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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
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くっころのおんせいかい (ちば(前編

 引きつづき森の中を歩む魔術師と妖狐。


 ちなみにこの森は既に2つ目だ。

 と、森の中央を走る川にたどり着いた。


「む、この川やけに暖かいぞ。これはもしかして……」


 魔術師は川から湯気が上がっているのを不振に思い少し上流へと遡ると、自然に温泉が湧き出ている地帯を発見した。


「おぉ、これは温泉だな。岩で囲えば十分に風呂にできるだろう。どうだねヨーコ」


「いや、僕もさすがにこんな露天で肌を見せるのは……」


「じゃぁ俺だけで入るか。ひとっ風呂浴びたら今日はここで野宿しよう。まずは岩を集めて風呂場を作るかな――」


「ぐぬぬ。気持ちがよさそうなのです。足湯くらいは入りたいのです」


 そうしてまっ昼間の中、唐突に温泉会が始まるのであった。



 サクラとは遠い親戚であり、王国の主力たる騎士団を統べる貴族、オジ・サーマキーノ。

 騎士団の紋章は鳳凰の赤。名を鳳凰騎士団。こちらはサクラが統べている薔薇騎士団とは約3倍以上の人員差である。


 サクラは魔術師との結婚を推し進めるためまず実行したこと。

 それは両親を説得することであった。


 しかし、意外にも説得の時間はほんとかからず、オーカとの結婚についてはすぐにOKが出た。だいたい、サバッキーノ家代々からの風習だからというだけで14の小娘に家督を継がせるような家系なのである。基本何をしても自由だといわれることは分かっていた。


 だが、それでも条件がついた。

 それが、目の前のオジ・サーマキーノを自ら説得しろ、ということであった。どうも両親もオジ・サーマキーノのことが苦手らしい。


「婚姻は認めない」


「えー。オジさまぁ。許してよぉ」


 ここはアーカンソー王国の鳳凰騎士団が本拠地ソドムトゴモラ、そのサーマキーノ家の別邸が一室。完全に敵地(アウェー)である。

 相対するのはオジ・サーマキーノと、その他3人の配下の男性騎士。

 こちらはサバッキーノ家の当主たるサクラと、サクラが統べる薔薇騎士団の副長たるエルフの女騎士エルの2人だけだ。

 サクラは男性騎士達に威圧されつつも恰幅のあるオジさまたるオジ・サーマキーノに媚を売ってみたが、効いたそぶりはまったくなかった。


「だいたい相当な魔力を持った魔術師とは言え、見たこともないような風体(ふうてい)の知れない平民を婿にするなど正気の沙汰ではない。貴族というのはな、他の貴族と婚姻して血の結束を高めることでその地位を保ってきているのだ。そいつでなくてもより強力な魔力を持つものなど、貴族であればいくらでもいるであろう。それなのになぜ――」


「わたくしがどんな騎士団を統べているのか。よもや忘れたとは言わせませんわよ。その手の婚姻の実弾であれば、それこそいくらでもありますというのに。わたくしが貴族と婚姻しなかったからといって大したことではありませんわ。そんなことを仰るとわたくし、オジ様のことを嫌いになりますわよ?」


 サクラの統括する薔薇騎士団の構成員は魔術師1人を除き全員が年頃の女騎士であり、まさにアーカンソーに住む女性達垂涎の的となっているのだ。

 そこから『卒業』した女騎士達の多くが騎士や貴族に嫁ぎ、広範囲の女子ネットワークを形成している。彼らに逆らった男達は悲惨な運命を辿るしかないのだ――例えば婚期を逃すとか。

 オジ・サーマキーノは既婚であるにも係わらず冷や汗をかいた。


「それに、多少破天荒であった方が女騎士達の受けがいいですもの。それに釣り合うのであれば、この国との王子様との縁談の一つでもおじさまが持ってきてくれるのであれば考えてもよろしくてよ?」


「それはさすがに……」


 ちなみにこの国、アーカンソーの国王と王妃の間の子には一児の長女、ヒメノ・アーカンソーがいるだけである。国王が引退すると女王陛下が誕生するというのがもっぱらの噂だ。


「ともかく許さん! 許さんぞ!」


 オジ・サーマキーノは吼えた。


「なにか条件とかはありませんの? なにがなんでも許さないとかは、あまりに無体というものですわ」


 ぐっ、と言葉に詰まるオジ・サーマキーノ。


「ふふん。ならば国を一つ――、例えばオーストロシアの降伏を条件とするならば2人の婚姻を許してやろうではないか」


 オジ・サーマキーノは王族との縁談などという無理難題の意趣返しとばかり、ありえないことを口にした。


 オーストロシア帝国。


 北方はエアーズの砦の先にある大国である。

 まず砦は帝国のものであるし、そこの砦にはルーミートなる魔物が多数生息しているという。さらにその先には人体には有害な有機カリという名前の木々が乱立、そこを突破しても帝国の将軍が立ちはだかるという、アーカンソー王国としては鬼門の地域であるのだ。そしてオーストロシアの兵は拳戟(けんげき)魔術と呼ばれる特殊な兵法を使うことでも知られている。


「へぇ――、なるほど。分かりましたわ。ではまずはエアーズの攻略ですわね」


 サクラは目を細めつつ立ち上がった。

 なんの気負いもなく攻略を宣言したサクラに対し、オジ・サーマキーノは思わず震えてしまう。

 彼女がこれから行おうとしている狂気の沙汰に。


 そして、オジ・サーマキーノは彼女をなんとしても止めることを決意した。


「だが、俺がそのまま簡単に返すと思うのか?」


「なんですって?」


「なぁに。そのような無体なことをいう子供にはちょっと教育が必要だと思ってな。ついでにお前の薔薇騎士団も我が鳳凰騎士団に吸収してやろうではないか」


 サクラの身体を改めて眺める。

 さすが薔薇騎士団を統べる人物。幼いとはいえ美しさは傑出している。

 そしてその隣に佇むエルフもこれまた、相当の美人だ。


「そのような戯言。わたくしを捕まえられてから言うことですわね」


 その背丈にあわぬ妖艶な雰囲気、気の強さにオジ・サーマキーノは改めてサクラに気圧される。


「あぁ、だが捕まえてしまえば……。後はわかるな?」


 だが、このような娘であっても押し倒せば「くっ…。殺せ」などと泣き叫ぶのだろうか。


「くっ、こ……」


「今はだめッ!」


 サクラはエルフの女騎士であるエルが何か言おうとするのを右手で制し、そして――


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