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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 6: やせいの王女さまが現れた!
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武闘会(しずおか(後編

 鳳凰騎士団を統べるオジ・サーマキーノは、来週に迫る武闘会の準備に追われていた。

 鳳凰騎士団の本拠地であるソドムトゴモラは現在、絶賛崩壊中でありあまり人に見せることはできない。

 となると会場はある程度の闘技場を有する薔薇騎士団のシャーウッドの園か、アーカンソー王国が首都のミドルロックしかない。さすがにシャーウッドを使うことは鳳凰騎士団と薔薇騎士団の確執からしてありえないため、ミドルロックという選択肢しかないのだが、首都であるため物価は基本的に高く、当日や練習用の闘技場を抑えることはもちろん、海外からの参加者や観光客等の手配なども考えると余計な手間が目白押しの状態となってしまっていた。


 そう、海外だ――


「しかし、よもやワシの一言で世界が動くとは思ってもみなかったな……」

「まさか、助っ人条項がこう広がるとは思いませんでした」


 オジ・サーマキーノは手を休めず、老騎士に愚痴をこぼす。

 筋脳が多くを占める鳳凰騎士団にとって、まともにこのような雑務をこなせるのはオジ・サーマキーノくらいしかいないのだ。疲労は頂点に近い。――実はそれが騎士団を御するチカラの源泉となっているのだが、オジはそこまでは理解が進んでいない。


「あのいまいましい薔薇騎士団め。目の前の魔術師をさっさと差し出せば良いのにまさかオーストロシアに助っ人を頼むとは」

「しかし、アーカンソーは王女のヒメノ様以外世継ぎがおりませぬ。いずれ女王となる方となればその婿殿の地位は絶大。諸外国が目をつけるのは時間の問題であったかと。いまさら撤回すれば各国から非難受けますし」

「その各国の情勢はどうなっておる?」

「先ほどの通りオーストロシア帝国が薔薇騎士団、エクスカリバー王国は最大派閥の我が鳳凰騎士団に打診がありましたが、自国から騎士を出すと突っぱねて民衆騎士団へ、ユナイテッド王国は連合騎士団へ、カリフォーニャ王国は南部騎士団の後ろ盾に付いたようですな」

「で、我ら鳳凰騎士団は勝てそうか?」

「難しいでしょう」


 おそらく諸外国は威信を掛けて真のエリートが来るであろう。


 対する鳳凰騎士団はエリートについては近衛騎士団に行ってしまい、若手はあまり育っていない。裏技を使って近衛騎士団から鳳凰騎士団に呼び戻すことはできるが、彼らはベテランであるが故、ヒメノ姫に釣り合うような年齢ではなかった。


「ホストの騎士団ですし、ここは男らしく散るのがよろしいかと」

「それもつまらんな。何かよい手はなかろうか?」

「いっそ、薔薇騎士団の魔術師を助っ人にするとかサプライズがあれば面白いかとは思いますが」

「――それはないな」


 オジ・サーマキーノはこれで何度目かになるか分からないため息を付くのであった。



 武闘会当日。


 詰め掛ける人々により首都ミドルロックは大いなる盛況ぶりであったが、薔薇騎士団の士気はドン底であった。


「よもや、オーストロシアの連中がここまで馬鹿だとは……」

「馬鹿ですな」

「馬鹿とはなにか。馬鹿とは」


 薔薇騎士団から助っ人の依頼を快く受け取ったオーストロシアのウィンター将軍であったが、助っ人外人として訪れたのはその本人であった。


「わたくしがお願いしたのは『ヒメノ姫の婿候補になるような独身で、オーストロシアで最も強くてカッコいい男の人』でしたのに」

「ワシつよい! ワシ最強! ワシカッコいい。ワシ独身! つまり、この武闘会にはこのオーストロシアの征夷大将軍たるこのウィンター将軍がでるのが最適ということは自明であるだろう!」


 ガハハー、と笑うウィンター将軍。

 その他オーストロシアから一緒にやってきたウィンター将軍お付きの将兵がそれを囃し立てる。


「ヨーコ。俺はなんだかとても頭が痛いのだが」

「あれ? オーカ、僕もなのです」


 いまさらやめろとも言えず、サクラ達は頭を痛めるしかなかった。


「だいたい、ウィンター様には今、ナタリー女史が付いていらっしゃるハズなのでは? それを差し置いてこんなお遊びに来るなんて……」


 ちなみにナタリー・ヴォルケイノ女史とは、薔薇騎士団が攻略したエアーズの岩砦で補佐官をしていた人物であり、今現在はウィンター将軍の腹心のような立ち居地の存在だ。


「ナタリー補佐官とはいきなり結婚とかにしてしまうと、エアーズ岩砦で敗戦した責任のかわり、ということで無理やり貸しを作って引き込んだように見えてしまうからな。まずは箔付けのために地方にナタリーの親父と共に今地方でお留守番状態だ」

「結局は左遷じゃねぇか。名目上とはいえ、俺の義理の妹なのに」

「多少は懲罰人事がないとなぁ。ところでそれ、誰のせいだ?」

「――」


 ヴォルケイノ姓は魔術師オーカ・ヴォルケイノと同じであり、オーカが名誉貴族になるため養子に入ったことにされた家でもある。したがってナタリー・ヴォルケイノはオーカの義理の妹という立場だ。だがそれはオーストロシアがオーカの後ろ盾となるための書類だけのものであり、面識は2度だけだ。1度目はエアーズの岩砦で、もう1度目はオーストロシアの王宮だ。


「しかし、いきなりの武闘会なのに結構観客の人、多いですね」

「世界各地から優秀な人材が集まっているからね。見たいという人は多いだろう。それに姫様の嫁探しというエピソードも加われば」

「それだけヒメノ様の人望が厚いということですかね」

「人望が厚いというか、王族の婿様の地位が得難いというか――」

「ま、優勝してすぐさまどうのということはないであろうが、ワシも狙っておるぞ」

「いい年して狙わないで頂きたいわ」


 武闘会に出場する武術家は、いまやほとんど助っ人外国となっており、唯一自国選手は鳳凰騎士団からの参加者のみという有様。


 このような武闘会で詰め掛けた地元民が応援するのは自国民に集まるというのは人情というもの。鳳凰騎士団の株が上がるのも仕方がないということだろう。

 1回戦の対戦相手はその鳳凰騎士団の若手であった。

 なお、若手(わかて)であって決して岩手(いわて)ではない。


 早速対戦することになった彼ら。


 闘技場内での戦いの観戦者はアーカンソーの地元住民だけではなく、騎士団の面々や外国勢からも人が押し寄せており、かなりの熱気に包まれている。それを貴賓席で観覧する王族陣。会場の外にさえ相当に多くの民衆が詰め掛けている。遠くからではあるが見ることは可能なのだ。さらにその周囲には露天などが並び立つ。


 ウィンター将軍はコブシを突きあげると、それを貴賓席のヒメノ姫に向けた。


「ふはーははは。この戦いに勝てば、その勝利をアーカンソーが姫、ヒメノ様に捧げよう。どうだね。我のものになる気はないかね」

「ほざけ。オーストロシアの手に姫を委ねるわけにはいかんな」


 ウィンター将軍の売り言葉を若手の騎士が買って答える。

 一連の流れに民衆からは若手に声援が送られ、ウィンター将軍にはブーイングが巻き起こった。

 ウィンター将軍。完全に悪役筋脳である。


 この手の武闘会では剣術が主体ではあるが、その異端であるウィンター将軍は徒手空拳の拳戟(けんげき)魔術の使い手として知られている。

 対する鳳凰騎士団の若手はオーソドックスなブロードソードの使い手だ。さらには精霊魔術も嗜んでいるようだ。


「アーカンソー鳳凰騎士団が第3師団副長。アージ・ティート、参る!」

「ワシはオーストロシアが最高位である征夷大将軍! 受けて立とうではないか!」

「いざ尋常に、勝負!」


 精霊魔術といえば先制で≪戦いの火豚(ファイヤー)≫の魔術を剣士に放ち、それを切って落とすことで戦いの開始とするのが慣わしだ。


 若手が慣例に従い、≪戦いの火豚(ファイヤー)≫を放つがウィンター将軍はその炎をまるで山形県旗を模したような山がガタガタするような素早い動きでかわし、一気に攻撃に転じる。

 若手は間一髪それを避けると剣を横なぎに払い、ウィンター将軍を引き離した。再び止まる彼ら。それは一瞬の間。


「ふん。これこそが、ワシがこの戦いのために新規開発した拳戟(けんげき)魔術、新・山潟拳(しん・やまがたけん)だ。これをかわした相手はお前が初めてである。光栄に思うがよい」


(それは山形なのか新潟なのかはっきりしろよ)


 魔術師は観戦しながら思うが、客席からでは闘う2人の世界に入っていくことはできない。


「新規開発ということは、それはつまり一度もまともに受けた者はいないのではないのか?」

「ふっ。そうとも言うな」

「冷静な顔で言っても事実は変わらないぞ。では今度はこちらか行くぞ!」


 派手に剣を振るう若手騎士。


 だがそれはウィンター将軍に見切られガタガタした動きによって華麗にかわされていく。

 山が超絶にガタガタする姿を形象する、まさに丘の陸船を体現したかのような山形拳(やまがたけん)に、新進気鋭の新しい型である新潟拳(にいがたけん)の融合技。それをヒストリカル・ブラックのサポートなしに繰り出すウィンター将軍。それはまさに破格の強力さを持つのであろうが、結局なにが言いたいのか意味が分からなかった。


「くそッ ちょこまかと!」

「まさにその姿、風林火山といってもよいだろう!」

「その山、ガタガタ動かないから! びくとも微動だにしないから!」

「さて、そろそろ本気を出すとしようか」


 若手の剣をかわし続けたウィンダー将軍は、繰る返される剣戟のため肩で息をする若手に一転して襲い掛かった。

 それは今までのようなガタガタするような動きではない。


「なんだと!」


 それは今では滑らかな軌道を描いている。

 それは四十八都道符拳が一つ。


静岡拳(しずおかけん)!」


 ウィンター将軍が叫ぶ。

 それはまるで名産のウナギのようなにょろにょろとした軌道を描く体術だ。

 防御不能の軟体攻撃が何匹も何匹も若手に突き刺さる。

 突き刺さった攻撃はまるでパイ生地のように硬かった。


「こ、これが静岡名物! ウナギ○いなのかーぁぁぁ!!」


 若手は崩れ落ちた。


「というか、なんで俺の四十八都道符拳をウィンター将軍が使っているのだよ!」

「ふっ。魔術師。これがカニカマ1個のチカラというものよ」

「ヨーコ。もしかしてまた買収されているのかよ!」

「ん? なぁにぃ?」


 魔術師の隣で、おいしそうにカニカマをはむはむと頬張るサクラと妖狐の姿がそこにあった。


「ふ。ウィンター将軍」

「なんだね魔術師」

「俺にもちょうだいな」

「部下のものに手配させよう」


 いやぁ、7のチーズ入りのスティックのやつが美味いんだわコレが。


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