くっころの騎士団はスタッフがおいしくいただきました
「ほらぁ、早く僕に魂を売ってよぉ。ねぇねぇ、早くぅー」
薔薇騎士団の優雅な午後。
魔術師が死んだフリをしたあの時以来、妖狐の魔術師へのアプローチはより激しいものになっていた。いちゃラブ度MAXである。
だが、アプローチの内容は魔族である妖孤に魔術師が魂を売り、死なないようにする契約を結ぼうという恐ろしいものであった。
なお、サクラと妖孤が結んでいるのは召喚魔方陣によるサクラの妖力を用いた妖孤の隷属化、いわゆる召喚契約である。方向性としては、魔族から人へ繋ぐのではなく、人から魔族へと繋げるもので、死ななくなるといったメリットはない。
「いやだよ、そんな得体の知れない」
「えぇー。だめ? ですかぁ?」
「そんな媚びてもダメです」
「だからこの前も説明したでしょう、ちょっと死ななくなるだけだって。正確には死んでも生き返るだけどぉ。ほら、僕はあの時みたいにオーカが死ぬのをもう見たくないのです。死ぬなら安心させて逝って?」
「なにそのアンデッド。だからだめだよ」
ここは薔薇騎士団の本陣である薔薇の園だ。
大きな庭がありいろいろな花を愛でることができるテラスである。
薔薇騎士団の創立の目的として女性の文字通り軍事的な意味での戦力化というものもあるが、それ以外にも軍事や集団活動を実践することを通じて夫の騎士や貴族の大変さを知ること、女性らしい社交性を身に着けるといったこともある。
したがって訓練の中にはテラスで優雅にお茶を飲む、ドレスを可愛らしく着る。可愛らしい仕草でなみいる男どもを悩殺する。なども含まれている。そして女騎士の多くは一部の例外を除き入団後2-3年で寿退社していく。これらの「訓練」は彼女達にとって主戦場といっても良いだろう。
だからこそダンスホールやプール、温泉、マッサージ機、冷蔵魔術の掛けられたコーヒー牛乳瓶の収められた冷蔵庫、ヘアサロン、などなど騎士団には似つかわしくない施設が薔薇騎士団本部には多く存在した。このテラスもその一つだ。
このサクラ主催のお茶会は定例のもので、団暦の長い主君の護衛も兼ねているエル以外は四職種部隊の持ち回りである。
そこには魔術師、妖狐の他、主君であるサクラ、エルフの女騎士エル、強襲隊のメールがいる。彼女らは談笑にふけり、多い思いの優雅なアフタヌーンを決め込んでいた。
だが、彼女らは今も繰り広げられる妖狐の暴走に辟易していた。
――それは魔術師もだ。
「オーカがもし魂を売ってくれたらその対価になんでもしてあげるからさー。魂を売ってよ。ぽぽぽぽーん!」
「ふーん。じゃぁ具体的にヨーコはなにをしてくれるんだい」
「たとえばー。この世界を滅ぼして新たな世界で僕たちは再出発するのだとかぁー。世界創世、最強で枢軸な魔術師になるとかどーぉ?」
「……。ヨーコの実力だったら普通に実現できそうだからそのネタやめろ」
「きゃうん」
妖狐は魔人である。無限蔵の魔力があればおそらくできないことはないだろう。
魔術師は漫才の要領で妖狐の頭をひっぱたいた。魔術師なぜか手にサクラのスリッパを装備していた。妖孤は可愛らしい悲鳴をあげる。
「あ、ここの騎士団の女の子全員に魅了の魔術を掛けてハーレム作るとかどう? オーカって結構ゲスいでしょう? サラダバーもびっくりの食い放題なのです」
言われ、魔術師はエルとメールをちらりと眺める。
彼女らはぶるりと身を震わせた。
エルは美しい金色の髪を持つ、可愛らしい女性だ。いつもの緑系統の防具からドレスに姿は変わっているため、よりエルフらしい華奢な体つきにも見えるが、訓練を積んだ筋肉は引き締まっている。
メールの方も薔薇騎士団の標準装備であるプレートメールから身体の曲線を強調した赤いドレスに替わり着こなしている。とくに強調されているのはドレスから谷間の見える大きな胸だ。普段プレートメールに隠されているものが見えていることでそのギャップは非常に萌えるものがある。
どちらも綺麗どころである騎士団の標準以上、いやトップクラスの可憐さを有していた。
「いやいや、食わねぇから。大体俺だって嫁のいる前だったら空気読むよ」
「いなかったら?」サクラが笑いながら質問する。
「うーん」
悩み始める魔術師。それを見たメールはいきり立った。
「そこで考えるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんなメールの姿をエルは鼻でくすりと笑う。
「エル! なにが可笑しい。我ら騎士団全員の貞操の危機なのだぞ。この前、私はこの魔術師になにか臭くてねばねばしたものを塗りつけられて大変な思いをした。エルも、騎士団がそんな目にあったらどうするというのだ」
「はは、メール。あなた興奮しすぎ。こんなの撃退するのなんて簡単よぉ?」
「何?」
メールは立ち上がると魔術師の傍に寄り、しゃがんで魔術師のあごに人差し指を当てる。
「ふふふ。ヨーコ。そんなことしたらこの魔術師、NTRしちゃうぞ?」
「おぉぉー。いいねぇ」
「うわぁぁぁ。ダメです、ダメなのです! 騎士団をチャームする計画は無しなのですぅ!」
あわてて否定を始める妖狐。
さすがちょろいん。妖狐をやり込めるのは結構簡単だった。
「ほら? このくらいはやらないとダメなんだからね?」
「いや、さすがに私には主君の婿殿をNTRするような勇気は……」
それらをジト目で眺めるサクラがさらに追い討ちを掛ける。
「だんな様。さすがにわたくしもヨーコにだんな様の魂を取られるわけにはいけないので、助け舟をだしてあげましょうか?」
「お。さすが。うちの嫁さん。助かるけどこの状況でどうやって助け舟?」
「簡単ですよ。ヨーコに、『そんなこというヨーコは嫌いになっちゃうぞ』って言えば」
「なるほど。ヨーコ。そんな魂を売ってくれとかいうビッチなヨーコは嫌いになっちゃうぞ」
「うわぁぁーん。やめてぇぇ。嫌いにならないでぇー。ちなみにビッチなのはそこメールちゃんだからぁ」
「な、なぜに私」
ヨーコはやはりちょろいんレベルで撃退された。
メールはそんな2人の上司に尊敬の眼差しを向けるのであった。




