くっころの騎士団と死んだはずの魔術師(しまね(後編
「くふぅ、あぁ……」
サクラの足担当となった猫耳族のドーラが素足になった少女をこしょこしょとくすぐる。
エルフの女騎士、エルはおなかと脇担当だ。
「ほら……、ここがきもちいいのでしょう?」
「あっ。わたくし、もうダメぇ……」
服を脱がし、時々甘い声とともにサクラの耳に息を吹きかけながら少女の快楽を探っていく。サクラはまるで孤蟲の壷に入れられたかのようなもぞもぞとした感触に身悶えざるをえない。
これが、空中庭園≪砂丘≫トトリーで行われた人類の存亡を掛けた戦いだった。
自分の意思に反し、無理やりにこんな快楽に身を委ねるくらいなら、いっそ――
そのような思を胸に、サクラは用意したキーワードをついに口にする。
「くっ…。殺せ」と。
「あぁーん。もうやめてー。やめてよー。そんなことされていたら世界殺せないじゃない」
すると≪瞬間転移≫してきた妖狐。
息を切らし快楽に身悶えする妖孤をエルが捕まえるのは簡単だった。
「たかが男一人くらい死んだからといって、世界まで滅ぼすとかやりすぎよ!」
「たかが男だって! オーカは僕のものなのです。それにキミのものでもあるだろう? こんな世界なんて、なくなってしまえばいい」
「そんなわけにはいかないわよ。世界にはアーカンソーが、そして私の騎士団があるのだから。それにヨーコなら生き返らせる手段とか持っているんじゃないの?」
「僕は万能の神ではないのです! むしろ魔王なのです! そりゃ考えはするけどさ。だけど回復魔法は使えない、聖戦は間に合わない、魔王としての魂の売買契約もしてくれない、どうしろと!」
「そこに魔導書があるじゃないのよ」
「ヒストリカル・ブラックが? こんなものくっだらねーことに使えないただのゴミじゃないか。このアジア世界の人間なら知らないのかもしれないが、この黒の歴史書は単に読書に媚びるために作られた、単なる受け狙いの黒歴史なのです。数年立てば全てを葬り去ろうと思ような――、そのようなものにー―」
「チカラに貴賎などないわ!」
サクラは言い切った。
「いくら女騎士ばかりだろうが、くっころ騎士団だとか周囲に揶揄されてバカにされようが、わたくしの騎士団はチカラですわ。どんなチカラだって貴賎はない。であるなら例え黒歴史の書物であるかといって――」
「チカラはチカラか。たしかにこの薔薇騎士団にはお似合いか……」
妖狐は考え始める。
死を復活させ、かついまだ使用していない四十八都道符拳を。
「死・死・死、四国?」
考え始める妖狐。
もはやサクラの出番はない。
「いくら死とはいえ、えっ姫?
こ、これじゃ姫様しか助からないじゃん、
し、し、し、で始まる都道府県?シズオカ? シマネ?
そうだ、しまねだッ! ありがとうサクラ愛してる!
これならもしかして!」
妖狐は馬車やサクラ、エルごと殺しのあった現場へと≪瞬間転移≫を行い、大魔術を放つ。
それは四十八都道符拳が一つ。
「島根拳!」
妖孤が大地に打ち込んだ小さな拳の魔力が破壊された大地を蹂躙し、さらに奥底へと広がっていく――
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――かつて、読者の笑いをとるだけに生まれた恐るべき暗殺拳があった。
その名を四十八都道符拳。
――それはありとあらゆる事実を覆し、あるべきものをあるべきならざるもの、なかったものをあったかのようなものにする事象改変の力。
その発動基準はただ一つ。
『ネタが面白そうかどうか』
そんなお笑い系の技。いま発揮しなかったら、今度はいつ発揮するべきというのだろうか。
倒れ伏していた騎士団の女騎士達は死んだハズだったのに装備まで再生している。
なんだってー、と思われるかもしれないが、彼女らは死んだわけではない。ただ死んだ振りをしていただけだったのだ。
「あー。死ぬかと思った(笑」
「オーカ! オーカぁ!」
崩れ落ちていたはずの魔術師はぴんぴんに目が覚めていた。
それは全米で勇名を馳せる戦士チャックもびっくりの復活劇だ。
「もぅ驚かせないでよぉ」
「ごめん、ドッキリなんだ」
魔術師も実際に死んだわけではない。
魔術師はクロスボウで襲撃されたが、さらなる襲撃を恐れ死んだマネをしていただけだったのだ。
真実が亡き者にされ、強引に書き換えられる数々の事実。
そんな妖狐と魔術師をサクラは複雑な想いで馬車から見つめていた――




