愛を知るもの(もうだめだ
そして宴もたけなわとなった夜。
「オーカ殿。ここは余興として一戦交えてみないかね」
ウィンター将軍は最後に爆弾を魔術師に持ってきた。
顔が引きつるサクラ。周囲も同様だ。
「ご冗談を。俺は魔術師。純粋な武闘家に勝てるわけがありません」
「聞いているぞ、お主の使う魔術の術式は四十八都道符拳だと。いわば拳戟魔術の一種であろう。ワシも拳戟魔術はいささか嗜んでおる。実践するのも良いではないか。それに――やられっぱなしというのも気に食わん」
いわばそれは、ウィンター将軍のメンツというものであろうか。
ウィンター将軍は歴代の≪冬の≫を拝命した将軍がそうであったように、かなりの筋脳だった。
「ならば全霊を持って相手をいたしましょう。しかし、お死にになられても知りませんよ」
周囲がどよめく。
ウィンター将軍の強さはオーストロシア全土の民が知っているところだ。
だが、一部の将兵は今回魔術師が何を起こしたかも知っているのだ。
どちらが勝つか負けるか分からないが、この2人が戦えば何がおきるか分からない。
もし戦ってどちらかが死ぬようなことになったら、一気に関係の悪化が発生することは、誰にでも想像ができることだ。
「それなら大丈夫なのです。僕が戦闘で死んでも生き返るように聖戦モードを発動しておくから!」
妖狐は戦闘の安全性のために場所に結界を敷くようだ。
死なないように。それは本当に全力を出した戦いができるということ。
将兵たちは見てみたい気にもなった。が。
「なにそれ怖い」
しかしそれは魔術師にとっては恐怖にしかならない。
妖狐は太鼓判を押すが、魔術師は「しなないように結界」ではなく「死んでも生き返る結果」という言葉に生理的に一抹の不安を感じた。
妖狐の言うことに間違いはないのだろうと魔術師は思っていたが、決して倒されないようにしようとも決意する。
「ではすまないが少し空間を空けてもらおうか――」
人垣が動く。ウィンター将軍のかけ声により戦闘ができる空間がフロアにできるまで僅か1分――
「≪聖戦モード!≫」
妖狐がその中央で魔術を走らせる。
淡い光が発生し、複雑な魔方陣が一瞬で戦闘領域を作り出した。
そこは暖かくもコロシアイを行うための死地だ。
観客たる騎士たちからどよめきがおきる。
「ではー―始めようか――。戦闘後、互いにうらむことは無しだ」
妖孤に代わり舞台に集う魔術師とウィンター将軍。
それを舞台の外で見つめるサクラと妖狐。
「ここは、やはり闘う前に子芝居が欲しいところですわね」
「僕らの騎士団の女の子をウィンター将軍が襲い、女騎士が『くっ…、殺せ』とか言ったところを颯爽とオーカが現れる、とかがgoodだよね」
「おい聞こえているぞ! サクラ殿、ヨーコ殿。それならば魔術師には『俺の女に手をだすな』くらいは言って欲しいものだな。それであれば帝国の悪役将軍の名を一気に高めることができるであろう。邪悪たる愛のキューピット! ダークヒーローっぽくて良いではないか。良いではないか」
「ではお言葉に甘えて――。『俺の女に手をだすなぁ』おらぁ!」
魔術師は右拳を前面に出し構える。
ウィンター将軍もそれに応じた。
威風堂々、泰然自若とした格闘スタイルである。
「貴様に本当の愛というものを知らしめてやろう! 我が四十八都道符拳、拳戟魔術によってなッ! 四十八手が愛を知らしめる技、とくと受けてみるがいい!」
魔術師は両手の拳を胸の前にあわせた。
金色にしゃちほこばり、唱える。「愛知拳!」と。
それは四十八都道符拳が一つ。
その瞬間、知多半島を象徴する右のコブシに金色の光がきらめき、まるでえびふりゃーのように弧を描いてウィンター将軍の顔に直撃する。
相当なる武勇だ。
「く、まだまだやられん!」
ウィンター将軍は一歩だけ下がるがいまだに健全。
だが後退を踏みとどまったおかげで魔術師の伝説の左ストレートをかわすことができない。
愛知には東と西、南側に2つの半島があり、先ほど放ったのはその1つでしかないのだ。
左の――渥美半島を象徴する幻のコブシが銀色にきらめき、まるでいかふりゃーのようにウィンター将軍のどてっぱらを直撃する。
しかも、いかふりゃーはイカリングのように弧を描いて威力を倍増させた、まさにイカした弾力性のある攻撃だった。
「ぐ、ぐあぁぁー」
ウィンター将軍はクロスカウンターを目指したが失敗し、ついに膝を土につけた。
「ふ。膝を地面につけるなど、負けたものすることだ!」
さらに追い討ちをかけようとする魔術師に、ウィンター将軍は吼えた。
一瞬のうちに魔術師の間合いから避け、さらに攻撃を回避するためにフットワーク。
その巨体に似合わぬジグザグな動きを披露してみせるウィンター将軍。
そのウィンター将軍はその体格もあいまってまるで山がガタガタしているかのようだ。
「山形拳!」
そして繰り出されるのは四十八都道符拳が一つ。
「新潟拳!」
そしてさらに新しいガタガタな攻撃を繰り出すウィンター将軍。
「な、なぜだー」
もう魔術師はガッタガタである。
魔術師はついに膝を地につけた。
「ふ。膝を地面につけるなど、負けたものすることぞ!」
今度はウィンター将軍の方が魔術師を笑う。
魔術師はウィンター将軍が四十八都道符拳を使っていることに驚愕する。
「おいヨーコ! なぜウィンター将軍が四十八都道符拳を使えるのだよ!」
「ふふん。それがフライドチキン1個の価値というものぞ」
ヨーコへの質問を答えるウィンター将軍。
いわゆるドヤ顔である。
そのフライドチキンは、有名ファーストフードチェーンが社名に入れてしまうほどの美味しさを誇っている。
「うわー、ヨーコってばすっかり買収されちゃっている!」
「ぐぬぬ。このフライドチキンというものが僕の心を掴んで話さないのです」
「こ、このちょろいんさんが――」
ウィンター将軍はなぜか魔術師が持っている黒の歴史書の力を、ヨーコを経由して使っていたのだ。
魔術師は山形拳の前にあっさりと敗北した。