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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
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くっころのちょろいん(おきなわ

「しかし、なにこのちょろいん」

「ん。僕をヒロイン扱いしてくれるなんて嬉しいのです。ということで、この荒縄を解くのです」


 妖狐はうごうごと身体を動かすが魔法の紐のせいでなかなか身動きが取れない。

 魔術師は妖狐との交渉に勝ったが、妖狐はいまだ縄に縛られたままだった。このままでは理想の紐生活ができるくらい。


「それから、おきなわのおきはおっきいではなくて、沖という魔法字を当てるのです。

 おっきいじゃないのです」


 それを聞いた魔術師は妖狐を伏せさせ縄で身体を引いて見せた。

 ずざざーと動く妖狐。


「これで完璧か?」

「なにそれ」

「つまり延縄漁法?」

「いや、確かにオキ網だけれども、その字は沖じゃないのです」

「つまり釣り?」

「ただのネタだったのです? じゃぁ、僕もネタだそうかな。引き出しの一つから」


 そして妖狐は身体をもじもじと動かすと手の位置をずらして空間の何かを叩いた。

 すると次の瞬間には魔術師の隣に立っている。


 本来召喚した魔人は、契約が完了するまで魔方陣から出してはいけない。

 それが通常の魔術師の鉄則であった。なぜなら襲われる可能性があるから。

 だというのに、ヨーコは魔方陣から普通に出てきており、俺にいろいろとスキンシップを図ってくる。


「おかしい、縄でぐるぐるに縛ったというのに……」

「くくく、僕は女狐の魔人だからね」

「いや、だからなんで狐だとそんな脱出が得意になるんだよ」

「プリンセス天○ぉぉぉー」ヨーコは狐っぽく片足を僅かに上げキタキ○踊りのポーズを取った。


「そのネタやめい!」


 魔術師は妖狐をひっぱたく。

 そしてどこから突っ込みが来るのではないかと警戒した。


「だいたいあの程度、魔人ならばどうということもないのです」

「へぇ……」

「つまり、釣りだったのです」

「――要は、あれだけ苦労した魔方陣とかまったく意味がなくて、黒の歴史書の効果だけであったということか」

「いやだなぁ……、そんなの当たり前じゃないですか」

「……。そですか」


 そうして、魔術師とどっかよくわからん所出の魔術師の使い魔の妖狐、1人と1柱の共同生活が始まった。



 その1ヶ月後。


 港湾の運搬を取り仕切る恰幅の良い商人が狐耳の少女を褒める。


「いやー。ヨーコくんが来て本当に助かるよ」

「いやぁ、褒めてもなにも出ないのです」


 ヨーコと呼ばれる亜人の少女が魔術師であるオーカによって連れられてきてから1月。妖狐は港湾地域内のむさ苦しい作業員の中で人気物となっていた。

 男どもの中で唯一の清涼剤。

 人気が出ないはずがないのだ。


 彼女が来てから男達の効率が上がり、商人としても非常に助かっていた。


「先生、今度はこいつを左から右へお願いします――」


 先生と呼ばれたこの港湾で唯一の精霊魔術師であるオーカは、うむと頷くと召喚した大地のゴーレムを動かして船から降ろしたコンテナを倉庫に運んでいく。


「しかし、あのオーカの奴に嫁とはねぇ。あいつの親が死んでから一時はどうなるかと思ったが……」


 港町の一角で荷物の移動を指示しながら、商人は帳簿と商品の比較棚卸しをしていた。


「その嫁が僕ではないのが残念なところですが。あ、ここの書類、この数値が間違っているのです」


「おっと、書類そのものの加算にミスがあるのか、なにやっているんだあのぼんくらども」


 商人は部下を怒鳴りつけ、新たな指示をつぎつぎとしていく。

 それなりに有能なようだ。


「そうかそうか、で来週出立か。その嫁さんとやらに逢いにいくのは――」


「えぇ、ここからだと通うにしても遠いですから――」


 商人にとっても非常に助かっていたが、今後、魔術師であるオーカを婿としてとられることは痛手でもある。

 しかし予想できないことではない。数の少ない魔術師は引き手あまたの状態だ。宮廷魔術師のレベルにはさすがに届かないではあろうが、冒険者ともなれば必ずスカウトくらい来るであろうレベルなのは間違いない。

 中堅以上の貴族であれば妖精族(フェアリー)の雇用の方が好まれるだろうが、それ以下であれば需要はある。魔術師はもともと堅実とはいえ低収入の日雇い労働をし続けるような器ではないのだと商人は常々思っていた。


「しかし、庭師か――。その嫁さんのところはなかなか豪気だな」


 そしてこの安定収入を捨て、しかし今度はどこかの貴族家の庭師に収まるそうだ。


 庭師。


 精霊魔術の使い手だから当然今使っている大地のゴーレムだけでなく、水や風も使うだろう。農家系の知識があれば庭師も簡単にできるに違いない。が、それだけのために貴重な魔術師を消費するとは。それも嫁付きで。収入が低かろうが嫁の部分にオーカは引かれたのだろうが、まったくどちらも豪気なものだと思う。嫁とはいってもどんなものか見たことすらないというのに。


「えぇ、庭師(おにわばん)です。カッコいいでしょう?」

「カッコいいのか、たかが庭師が?」

「もちろんカッコいいですよー。あ、この数値も違っていますね。おそらくコンテナの物品をダブルカウントしているかと……」

「おっとすまん」

「いえいえ、旅立ち前のオーカのお給金を弾んでくれればそれで十分なのです」

「それはダメ」

「けちー」


 その貴族に仕えるこの亜人の娘も気前の良い性格であれば良いのに、と商人は一人ため息をついた。


 ――そのとき、嫁というのが当の貴族の嫁であり、それが「くっ…、殺せ」というセリフで有名となった薔薇騎士団の主君であることは、商人には知る(よし)もないことであった。

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