くっころの柔肌砦(ぐんま(後編
「だんな、何か来ましたぜ?」
エアーズの岩砦の中で、アーカンソー方面を監視しているルーミートの歩哨が告げる。
「何だあれは。魔術師に、あの妖気は魔物か? 種類は女狐だろうか?」
「まずは上層部リノール様へ報告。矢は仕掛けられるか?」
「無理です。距離が遠すぎます!」
「おい、何か詠唱しているぞ」
「なに? お前、あの距離の詠唱が聞こえるのか?」
その距離約1km。到底矢を放てるような距離でもなければ、声が聞こえるような距離でもない。
「聞くまでもない。ヤツラの上空を見てみろ! 分からないのか?」
何か踊るように舞う魔術師、手から発せられる光が、光束の曲線を描いて走り空に向かって魔方陣を描いていく。その大きさはおよそ1km。とんでもない魔力量だ。
「あれは一体……」
「まずいぞ、あんなもので攻撃されたらひとたまりもない、軍を差し向けて潰しにいかないと……」
「まて、魔方陣の上になにか出てきたぞ!」
「あれはまさか! 禁術の空中庭園じゃないのか――」
密林で覆われた大地が天空の魔方陣の上に乗っかかる。
しばらくすると、そこから何か点のようなものが染み出すように落ちてきた。
1つ、2つ、3つ。
それはわらわらと再現なく出現し、ぼとぼとと大地に落ちていった。
「≪秘境≫グンマー」
物理的には聞こえないはずの声。
確かに歩哨はそんな言葉を聴いた。
その黒い点。それは馬だ。
群れつつエアーズの岩砦に大量に突進して来たことによりそれが発覚する。
ぱー、ぱっぱらぱー、ぱらぱらー。ぱーぱぱーぱーぱーぱーらーぱー、ぱーぱぱーぱーぱーぱーらーぱー、ぱっぱらぱぁー♪
まるでアーカンソー王国国営の馬を競争させる会社が、各馬ゲートインする中スタート直前に掛けるようなファンファーレがどこからともなく鳴り響く。
群れたる馬。それは四十八都道符拳が一つ。群馬拳
「おい、あれが薔薇騎士団か? どうみても男だろうが!」
「しかし、何だあの馬の群れは!? ふざけるのもいい加減にしろ」
各馬一斉にスタートを始める。
GATEは開けられたのだ。
ヒヒーん。パカラッ。パカラッ。カオッポカッポ。パカラッパカラッ。パカラッ。
ヒヒーん。パカラッ。ヒヒーん。パカラッ。カオッポカッポ。
パカラッ。ヒヒーン。うまーん。パカラッ。ヒヒーん。
馬たちは馬らしく強靭な蹄の音を上げ、暴れ馬らしい猛々しい鳴き声をあげた。
その先頭を走るのは、白銀のトタンで全身を覆う狂騒馬群。
それはまるで、アーカンソー王国国営の馬を競争させる会社が作成したバカゲーに登場するメカなハリボテのような馬であった。
「大丈夫だ、第一防衛線には有刺鉄線が張ってあるから――。なんだとぉぉ」
その馬たちは生体であるにも係わらず、有刺鉄線などものともせずにぶっちぎりの独走をきめてきた。
そして頭を回転させながら次々と岩壁に突撃する。群れた馬は有刺鉄線と同じく、その岩肌を柔肌のように蹂躙し破壊、駆け抜けていく。それはまさに暴れ馬。
その貴重な馬がたくさん群れている。
つまり群馬である。
大小の爆発が交錯する。
砦中がルーミートの肉塊と化す悲鳴の海と、大量の馬の嘶きに彩られて――