第十一話 亀裂
合意の上ではない行為が書かれています。お嫌いな方はパス願います。ご免なさい。
「勇利・・・・」
柔らかく抱きしめられているはずなのに身動きが取れない。
「こうしていると、俺達新婚さんみたいだと思わないか?」
彼の唇が首筋に当たる。彼の躯はしなやかで決して不快な訳じゃない。むしろ心地いい。だから、それがいけない。
「約束が違う。」
俺は首を回した。基のため息がかかる。腕が離され自由になったと思った瞬間、彼の肩に抱え上げられていた。こんな事は初めてだ。
「ちょっ、何すんだよ。」
その状態で抵抗なんてできなかった。ずんずんと階段を登られそっとベツドに下ろされる。
俺の目を基が覗き込み、何か言いたげに瞬いた。
「基・・・・話しがしたい。」
「ああ。」
彼はそのまま俺を見つめた。
「分っている。でも、後で。」
唇がやんわりと当たる。初めて基に抱かれたときとは天と地のやり方で彼は誘いをかけるようになっていた。
「後で必ず聞くから。でも話しは後で。今日は部でさんざん話したからさ。」
唇が軽く噛まれ、放され、再び合わさる。
「少し、休ませてくれ。」
紙一枚も入らないほどの近距離で唇越しに囁かれる。彼のごつごつした指からは想像できない様な繊細なタッチが頬を伝わる。
「何を話したいか、分っている。だから・・・・。今までの分のご褒美をくれないか?」
彼には俺がもう寝たくないと言いたい事が分っている、そんな気がした。だからこれが最後だと自分に言い聞かせた。
基の腕の中で乱れる自分の映像が頭の中で揺れる。本能のままに彼を受け入れ、その快楽に身を任せてしまいたい。好きだとか、愛しているだとか友情だとか何も考えずに済む世界に行けたらどんなに楽だろう。肩に手をまわし、引き寄せ、体中を摺り合わせ、しならせ、唇を噛み声を殺す事も無く。
彼の熟知した愛撫が俺の全身を這う。それでも何かが違うとどこかで囁きが聞こえる。何かが逆らっている。
俺はシーツを選んだ。それをキツく掴み、基が期待する様な反応のすべてを否定した。
それでも二人は高まった。もうすぐ放り出されてしまう。その気配を感じ始めたその時、音がした。玄関の柵が開く音、そして閉じる。その瞬間、俺の躯が石になった。
誰もいないはずの階下から呼ぶ声が聞こえたのだ。
その声の主は当然の事のように俺達がいると知っていた。そして俺の名前が呼ばれ
る。
嫌だ!!
俺の中で何かが蠢いた。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
基を突き放した。ここは俺がいる所じゃない!!
全身に恐怖が走った。
兄貴には知られたくなかった。もし俺が本当に基を好きだったら違ったと思う。もし本気で愛していたのなら、何も恥ずかしがる事など無くて、見つかっても堂々としていれただろう。愛し合ってさえいれば。
兄貴が帰ってきた事を基も気づいていた。だからあいつも少し体を引き距離をとったんだと思う。でもそのあきらめの表情の後、ゆるやかに目が吊り上がり今まで見た事のない顔つきにかわったかと思うと、離れようとする俺にのしかかってきた。
駄目だ!!
彼はあっという間に俺を押さえつけた。
嫌だと叫ぼうとする口を塞がれ、俺の四肢は意味も無くあがいた。基の全ての力を全身に受けながら、もうどうにもなら無いと悟る。
兄貴の気配を感じた。階段を踏みしめている感触が伝わる。もうすぐこの部屋にやって来る。
目の前が一瞬白くなる。
薄い壁一枚隔てて兄貴がいる。それをまるで鏡に映しているみたいに感じ取っていた。
肌が粟立つ。
来るな!!
心は嫌だと叫んでいるのに、躯の一部は女である事を歓ぶ俺を見ないでくれ!!
レイプと言えば身もふたもない。和姦というぐらいで勘弁って所か。兄貴が入って来なかった、それだけが幸いだった。俺は基に背を向けた。激しすぎる行為のせいで俺は久々に血を流していて、あれほどつけるなと言っていたキスマークが胸元に残っていた。こんな事が有ったんだ。距離を置こうと切り出すのは簡単だった。
でも、言い出したのは基だの方だった。
「しばらく二人きりなるのはよそう。」
一瞬彼は目線を落とした。
「もう抱かない。な、聞いてくれ。俺達、普通の恋人同士じゃないって事分ってる。でもこのまま終わらせるのは嫌なんだ。」
基はあごを上げると思い詰めた顔つきで俺を見据えた。
「愛してる。愛してるんだよ、勇利の事。一生大事にしたいんだ。」
その目は悲しいくらい澄んでいて。
「きちんと距離を置いてみせる。大学決まって、高校卒業したら、改めてお前の事迎えに行く。それまで心を決めていてくれ。それまで辛抱する。お前に愛してもらえる様な男になるから。」
基は諦めないと言った。そう、彼は諦めないだろう。
この日初めて彼は俺を愛していると言った。
彼がずっと口にしたかった言葉だってこと、俺は知っている。それでも彼はそれを隠して来た。
それだけ基の気持ちが深い事に気づいていた。
この時の俺はきっとまだ基に未練が有ったに違いない。だから彼にきっぱりと別れを告げる事が出来なかった。動揺させ試験が失敗する事を恐れていたんだ。
その事を俺は一生後悔する事になるとも知らないで。
ただそれから二度と基の家には行かなくなった。
元々クラスは違う。学校の廊下ですれ違えばいつもと変わらなかった。たまに覘きに行った部室で時々会う事もある。帰り道が一緒になる事も何もかも以前と変わらなかった。つまり、寝なくなった。それだけの事だった。
Left Alone つづく
あの、皆様。よろしければ感想など頂けないでしょうか・・・・。家内制手工業的に黙々書いておりまして、少々寂しく感じております。
あ、ちなみに最後はきっちりハッピーエンドさせますんで。御心配なく。