肌は少し日焼けし、髪も根元の方から黒くなっていっていた。何よりも笑うようになった。それは父ちゃんと暮らしていた頃を思い出させた。

 基以外の友達からはたまに連絡が来た。そして電話を受けるたびに落胆する俺がいた。だってそれは本当に聞きたい声じゃなかったから。

 京子は俺を責める言葉を吐いた。

『どうして基の事振ったの?あいつ、真剣だったんだから。マジで勇利の事大事にしたかったんだよ。』

どうして京子が知っているか解らなかった。

「基から何を聞いた?」

思わず出てしまった険しい口調に彼女は口ごもる。

『基が、報告の電話、くれないから。』

そう彼女は言いよどんだ。

『合格発表の日に勇利に告白するって。だから協力してくれって言われてた。プレゼント選ぶの手伝ってる時、いつか俺達が結婚する事になったら祝辞頼むってあいつ、笑ってたから。きっと上手くいくんだろうなって思ってたんだ。でも基から連絡ないし、勇利も何一つ言ってこないでしょう・・・・。そしたら勇利が基の事拒絶したってしか、考えられないじゃん。』

京子の言っている意味は解った。でも解りたくなんか無い。

「俺が好きな人、基だと思っていたのかよ?」

彼女を傷つけてやりたかった。

「基じゃないよ。あいつの事なんか何とも思っちゃいない。男にすら見えなかった。俺が好きなのは全然違う人だ。だからいらないおせっかい、二度とするなよな。」


 友達なんかいらない。車もお金もいらない。ボクシングだって何もかも。捨てろと言われたらすぐに捨ててみせる。だから神様、あの人を頂戴。

 俺の人生に、あの人だけが欲しい。


 俺は高校生活ってヤツにもう未練はない、そう自分に言い聞かせた。

 

 ふと気づくとこれまでそれなりに友達は多かったけど、本気でつながりたいと思うヤツがいない。女の友達もいるけど、親友じゃない。

 悲しい。

 あんな関係だったって言うのに、親友と呼べるのは誰よりも基ただ一人だった。


 もし相談できるなら、この悩みを打ち明けるとしたら、基しかいないなんて。




             Left Alone つづく 


この期間に何が有ったかは後ほど出てきます。

Pain の方にはこれからそこの部分が登場します。

ある意味ネタバレになります。ご了承下さい。

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