愛を知るもの(あいち/やまがた/にいがた(中編
エアーズの岩砦が落ちた報は周辺地域に驚愕を持ってもたらされた。
それは岩砦の所有者であったオーストロシア帝国でも同じである。
「エアーズの岩砦が堕ちました」
謁見の間で報を投じるのは帝国の斥候。暗闇のお庭番――通称シャドー・ガーデンだ。
「なにッ やったのは誰だ」
オーストロシア帝国が主都、キャンベルクワ。
皇帝であり、第5代≪冬の≫の名を襲名した征夷大将軍でもあるウィンター将軍は仔細を問い詰める。
ちなみに、ウィンター将軍は某征服王のような筋脳である。
「それが……、アーカンソー王国が女性だけで構成される、薔薇の騎士団のようです」
「ばかなっ!」
岩砦を陥落させたのは、確かに諜報部からの情報通り相手は薔薇騎士団であった。
だがそれはおかしい。
やつらは僅か500程度しかいない集団のはず。エアーズのルーミートはそれこそ1万匹はいたはずだ。
なぜそれが陥落する。
敵戦力的にあまりの余裕であったため、ヴォルケイノ中将の娘に指揮を任せたほどだ。女には女だと。
しかし、いったいどんな魔術を使えばそんなことができる?
それとも、そのヴォルケイノ中将の娘は想像を絶する程の馬鹿だったのか?
思い返す。ヴォルケイノ中将の娘にあったのは数年前であったが、そこまでアホであるようには見えなかった。
「だいたい、エアーズが攻められるとしても何日もかかるはずだ。そんな報告はいまで一度も聞いていないぞ」
「それがたった一日で陥落。ルーミートの一族は全滅。補佐をしていたナタリー・ヴォルケイノは敵の手に落ちたと」
「たった一日でか!」
それはまるでかつて世界を滅ぼしたという魔王の徒が扱う最終奥義か、ヒストリカル・ブラックと呼ばれた魔導器によるチカラのようではないか。
似たような存在として、聖剣エクスカリバーの威力を知っているウィンター将軍であったが、エアーズの岩砦の堅牢さを考えると、その威力すら遥か下であるのではないかと感じられた。
「エアーズが堕ちたとなれば残すは有機カリの森のみか」
「ラーミートの連中がきゃんと思惑通り動きますかな――」
「あの怠け者集団か……。だがいくら、エアーズの岩砦を落とした連中であろうとも、エアーズの岩砦を落としたのであれば相当疲弊するはず。連続で攻略を行うはずはあるまい。ラーミートの連中はよそ者が森に入ることを嫌うし、なにより森自体の毒がそれなりの防壁になるはずだ。ここまで来るには時間がかかるはず、その間に兵を集めるぞ。東に出兵している兵を帝国に呼び戻せ!」
「「ははー」」将兵達が頭を下げる。
そこにざわざわと騒がしい音が聞こえる。
新たな報告者、第2のブラック・ガーデンが加わったのだ。
「大変です! エアーズ岩砦に続き、有機カリの森が! 有機カリの森が落ちましてございます」
「くっ、ラーミートの連中はどうしたというのだ」
「それが一瞬のうちに全滅。森自体がなんと青森スギに書き換えられて――」
「そんなことが人間にできるわけがなかろうがッ!」
「まさにあれは人 ならざる技であるかと――」
報告を続ける者を遮るように新たな喧騒が入り口でおきる。
現れた人物は女性だ。
その者はブラック・ガーデンのような忍びの行動は取れないらしい。
普通に歩いて謁見の間を目指してくる。
「何事だ。報告者がいるのであれば通せ!」
ウィンター将軍は騒がしさを制しようと怒鳴る。
現れたその者はエアーズの岩砦で補佐役をしていたナタリー・ヴォルケイノであった。
「お前――」
「ウィンター将軍に報告したきことが!」