急転(なら/しが/ぎふ(後編②
「これは厳しいですわね」
情勢地図を見ながらサクラは悩んでいた。
一方の魔術師は気楽そうだ。
「サクラ。なんでそんなに厳しい? ガッツで突撃すりゃぁなんとか。その鳳凰騎士団の本部とかにある建物類すべてぶち壊せば、どっかにいることは確実だろう?」
「だから、そんな国に対して喧嘩を売るようなこと出来る訳ないじゃないのよ」
「いや、それを言ったら薔薇騎士団単独でオーストロシア攻略する方がよほど国に対して喧嘩を売るような行為だと思うのだが」
「さすがにあれはお姉さま――王女ヒメノ姫には話を通しているわよ」
地方貴族、つまりは騎士団の勢力が強いアーカンソー王国ではお飾りの王族ではあるが、それでも情報の展開だけはしているようだ。しかしサクラにとっては王国の姫様がお姉さまか。貴族だから血縁関係でもあるのだろうか。複雑な貴族の人間関係を追うのはめんどうだなと魔術師は考えるのをあっさりあきらめた。
今はもっと別に重要なことがある。
「ならば、ならば得体の知れないブロンズゴーレムなんてどうか? 少なくとも証拠は残らないぞ、あからさまだが」
「うーん、それならば――」
サクラも、だんだんと魔術師や妖狐のノリに流されるようになってきた。
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「例えば――だな。金とかどうだろうか。金さえあればなんでもできるぞ」
オジ・サーマキーノは妖狐の説得に入る。
「お金かぁ……」
しかし、妖狐はなぜだかガッカリしたような顔をする。
オジ・サーマキーノは慌てた。金に興味はないのだろうか。
「ならば権力なんてものはどうだ? 騎士団の隊長は無理だが、副長くらいにはしてやろうじゃないか。部下も3人、いや10人は付けてやる。どんなことでも命令すれば従ってくれるぞ」
「権力ねぇ……」
しかし、妖狐はやっぱり興味がなさそうな声を返す。
「はっ、そうか! 食い物が良いのだな。前も食い物で転んだというし。満貫全席だろうがステーキだろうがなんでも食べさせてやる……」
「もう少し、女の子らしくはできないのかしら?」
しかし、妖狐の表情はダメだこれは、という感じでどんどん悪化していく。
「そうか? 女らしいといえば宝石とかドレスの類はどうだ。いくらでも好きなものを着せてやるぞ。そうだな。身長からいってドレス類は多少仕立て直しがいるかもしれんが」
「ふーん……。考えてもいいかなぁ。今の僕はチョロインって設定なのだし」
「おぉ。」
「だからちょっとぉ……」
「そこのくノ一は黙っておれといっておろうが!」
だけど――。と締めくくる。
「この結界陣。解除できるかな? もしオジ様が解除できるのなら、僕にできることなら1つだけ叶えてあげてもいいよ?」
「自分で解除できないので?」
「もちろんできるよ。魔力全開にすれば。だけれどそれをすると余波でこの娘が死んじゃうので」
「おのれくノ一め、どこまでも邪魔しおってぇ――」
「ひぃっ」
オジ・サーマキーノに凄まれ、くノ一のシルバーナは悲鳴をあげるが、むろん魔方結界陣に阻まれ彼女が物理的に暴行を受けることはなかった。
「ちなみにさらに全力だせば地域ごと破壊できます」
「それはやめてください」
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サクラと魔術師は空を飛んでいた。
「しっかし、サクラの魔術はすごいな。こんなチカラがあるなら騎士団いらなくね?」
「召喚術師 (Summoner)さんですわね。妖術系の幽鬼のチカラですわ。でもだんな様ならヨーコを召喚した時点でわたくしにこのくらいの実力があることくらいは知っていると思っていたのですが」
サクラと魔術師は今、大きなグリフォンに乗り、鳳凰騎士団の本拠地であるソドムトゴモラの上空をゆっくりと、そして優雅に大きく旋回していた。
「それもそうか。ヒストリカル・ブラックのようなチートな手段以外で、実力でヨーコを召喚したんだものな。確かにすげーよ」
グリフォンの背に跨る2人。狭い背中の上で2人は密着している。
操縦をサクラが行い、魔術師はその後ろで抱きついている格好だ。
サクラにとっては気恥ずかしいが嬉しい状況でもある。
同様に後方には暁の銀騎士、ヒラリー・ヴェネチアーノがグリフォンに跨って来てはいるのだがそれ以外の女騎士は来ていない。
今回は迅速性が必要との判断からだ。
「ちょ、ちょっと。頭を撫でないでくださいませ。ヨーコじゃあるまいし。子供じゃないのだから」
「子供だよ。ヨーコの実年齢と比べたら。それとも大人として扱われたい?」
「――せめて淑女として扱ってくださいな」
「あぁ、今度デートでもしようぜ」
「えぇ、でも今はそれよりもヨーコの救出ですわね」
「あぁ、あの魔方結界陣の魔力。ヨーコと同じ魔術的匂いと温かみを感じるな」
「魔術師用語だと魔力波動ですけどね。面白い表現ね」
「学がなくて悪かったな」
魔力が持つ波動は例えるならば指紋のように異なっており、腕の良い魔術師であるなら魔力波動をもって誰のものか特定することができる。
ましてやそれがずっと近くにいたものであればなおさらだ。
「そんじゃ、そろそろ逝ってみようか。本日の四十八都道符拳! 発進!」
「なにが出るかな――」




