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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
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くっころ騎士団唯一の男性と結婚(あきた

 ヨーコ・ナナビーノと名乗った妖狐は、あの大きな罠である魔方陣で召喚されたあと、魔術師のオーカと二人で暮らすようになった。

 ちょろいんと魔術師は語ったが、まさにヨーコはちょろいんの称号にふさわしく、2人が打ち解けあうのに時間はほとんど必要ではなかった。

 始めの2-3日こそヨーコはただくっちゃ寝するだけであったが、アキタの一言により魔術師と共に魔術師の仕事場に一緒に来るようになる。

 今ではヨーコは既に小屋のどこに何があるかも把握していて、勝手にお風呂のお湯を沸かしてくれたり、かいがいしくご飯を作ってくれたりするような有様だ。


「それでね――。今日は商人さんからお菓子を貰ったのです――」

「あの堅物からよ。ヨーコはすげーな」

「ねぇねぇ、一緒にお菓子を食べようよぉ」

「あぁ……」


 仲睦まじくお菓子を頬張る2人。

 楽しく続く会話。いつしか忘れさられる黒の魔導書。


 だが楽しい日々が続くのは長いものではなかった。



「折り入ってオーカにお願いがあります」


「なんだい。ヨーコ」


 食事後の終身前。

 光の精霊術で部屋の中を明るくした魔術師は、ヨーコが急に真剣なお願いしてきたのに一瞬たじろぐ。

 何を言われるのだろうか? 皆目検討が付かなかった。


「僕とオーカは契約していない状態です。それは分かりますよね?」


「うむ……」


 魔術師はなぜか正座させられていた。


「それで、僕は別のマスターと契約している状態です。それも分かります?」


「うむ……。それでそのマスターとの契約を切って俺の元に付く決心はついたのかね?」


 魔術師がそういうと、妖狐は魔術師を睨みつけた。


「いいえ。でも僕のマスターが契約について提案があるそうなのですよ?」


 魔術師と妖狐はいつも一緒にいたはずなのに、なぜか妖狐はマスターからの提案をクチにする。

 妖狐はいつそのマスターと話をしたのだろうか。


「それはなんと――」


「1つ目の提案は、僕のマスターと婚姻の契約をして僕を2人の共同保有者とすること。2つ目の提案は、僕とマスターと二人と戦って死ぬこと。さぁ、どちらかを選んでください。と」


 妖狐は今まで発したことがない、まるで魔人であるかのような濃厚な妖気を発散させつつ近づいてくる。

 正座中の魔術師はすぐには動けない。

 そうこうしているうちに魔術師は妖狐に対面から座位で完全に圧し掛かられ押さえ込まれる。

 こうなるともう完全に身動きが取れなくなる。


「さぁ、どっちにするぅ?」


 甘い匂いを漂わせつつ耳元で囁く妖狐。

 妖艶な動きで心の臓近くの胸をはだけさせ、右手人差し指を円を描くようにぐりぐりしていく。柔らかい弾力。

 これは拒否することが難しい。

 もし一瞬でも変な動きを見せればその指が突き刺さるに違いない。

 その濃厚な魔力を1点に集中させて。


「少し質問させてもらっていいか?」

「なぁにぃ? オーカ」

「いつの間にそんな提案をそのマスターとかいう者から貰ったんだ?」


 魔術師は最近の妖狐とは常に一緒に行動していたはずだ。

 それこそ寝る時ですら、だ。


 もしかしたらそのマスターという人物はすぐ近くにいるのではないか?

 大体、いきなり結婚とか、見ず知らずの男に提案するようなものではあるまい。

 どこかから見ているのだろうか?

 魔術師は周囲を見回す。

 小屋の窓は木窓であり外から中を見ることはできない。

 当然、入り口は閉められている。

 魔術的な防御も、簡易ではあるがしているつもりだ。


 ではどこから――


「それはもちろん、僕とマスターは意識を共有しているからだよ。マスターは結構乗り気なんだ」


「で、どんな娘なんだ?」


 婚姻というからには女性のマスターなのだろう。

 黒の魔導書の補助もなしにこのような魔人の娘を使い魔にするようなマスター。おそらく相当な経験値をもった女魔術師――おそらくは50歳をいっているような――なのではないだろうか。そんなのはごめんだ。

 結婚するにしても、その女魔術師がどのような人物なのか、それがなくては始まらないだろう。


「ん? 僕のマスタのサクラちゃんはねー。気立ての良い、性格もいい娘だよ。黒髪セミロング/黒目の深遠の令嬢さんでねぇ。なに着せてもかわいいよ。どう? コスプレ可」


「おい貴族なのかよ。って、身分違いすぎじゃねえか?」


 貴族の娘であれば強力な魔法の使い手なのは分かる。

 より強力な魔力を求めて魔術師同士が血の交配を繰り返した結果だ。

 しかし魔術師は――魔力を持つという最低限はクリアしているが、ただの平民であることには変わりがない。


「だから婚姻の発表をするのは先にしても実績はつまないとダメだね。身分差を埋めるために。しばらくはマスターがやっている騎士団に入って下積生活になると思うけどいい? まずは庭師(おにわばん)からかな。今、僕のマスターのサクラは14歳だから、4年もすれば食べごろだと思うのです」


「食べごろって、あのなぁ……」


 騎士団も表舞台である騎士だけではなく、裏で支援をする弓兵や忍者、魔術師などの職種部隊が存在することは魔術師も知っていた。だが、庭師? そこで貴族の女の子に見初められて――とか、そんなストーリーなのだろうか。


 まぁ、悪くないか、と魔術師は考えた。


「大丈夫だって。実績はすぐ積めるよ。なんたって僕らの騎士団は『くっころ騎士団』とか揶揄されている弱小集団なんだから――」


「はぁぁぁ!?」


 そこで始めて下積生活をするであろう騎士団が、ほとんど女性のみで構成され、男は魔術師だけであることを知る。

 女騎士が集団のオーク達に「くっ……、殺せ」とか言っているの所に飛び出していってなんとかして助ける、冒頭1話目からそんなシーンが繰り返されることを魔術師はありありとイメージできた。



 魔術師との生活はものすごく楽しい。

 妖狐のマスターである貴族の娘、サクラ・サバッキーノは平民の生活というのを体験できた。


 いつもの生活とはまるで違う、破天荒な生き方。


 妖狐の『楽しい』という感情がダイレクトに私の脳にも伝わってくるのだ。これで感情移入できない方がおかしい。

 その感情の流入をサクラは止めることはできない。ヨーコとのリンクは解除することはできる。が、解除してしまえば契約が切れてしまう。そうなってしまえば魔術師との関係は終わる。


「うまく、引き込めたのかしら?」


 とりあえず、会話としては成功した。

 婚姻は承諾して貰えた。移動資金を貯めたのち、こちらに来るそうだ。ゆっくり来てもらって構わないだろう。サクラは自分でも自分の容姿が幼いことを自覚している。


「後は、こちらの問題か――」


 親、親戚。障害となるものは多い。


 だが、私には受け継いだ魔力があり、引き継いだ騎士団がある。

 簡単ではないが、攻略することはできないことはないだろう。


 今もヨーコの体験したことが伝わってくる。

 魔術師のことはほとんど理解いたつもりだ。彼の容姿はもちろん、身体のほくろの位置とか、いけない遊びだとか――


「今日も、かな?」


 サクラは、僅かに身を震わせながら眠りについた――

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