この章で主人公が死にます(とうきょう(後編
矢は放たれた。
休憩のため馬車から降りたその瞬間、クロスボウの凶弾に倒れる魔術師。
「キャー」
飛び交う悲鳴。
「周囲を警戒!」
「アソコだ! 捕らえろ!」
「ル、ルーミートに生き残りがいたのか!」
あまり警戒していなかったところに突然の襲撃で浮き足立つ女騎士達。
「オーカ! オーカぁ!」
真っ先に駆け寄る妖狐。
少女である妖狐にとっては重い身体であるオーカをむりやり引き起こす。
無理やり魔力で刺さった矢を引き抜いた。
そして矢にご丁寧にも毒が塗られていることに妖孤は気づく。
このままでは助からない。
「サクラ様! 他にも敵兵がいるかもしれません。今馬車から出てはなりません!」
エルは馬車からいまにも飛び出さんとするサクラを捕まえて強引に馬車の中に引き戻す。
「で、でもヨーコは――」
「主君はなにがあっても死んではならないのです!」
エルは無理やりサクラを椅子に押さえつけた。
「オーカぁ、返事してよぉ。オーカぁ」
涙声の妖狐はぺちぺちとオーカの顔を叩くが反応が薄い。
「誰かぁ! 誰か回復の魔術を使える人はいないの!」
妖狐は周囲を見回す。
しかし現世界での回復系の魔術は極一部の上位系の神官のものであり騎士団の中に使えるものはいなかった。
「聖戦モードは間に合わないし……、意識さえ戻れば――」
妖狐は魔術師の身体を何度も揺さぶる。
「ゆ、ゆらさないでくれ……」
「オーカ!」
それに対して反応したのか、魔術師はゆっくりと目を開いた。
ごほごほと咳をする。
その咳には血が混じっていた。
「オーカ! 僕と――僕に魂を売って魔王の徒になって! そうすれば、そうすればオーカは死ななくなるから!」
「はは、だめだよ。そしたらうちの嫁さんとヨーコとの契約が切れちゃうじゃないか?」
「違う! その契約じゃくなくて――」
「頼む、俺の嫁さんを守って……、くれ……」
「嫌だ! 僕じゃない! 君が、オーカが守るんだよ――」
魔術師は死んだ。
それとともに魔術師の懐から崩れ落ちるヒストリカル・ブラック――黒の歴史書。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。お前らぁ! お前らはわぁぁ!!! たかがNPCやMOBの存在でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
妖狐は完全にキレた。
魔王がキレるということ。
それは、この世界の歴史の終焉と同義語であった。
妖狐は落ちた黒の歴史書を拾い上げ、手にしたページを紐解く。
魔術師よりも圧倒的な魔力の本流。この世界のあまたの神々をも滅した強大なる力。
「やっと、やっとだよ。僕を好きだと言ってくれる人に出会えたのに。だというのにぃ――。この世界は――、もう一度滅ぼしてやる! いでよぉぉぉ! 東京徒拳!」
それは四十八都道符拳が奥義の一つ。
東京を中心都市とした東京徒手空拳、埼玉拳、千葉拳、神奈川拳の1徒3拳を使った超位大規模破壊魔術が、世界に染み渡るように広がっていく。
まずアイサツ代わりの千葉拳。
そして絶対に敵うことがないと絶望を撒き散らす神奈川拳。
最終兵器たるサイタマはどんな敵でも一撃で倒す。
そして、日本で最大の人口を誇る、眠らない都市トーキョーがまさに昼夜を問わずして世界を侵食していった。
薔薇騎士団はもとより、世界が光になっていく――




