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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
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王都招聘(ふくおか(前編

「ふぅ、死ぬかと思った……」

「シルバーナはもう少し反省しなさい。敵に見つかり虜囚になるなど。本来であれば何をされてもおかしくはないのだから」

「はぁぃ……」


 薔薇騎士団の本陣、シャーウッドの園。

 上司のシノにやさしく怒られているのを、サクラはほほえましく眺めていた。


「いやぁ、あれで駄目だったら後はヒロシマとかナガサキとかフクシマとかの超々破壊的な攻撃魔術で――」

「オーカ。そのネタは僕でもやばすぎるからどんどんしまっちゃうのです」


「しかし、これで終わるでしょうか?」


 不安そうに声を掛けるのはエルフのエルだ。


「どうでしょうね? 少なくともしばらくはちょっかいを掛けてくることはないのでは? 鳳凰騎士団の本拠地はあの通り壊滅状態だし、我々が手を出した証拠だってないし」

「ですが、あまりにもあからさま過ぎるのでは?」


 なにしろあんなブロンズゴーレムを一瞬にして動かすような魔術師など、いま想定できるのは一人しかいない。


「とはいえ心証からして確実とはいっても、物的証拠などなにもないもの。どうにでもなりますわよ」

「ですが……」


 妖狐を後ろから縫いぐるみを抱きしめるかのように抱いたサクラは、眠そうな声で答える。


「こちらにも言い分はあるし、シルバーナから例の話も聞いている。こちらも物的証拠はないのだけれど、今回の話を鳳凰騎士団の殿方が言うのであれば、わたくしは最初にわたくしを鳳凰騎士団が捕らえようとしたこととか、わたくしの未来のだんな様をオーストロシアからの帰りに暗殺しようとしたこととか、いくらでも蒸し返してやるわ」

「それにそろそろ、ミドルロックの方々が動き出すかと思います。こちらにも動きが」

「ミドルロック。王族派か――」


 告げるのは薔薇騎士団の第四職種部隊の長であるシノだ。

 同じ部隊のシルバーナに対して説教するのは後回しにしたらしい。


 アーカンソーは王族が収める首都ミドルロックとその周辺の地方貴族で構成される中堅国家だ。貴族の各地方領主がそれぞれ騎士団を有することにより外国や国内の魔物の対処を行っている。

 柔軟に敵に対応するため、各騎士団には多くの権限が与えられているが、その反動か暴走することの多い彼ら貴族を統括するのは王族だ。

 アーカンソー王国は他国と比較しいささか貴族の方が権が強めではあるが、王族としても近衛騎士団を有しており、数は少ないものの実力を持ったエリート集団がそれらに対して睨みを利かせていた。

 なぜエリート集団なのか。それは国内騎士団の中からえりすぐりの人材を登用しているからだ。


 要は引き抜きだ。


 近衛騎士団といえば王族を守る部隊であることから薔薇騎士団や鳳凰騎士団よりもさらに格式が高いものとされ、当然騎士各人の憧れの対象である。求められて否というのは責任感の強いものなど極一部だ。


「まさか、だんな様。近衛騎士団や宮廷魔術師に求められてここから出て行くとかはいわないわよね?」

「当たり前だろう。こんな可愛い嫁さんがいて出て行く馬鹿がどこにいるのかね? そりゃサクラに言われれば出て行くが。それに宮廷魔術師? ガラでもない」

「それはないわね。見ていて飽きないものだんな様は」

「そりゃどうも。だいたい俺は名目上庭師なのだから、騎士として勧誘されることはないだろうよ」

「だけれど、名目上はオーストロシアの貴族ではなくて?」

「あー、あったなそんな設定。すっかり忘れていたよ」

「しっかりしてよ。つい先日じゃないのよ」


 オーストロシアからの帰り。ウィンター将軍の命により、魔術師はヴォルケイノ姓を賜っている。養子縁組だ。

 納める土地もなければ税金も不要、しかし給与もない。

 名ばかりの形式貴族でしかないことは誰の目にも明らかだが、サクラとの婚姻にとっては強力な武器になるものだ。


「ともかく今日は寝ましょう。寝る途中だったからもう眠くて……」


 とりあえずその日はお開きになった。



「ということで申し訳ありませんが、ミドルロックからの使者から手紙が来ております」

「なにが申し訳ないかは分かりませんが、ミドルロックの王族派は何を言ってきたのでしょうね?」


 朝、エルから渡された封筒。

 サクラは封蝋を切り手紙を取り出す。

 それは王都への招待状であった。


「舞踏会へのお誘いね。1週間後。もちろん行くのだけれど、今回人選はどうしましょうかね……。エル。カーラ団長に一任して良い? あ、もちろんオーカは連れて行くわよ。未来のだんな様をお披露目しなくてはね」

「今回は難しい人選になりますね――」


 通例であればこの手の舞踏会には恋人を求める騎士や、既に相手が決まっていてかつそのパーティにその相手が出席する騎士を多数同席するのが慣わしである。貴族や騎士に花嫁を供給するという側面もある薔薇騎士団であってはこれらの舞踏会はこれまたある種の戦場であるといって良い。


 しかし、今回は勝手が違っている。

 あのオーストロシアを攻略したあと、さらに鳳凰騎士団と一悶着あった後なのだ。


「じゃ、わたくしはだんな様とデート――じゃなかった。わたくしはオーカにこのあたりを案内するから、後はよろしくやっといてね」


 などと証言しつつ魔術師を呼んで部屋を出ようとするサクラをエルは押し留めた。


「サクラ様。それはさすがに虫が良すぎるのでは。逃げないでください」

「分かった。ではこれは視察だ。シノ。我が騎士団がオーカに対し粗相がないように先回りして連絡を回せ」

「承知」


 突然天井から現れたくノ一のシノはサクラの言葉と共に現れると、再びスッと消えた。


「相変わらずシノ様は――」

「エル。君はカーラ団長に依頼を投げたら視察に付き合うのよ。わたくしも語れるほど薔薇騎士団のことを知っているわけでもないから……」


 サクラはエルにも逃げる手段を供給した。

 逃走を邪魔するのであれば仲間にしてしまえばいいのだ。


「それで行っていいかね。これだけ大儀名文であればさすがにエル副団長であっても覆せないわよね?」

「なるほど。拝命いたしました。主君」


 エルはとりあえず、カーラ団長に人選を丸投げすることに決めた。

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