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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
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くっころの女主人の使い魔(おきわな

ちょい遡ります。魔術師サイドです。

 アーカンソー王国の南外町、そのはずれた郊外――


 小さなほったて小屋の中央に、小屋に似つかわしくない魔方陣が描かれていた。

 その魔方陣は淡い血色の光を鈍く放っている。


 その魔方陣を描いた魔術師の、最後の肉親だった母が死んで早3ヶ月。

 彼――魔術師の男、オーカ・スターシーノはすぐにでもこの術式を試してみたかったのだが、葬儀を済ませ働きながら陣召喚に必要な血魔光液などのアイテムを集めるのにここまでの時間が掛かってしまっていた。


 今、魔術師の手元に残っているものはこの小さな家と1冊の魔導書「黒の歴史書」だけだ。


 母が使わず必死に守ってきた魔の書物。

 冒険者だったかつての母がダンジョンで見つけ、あまりの強大な力に封印をした禁書の一冊。

 だがその母はこの魔の書物を自身が死んだら彼には自由に使ってよいと言う。――破滅を望むならと。

 その黒い表紙の禁書は、ほのかに鈍い魔の力を放ち続けている。


 破滅――。良いではないか。


 精霊魔術は母から学んだ。しかし結局のところ、基本魔術を習得した程度の実力だと魔術師は考えており、事実、応用というとなかなか難しい程度の人間である。コネもないオーカにとって、このレベルでは出世は難しい。そして魔力量もたかが知れており、華やかな宮廷魔術師はおろか冒険者として生活しても中の下くらいで終わるのが関の山だろう。

 今は魔術で生計を立てていて食うには困らない。そして老いても魔術さえあれば体力的な問題は生じない。だから死ぬまで食うに困らず生きることは可能だ。


 食べて、仕事をして、寝る。だがそこには楽しみもなにもない。


 こんな生活をこれからも続けて死ぬのか。平凡な人生でよければそれでも良い。物語の枢軸たる主人公になりたいと思わなければ。

 それとも、一旗立てて歴史に名を残すほどの偉業を残したいのか。最後には悲惨な運命を辿り死ぬことを覚悟さえすれば。


 魔術師として、男として、一体どちらで生涯を終えたいのか。


 この結論は、すでに魔術師の中で出ていた。

 その結果が、目の前にある魔方陣である。


 魔術師オーカは今、その人生最大の、そして始めての超高度魔法を使おうとしていた――


「さぁ、いでよ! 強大な魔術の罠により囚われし美しき魔女よ! ≪南国≫沖縄拳(おきわなけん)!」


 魔術師は正面に浮かび上がる奇妙な南北に細長い地形から、最南西の地域をクリックした。


 そう、ヒストリカルブラック、四十八都道符拳で最初に魔術師が試みようとしたこと。


 それは女だ。


 求めるは永遠の美貌を持つ魔人。

 そして使い魔として好きなことをする。

 そう、この魔方陣をオオきなワナとして召喚魔法を試みたのだ。


 最初に魔導書を用い召喚するのは女。

 最後に破滅が訪れるのであれば。

 どうせならば、徹底的にゲスに生きてやる――


 魔力を注ぎ続けると数分もしないうちに魔方陣に変化が現れる。

 だが、出てきたものは思っていたような女ではなく、少女であった。

 銀髪のかわいらしい狐耳としっぽを持つ妖狐であった。が――


「おっかしいなぁ。俺は美女の魔人を召喚したはずなんだが――」


「僕は美人さんですよ。分からないのです?」


「俺の嗜好からすると、ちょっとなぁ……」


 いかんせん魔術師の趣味からは見た目の歳が若すぎたのだ。

 異世界の巫女服と呼ばれる純白のドレスを身にまとう妖狐。

 それは幼女(ロリ)といっても良い容姿であった。


「そりゃ、魔人で召喚陣したからのでは? 僕はそれなら美人の人型魔物を対象にして召喚すれば良かったのだと思うのです」


 魔術師は知らなかったが、魔族にも魔人と魔物の違いがあり、昔と違って魔王に連なる魔人は彼女しかいないそうだ。

 魔術師はその魔人たる妖狐に次々とダメだしをされる。


「それにー。この魔方陣良く見たらちょっとどころかかーなり違うじゃない。ここは+ではなく#にして、ほら、ここも! 6じゃなくて9だよ」


「おぉ、すまないすまない」


 言われた通り魔方陣を補正していく魔術師。

 確かに魔方陣が強化されているようだ。


「それから! おっきい罠じゃないのです! おきなわ! 縄なんです。縄!」


「へぇ、縄かぁ…」


 魔術師は縄を持ってきた。

 これも当然普通の縄ではない。


 魔術師が運搬の仕事に使う魔法の品。それも屈強な大地のゴーレムが荷物の運搬に使っても簡単には外れないように強化した荒縄だ。


「そう、それです」

「なわの使い方はこうだよね」


 魔術師は荒縄を使い、ぐるぐるとヨーコを巻いた。

 なぜそんなものがここにあるのか。

 それは当然、何かあったときのために縛るためだ。召喚したモノを。


「そうです! 縄はそうやってぐるぐるとー。って、いや~ん! 放してー」


 それは普通に魔法の拘束具だった。

 歳の頃では14-5歳にしか見えない妖狐は魔方陣の上で暴れるが動けないでいる。


「出会ったばかりの妖女をいきなり縛るとか、なにこの鬼畜魔術師はー。しかもなにこの魔方陣。組み替えたら意外に強力――。さすがヒストリカル・ブラック――」


 いや、それ自分でやったんだろう。

 魔術師は頭の中で突っ込みを入れた。

 かなり頭は悪そうだが、自分の使い魔にするならこのくらいで丁度良いだろう。変に頭が回られて裏切られても困るし、と魔術師は思い直し、当初からの目的を切り出した。


「ならば開放してあげてもいい。俺の使い魔になってくれるならば、だけど」


 魔方陣で呼び出した対象と契約する。それが召喚魔術の基本。俗に言う召喚契約だ。

 だが、それに対して妖狐は悔しそうな表情を浮かべる。


「ぐぬぬ、でも僕はすでに契約済みのポンコツなので無理なのです」


 ならなぜ召喚に応じたと――。と魔術師はさらに頭の中で突っ込みを入れたが、魔人は彼女一人しかいないことを思い出す。

 ならばと魔術師は考える。ならば次の手段を考えるまで。


「つまり、NTRすればよいと?」


 魔術師はどこまでもゲスであった。


「NTR――、いったい僕に何をする気? さすがに僕は襲われてもマスターの騎士団みたいに、辱めを受けるくらいなら死んだほうがましだとかいいつつ『くっつ、殺せ』みたいなことは言わないけどぉ。えっちなことはいけないのです!」

「えぇーっと、3食昼寝付きとかどうだろうか? 俺も仕事があるからそれ以外だったらお話でも何でも付き合えるし自由にしてやろう」


 とりあえず魔術師は食べ物で釣ることにしてみた。

 魔人に食事が必要なのかという問題はこの際、部屋の隅にでも置いておく。


「ぐぬぬ。それはなかなかの好条件なのです」

「こう見えても少しは稼いでいるからな」


 魔術師の本来の仕事は精霊魔術を用いた大地のゴーレムによる土木工事。つまり日雇い労働の人足ではあったが、使役する大地のゴーレムは通常の人間の3倍の力があるため、裕福ではないがそれなりの収入があるのだ。


「それに週一回、どこかに連れて行ってやる」

「なかなかにそれはいい物件ですね」


 どうだろうか? しばらくこっちにいないかね。仕事場は男ばかりで女の子と話すとか、なかなかないからな。君がいると楽しいよ。

 などと魔術師はゲスな思惑は置いておいき、少女の妖狐に甘い囁きを呟く。


「ぐぬぬ、僕のマスターからは見聞を広めろといわれて来ているのでそれは良いかもです」


 考え始めた妖狐。

 よしあと一息で落とせると魔術師は思った。


「なんなら、ときどき美味しいものも食べさせてやれるぞ。アイスもつけちゃうぜ」

「ぐぬぬ。アイスであれば仕方がない。契約済みだけどちょっとだけここにいるのも良いかも……」


 魔術師は妖狐との交渉に勝ったのだった――

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