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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 6: やせいの王女さまが現れた!
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エクスカリバー(かがわ(前編②

「いざ、尋常に! 勝負!」


 武闘会は既に決勝戦へと持ち込まれている。

 武闘会の熱気はいまや最高潮だ。

 対戦相手はオーストロシアの征夷大将軍、ウィンター将軍。

 エクスカリバー王国の円卓騎士、四天王最若手の騎士カンニバル・ラウンド。


 片や、オーストロシアの正規兵が一般教化で倣う徒手空拳、どちらかといえば邪道の系列である拳戟(けんげき)魔術の格闘家。

 片や、ブロードソードで正統派。エクスカリバー王国で一般的な竜破魅格闘(りゅうはみかくとう)流の剣士。


「これはオーストロシア帝国とエクスカリバー王国の第二次戦役と同じ構図ですね」


 薔薇騎士団の騎士団長カーラ・ナポリターノがサクラに解説する。

 そのサクラ含め薔薇騎士団の面々はその戦いの行方を食い入るように見つめていた。

 いや、薔薇騎士団だけではない。

 それ以外の騎士も固唾を呑むようにその成り行きを見守っている。

 最初はネタ枠であったウィンター将軍ではあったが、実力はホンモノだ。

 戦闘ともなれば筋脳ぞろいの騎士の面々が興味を示さないわけがなかった。


 ―― 一方、貴賓席では王女ヒメノとオジ・サーマキーノが今回の武闘会の流れを確認していた。


「戦闘力で言えばウィンター将軍の方が上だけど、容姿であればカンニバル男爵の方に軍配があがるのかしら? 両方併せ持てば完璧なのでしょうけれど。どう思います? オジ様?」

「我々騎士団としては強い方であることを押しますが、政治的にはエクスカリバー王国を押します。さすがにオーストロシアは怖い」

「下手に手をだすと属国一直線ですかね?」

「左様」

「それはエクスカリバー王国に対しても同じでは?」

「……」

「どちらが優勝するにせよ、この後の晩餐会ではそれなりに勝者の功を労わねばなりません。今回の場合でいえば私との会話ね。手配はできていて?」

「話題に困らないよう、各地より名産を取り寄せ、その他芸達者な者など趣向を取り揃えております」

「よろしく。では結果を見守りましょうか」


 ――そして、合間見える二人であったが、勝負は開始早々からのウィンター将軍の突進により開始されていた。


 拳と剣。間合いとしてどちらが短いか考えるまでもない。


 ウィンター将軍は距離を殺し先の先をとる構えだ。

 小回りが効く打撃技で張り付かれてしまえば剣士と言えどひとたまりもない。

 その代わりにリーチの長さを生かしてカンニバル・ラウンドは剣を横なぎに薙ぎ払う。


「甘いわ!」


 ウィンター将軍は上体を揺らし手甲に剣をあてて弾き飛ばしさらに拳の間合いに入ろうとする。が、しかし弾き飛ばされた剣の返しにより間合いを開くしかなかった。


 その間数瞬。


 再び動きが止まった2人に賞賛の拍手が周囲から飛ぶ。


「あの動きが新・山潟拳(しん・やまがたけん)だな。あのガタガタした動きぱねぇ」

「あぁ、四十八都道符拳に着想を得て新たに創造したらしい」

「新スキルかよ。いったい何十年ぶりだ?」

「いや、生産系は結構あるらしいよ」


 周囲のざわめきが続く中、カンニバル・ラウンドは動揺を隠せない。


(ウィンター将軍には動きにまだまだ余裕があった。これはおそらく勝てないな……)


 こちらはすでに全力だというのに。

 だが動揺を引きださせればあるいは――




 エクスカリバー王国の兵士約8000。オーストロシア西部クリミパースにて、オーストロシアの第一地方駐留部隊約2200を相手に開戦。

 宣戦布告もなにもない突然の奇襲である。

 ウィンター将軍の留守を狙った戦闘は秘密裏に準備が行われ、そして一気に放たれた。

 突然の開戦に戦々恐々とするオーストロシアの面々。

 数にしておよそ4倍の敵数。敗北は必須である。

 しかし、オーストロシアの第一地方駐留部隊の長は、現征夷大将軍であるウィンター将軍と同期のカタリー・ヴォルケイノ中将。

 攻めにあっては100戦100勝。10倍差ですら勝利を収めたといわれる名将である。

 その開戦は、オーストロシア側もエクスカリバー王国のなんらかの予兆を感じ、カタリー・ヴォルケイノ中将を派遣した、その矢先の出来事であった。

 飛び交う火豚(ファイヤー)。使い勝手の良い魔術が弓矢の代わりとばかり飛び交う。初手の前哨戦だ。それを鮮やかに斬り落とすエクスカリバー王国軍の騎士達。まさに戦いの火豚が斬っておとされ続けている。オーストロシア軍の正規兵は絡め手が多い集団戦を得意とする徒手空拳の拳戟(けんげき)魔術。低位とはいえ魔術師が多いことによる火豚(ファイヤー)の弾幕防御によってようやく危うい均衡が保たれているが、所詮戦い前の前哨戦に過ぎない。それが終われば物理による直接攻撃。特に剣によるしかも直接攻撃力の高いエクスカリバー王国に対し、少数劣勢の地方駐留部では勝つ(すべ)はない。しかも相手は精鋭なのだ。半日とはいえ、よく持った方だといえよう。


「しかしも今回は攻め戦ではないからな」


 攻め戦であれば取れる選択肢はヴォルケイノ中将には数多くあった。

 しかし守りとなると中々に難しい。この防衛拠点を放棄することは難しいからだ。


 ここクリミバースはエクスカリバー王国と面する西の防衛拠点。


 かつてさらに西部にあり防衛の盾としていたポーラニア王国はエクスカリバー王国によってかなり以前に攻め落とされている。そのときもエクスカリバー王国とは一騒動あった。

 時間を稼げば東部側を開拓しているオーストロシア主力軍がキャンベルクアに戻り相手をできるであろうが、ここをすぐに突破されると簡単に首都キャンベルクワが攻略されてしまうのが防衛拠点を放棄できない理由だ。

 それをエクスカリバー王国は十分に理解しており、この猪突猛進とも言える攻めに繋がっている。

 オーストロシアの勝利条件としては、オーストロシア主力がキャンベルクワに戻るまで、たとえ全滅しようとも長い時間を掛けて耐えるか、ウィンター将軍をアーカンソーから何らかの手段ですぐに戻すのか、それともエクスカリバー王国軍を何らかの手段で殲滅させ聖剣(エクスカリバー)を使わせるような状況に追い込むか。くらいしかない。

 そのどれも、今の第一地方駐留部隊には難しい状況だ。


「くそっ……。アーカンソーめ。武闘会などというエサでウィンター将軍を釣るとは。親交したという薔薇騎士団。その『鉢の罠』作戦。よもやそこまでが作戦ではなかろうな?」


 エアーズの岩砦、有機カリの森といった分厚い防壁の、かつ、魔物が防衛する地域を魔術一発で踏破したというアーカンソーの薔薇騎士団。

 それだけのチカラを有する得体のしれない連中だったが、なぜかキャンベルクアでダンスを披露して帰っていったという。始めて聞いたときは唖然とするとともに、「そいつら馬鹿だろう」という念を強くしたものである。

 だが、なかなかどうして、ここまでが釣りであるならば納得できる。


 オーストロシアの征夷大将軍。ウィンター将軍。


 敵を凍りつかせ干上がらせる拳戟(けんげき)魔術はその存在だけで敵に脅威を与える。


 だがその存在はいないのだ――

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