この章で主人公が死にます(とうきょう(前編
鳳凰騎士団本部。最上階――
「おのれぇぇ! 騎士団の誇りというものがないのか、薔薇騎士団の連中は。なにが『蜂の罠作戦』だ。いまいましい」
オジ・サーマキーノはオーストロシアと薔薇騎士団との戦闘の報を聞きながら怒りに煮えくり返っていた。
「確かにオーストロシアの兵士どもがいくら屈強であろうとも、女の武器によって骨抜きにされてしまえば全面降伏もやむなしというところ。北風である我々では脱がすこと敵わぬとても、太陽での前では服を脱いでベットにダイブせざるを得ないということでしょうかな。いわゆる全裸待機というやつです」
笑いを堪えられない様子の老騎士にオジ・サーマキーノは怒鳴りつけた。
「笑っていないでなんとかしろ! このままでは我が鳳凰騎士団の評判も地に落ちてしまうぞ!」
「別にその程度、良いではありませんか。要はアーカンソーが発展すれば良いのです。薔薇騎士団がオーストロシアの後ろ盾を得た。アーカンソーにとっては喜ばしいことでは?」
「それが気にいらんといっておるのだ!」
今までどちらかといえばエクスカリバー王国を筆頭として、ユナイテッド王国、カリフォーニャ王国といった諸王国とともに反オーストロシア側の陣営であったアーカンソー王国。でなければ戦いを吹っかけたりなどしない。
エアーズの岩砦や有機カリの森があったおかげで今までほとんど交流がなかったオーストロシアとアーカンソーだが、その障害が取り除かれ交流が盛んとなったとき、その他諸王国からはどう見られるか――
「だいたい、薔薇騎士団を滑るサクラ殿に『オーストロシアの降伏を条件に婚姻を認める』と発破を掛けたのはオジ様。あなた様なのですから。薔薇騎士団が帝國側、我々の鳳凰騎士団の軍事力が諸王国側に立ち、オジ様の政治力でバランサー外交を仕掛けることが最善と思われますが?」
「バランサー外交だと!? そんなものできるわけがないであろうが! それができるのは自国が相当な大国であるような場合だけだ。我がアーカンソー王国はカリフォーニャ王国と同程度かそれ以下の中堅国だというのに。だいたいオーストロシアは降伏したとはいえ、それは女の尻に敷かれてみせたというだけで、まったく軍事的には降伏はしておらんし、そのチカラも減じておらんのだぞ! は、はやくなんとかしなければ……。誰か! 誰か意見のあるものはおらぬか」
周囲を見渡すオジ・サーマキーノ。
報告を挙げた若い騎士がここぞとばかり発言する。
「ならば――。薔薇騎士団とオーストロシアの中を切り裂けばよろしいのでは?」
「ほう?」
「薔薇騎士団を無力化すれば良いのです。例えばその主君、サクラ様を襲い害するとか、精神状態を普通でなくするとか」
「だめだな。さすがに王国貴族を殺めるのは俺でも許さんぞ? この前のように善意から捕まえる程度であればなんとでも言い訳は付くのであろうが」
「ではその婚姻を求めている魔術師というものは? そやつは貴族でもなんでもないではありませんか」
「ふん。全ての悪の枢軸たる魔術師のことか。そうだな、たとえばその魔術師がオーストロシアの者の手で殺されたとなれば、サクラや薔薇騎士団がオーストロシアをどう思うか、だな」
オジ・サーマキーノは満足そうに頷く。
「だができるのか? その男、相当な腕の魔術師と聞くぞ?」
なにしろエアーズの岩砦を簡単に破壊した男だ。
しかもヒストリカル・ブラックである黒の歴史書を有している。
一筋縄ではいくまい。
「確かに魔術において我々では勝てる見込みはありません」
「ではだめであろう」
「しかし、格闘ではオーストロシアの兵に敗北したとの情報も入っております。残念ながらそれで死にはしなかったようですが――。レベルを上げて物理で叩くのであれば我々に武があります」
誇らしげに語る若い男性騎士。
彼はかなりの武闘派だった。
「それで方法は? もちろん我が鳳凰騎士団が係わったことなど知られるようなことはあってはならんぞ」
「私にお任せください。暗部を少し貸していただければ。」
「よし、成功の暁にはお主を二階級特進させ、幹部として取立ててやろう」
「ありがたき幸せ!」若い男性騎士は笑みを浮かべた。
「では下がれ」
「はっ」
若い男性騎士が去った後、老騎士は暗い瞳でオジ・サーマキーノを眺めた。
「しかし2階級特進など、オジ様は本当にお人が悪いですな」
「もちろん、我が鳳凰騎士団が係わったことなど知られるようなことはあってはならないからな」
二階級特進とは、アーカンソーの古い兵士達に伝わる隠語であり、それは遺族に特進後の褒章を取らせることを目的に功績顕著な戦死者に与える、いわば処刑宣告であった。




