オーソドックスなくっころ(ほっかいどう/いわて
不覚にもタイトルに釣られて来てしまったら、評価に5を入れてください。
アーカンソーの北。
シャーウッドの園から外れた街。
女騎士がそのオークの群れに遭遇したのは、その街を出た2日後のことであった。
報告のあったゴブリンが10数匹、という情報は完全に嘘であったのだ。
知りえた情報は偽造されたものであったのだろう。おそらくは何らかの策謀か。
1対1での争いであれば、たとえオークであろうとも馬上からの攻撃はこちらに利があり、負けることはない。
だがこれは訓練ではなく実践。
律儀に敵が1匹ずつ列をなして攻撃してくることない。
そして、1対多での争いであるならば幾ら女騎士が優秀あろうとも結果は見えていた。
女騎士は軍馬からずり落とされ、レイピアは既に失っている。
女は美しい金色の髪をもつ、華奢な体つきの可愛らしい騎士。
しかも、気位が高いと知られるエルフである。
その女騎士が無残にも花を散らそうとしていた。
周囲に味方はいない。
ゴブリン程度、1人で十分だと考えていたからだ。
(これはもう駄目かもしれないな……)
近くにいたオークを5匹ほど屠ったが、もはや体力は限界に達している。
愛馬は既に事切れていた。
もはや逃げることも叶わないだろう。
卑下た笑いをみせるオークたち。
馬から崩れ落ち尻餅をついた女騎士。
余裕をもって囲まれていくのが分かる。
そしてこれから彼らが何をするのかも、分かる。
強く睨み付けても、帰ってくるのはオークのいやらしい視線のみ。
このまま私は彼らに暴行され、女としての尊厳を失うのか――
そう思い身を震わせたとき、女騎士は主君の姿を思い出した。
女騎士団が属する薔薇の騎士団。その騎士団が守護すべき我が主君の姿。
先ごろ代替わりした、騎士団の運営などとてもできそうにないほどにまだ若い少女だ。そう、少なくともエルフ目線では。
その主君が、本当に危機に陥ったとき唱えよと賜ったあのキーワード。
それは騎士として誇りを持ち、「辱めを受けるくらいなら戦って死ね」という意味を含んだ冷徹な言葉。
女騎士――エルはその言葉を叫んだ。
「くっ……、殺せ」と。
するとどうだろう。
その瞬間、オークに火炎系の魔術が飛び、しかしオークはそれを切り払った。
それは精霊魔術師が、あるいは北方の国の拳戟魔術の使い手が使う、火豚の術式だ。
近くに精霊魔術師がいるというのか?
火豚の術。
それは精霊魔術、拳戟魔術、そのどちらでも絶対に敵を倒すという意思を込めた、不退転の殺戮宣言を意味する最初級の術式。
「はん。呼ばれて来て見れば一人とは言えたかがオークごときに苦戦するなど、まったく最近の騎士というものは――」
聞こえてくる嘲りの声。
炎の魔術を展開した魔術師がどこからともなく姿を現した。それは幽鬼のごとく。
この魔術師は果たして敵なのか、味方なのか――
「あぁ僕たちは味方なのです。薔薇の騎士団所属の男性魔術師。もっとも、庭師だけれども」
さらに現れる長い銀髪の妖狐。
低身長の幼い感じがする少女だ。
彼女は女騎士に駆け寄ると女騎士を無理やり立たせ後退させる。
オークたちは突然現れた2人を警戒し一歩引いた。
しかし包囲を解除することはさすがにしない。
(しかし、アレが魔術師だというのか?)
(しかも薔薇の騎士団所属の男性だと?)
女騎士は考える。
確かに数ヶ月前、そんな話を聞いたことがあることを思い出した。
我が主君が3ヶ月前に戯れに結婚を宣言し、その婿を薔薇の騎士団に放り込むことにしたと。
なんの冗談なのだろう。というのが騎士団内での見解だった。
我ら薔薇騎士団は基本的に女性で構成される組織なのに。
上位の考えることだ。しかも主君はまだ若い。
だから政略のたぐいと多くが思っていた。
だがその冗談としか思えない存在は目の前にいる。
魔術師は女騎士が持っていたレイピアを右手に持ち適当に構える。その構えは手持ちであり騎士からしてみればかなりいい加減だ。
剣の代わりに魔術師特有の杖でも持てばそれなりかもしれないが、杖は持っていない。であるならば、徒手空拳の拳を使うとされる拳戟魔術の使い手か?
ゆったりとした陳腐な構えに驚きから脱したオークは再び前進を始める。
新たな目標となった敵にオーク達が咆哮。
そして真っ先に突撃してくるボスと思われるオーク。
魔術師は後の先を取り、レイピアを横薙ぎに払う。
「北海道!」
全力で叫ぶ単一詠唱。それは四十八都道符拳が一つ。
技などない力任せの無茶苦茶な一撃。しかしオークはまるで新鮮な馬鈴薯を出刃包丁で斬られたかのように、その一撃で胴が真っ二つに切り裂かれた。
それを見て動揺するオーク達。
「ふん。なまくらが……」
その一撃で折れたレイピアを捨てる魔術師。
レイピア本来の刺突系の使い方ではなく、斬りに使えばそうなるのも当たり前だと女騎士は思ったが、それ以前にチカラが強すぎるのだ。
ボスが倒されて一旦動揺が走ったオーク達だが、男に獲物がないことを見たオーク達は再度余裕を持ち、さらに魔術師に襲い掛かっていく。
「危ない!」
魔術師に迫るオーク達。
だが、女騎士はそこで、魔術師のコブシがまるでサザレ石に光苔がむしたかのように光っていることに気づいた。
「岩手・拳!」
岩のような拳でソバに来たオークをまるでワンコをあやすかのようにつぎつぎと一撃で沈めていく魔術師。
それは有名な格闘家のようにも見える。
魔術師に、剣士に、格闘家……。本当に彼は何物なのだろうか。
やはり北斗の国に存在するという拳戟魔術の使い手なのだろうか。
「ふん。あらかた倒し終わったな」
その言葉を最後に魔術師はいつのまにか消えた。女騎士の目の前から。銀髪の妖狐もだ。
女騎士が感謝を述べる間もなく、戦闘が始まってから5分も経っていない。
広がるのはオークの死体とその血の海のみ。
そして静寂が広がる――
どう見ても勢いだけで進行した物語に女騎士は頭を抱える。
「どうしてこうなった」と。