ついにばれちゃいました
「ちはーっす、高崎先輩!! ここ、いいっすか?」
吉田は今日もキラキラな効果音が聞こえてくる笑顔でカツ丼を食べている私のほうへ近づいてきた。
「…………どうぞ」
「今日は佐藤先輩はいないんですか?」
「あーうん、まぁ……」
ノーセンキューなんてさすがに言えないので、私はしぶしぶ返事をした。ついに金髪犬に捕まってしまった。いつもは恭子と食べているのだが、あいにく彼女は季節外れの風邪を引いてしまったらしく大学へ来ていない。おのれ恭子。
「先輩カツ丼っすか。おいしそうですね。でもなんか意外っす」
「……そう。吉田くんはおそばなんだね」
「はい!! 今日はそばな気分だったので!」
「へぇ。そば好きなの?」
「そうですね。そばもですが和食が好きっす! 油っこいやつは苦手っす」
和食はヘルシーだし、健康にもいいっすからね!といいながら金髪犬は上品にそばをすする。……お前は女子か。
「先輩は何が好きなんですか?」
「…………肉、とか?」
「そうなんですね!!」
金髪犬があっさり系が好きならば、私はぎっとりこってり系が好きだ。ファーストフードの大衆受けする安っぽい味も嫌いではない。まさに正反対だな。
「先輩は細いので、ちゃんと食べているか心配っす」
「……私けっこう食べるよ?」
「えぇ!? 全然見えないっす! もっと食べたほうがいいっすよ!!」
お前は私の母ちゃんか。細いかどうかは別として、どんなに食べても縦に伸びなかったんだよコンチクショウ。その高い身長私によこしやがれ。
「てか先輩、かつ丼に牛乳って合わなくないっすか?」
「…………別に」
金髪犬は不思議そうな顔をして首をかしげた。そんな目で私を見るな。ほっとけやコノヤロウ。
「骨を丈夫にするためにはいいかもっすね! そういえば、牛乳って飲めば飲むほど背が伸びるってわけじゃないらしいですね。『牛乳飲まなければ背が伸びないぞー』とか脅していた先生とか昔いたっすけど。俺、牛乳嫌いだけど普通に背は伸びたし」
「…………………………!?」
なんですと?今こいつピュアな顔してさらりととんでもない爆弾ぶちかまさなかったか!? まさか牛乳がそんな……いや、べ、別に私には関係ないし!! 動揺で視線が泳ぐと、私はあることに気づいた。
「……じゃあ、私はこれで」
「えー先輩、まだ昼休みあるじゃないっすか。もっと話しましょうよ」
「寄るところがあるから」
「えー」
カツ丼はすでに食べ終わっている。私は残りの牛乳を飲み干すと、さっさと席を立った。私と吉田を見る目が鋭い女子軍団がいた。やめろ、誤解だ。変なことに巻き込まないでくれ。私が席を立った瞬間、「なんだ幼女じゃん」って安心したような、バカにしたような目で見てくるので少しイラッときた。
くそう、せっかくのカツ丼だったのに食べた気がしなかった。牛乳飲んだばかりなのにカリカリしながら講義室へと向かった。
(むふふふふふ……)
頬のにやけがおさまらない。講義が終わった後、私は図書室のすみの椅子でこっそり小説を書いていた。自分の家から持ってきたパソコンでカタカタとキーボードを叩く手は止まらない。図書室で書くのが一番はかどるんだよなー。こんな隅っこだれも来やしないし。今日中には投稿できるだろう。最近は同じ趣味を持ってそうな人が感想を書き込んでくれるから、とっても楽しみなんだよなぁ。
「高崎先輩!!奇遇っすね!レポートですか?」
不気味ににやにやしていた私の幸せな時間をぶち壊す悪魔の声がした。
不覚にも、集中しすぎて背後から足音を立てずにやってきた吉田に気づかなかった。高い背をかがんでひょこっとパソコンの画面をみる彼。
「────っ!!っちょ、ちょっと!!」
私は突然の出来事に頭が真っ白になる。私が画面をどうにかするより金髪犬の動作のほうが早かった。
「ん? あれ? 『執筆中小説編集』? 『上書き保存』? ……これってもしかして」
「────!!」
他人に見られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
声にならない感情が私の中を荒れ狂う。私はバンっとパソコンの画面を閉じ、そのパソコンを持ち上げ吉田を叩いた。
「え、先輩!? いたっ!!」
あまりの出来事に私は判断をうまくできないようだった。精密機械を人に叩きつけるなんて普段の私からは考えられない。私の暴挙に吉田が驚いているすきにその場を撤退した。
どうしよう、どうしよう……! よりにもよって見られたのが吉田。そしてさっき私が書いていたのは何だ?『ひざまづいて私の靴にキスしなさい』──確実にアウトだ!!もう彼の顔が見られない。何が嬉しいのか『高崎先輩!』と期待に満ちた目で呼んでいたのが、『高崎先輩……』とゴミを見るような目で私を呼ぶのだろう? 私には分かっているんだよ!!
それかあいつのことだ、サークルとかで何気なくぽろっと『そういえば高崎先輩って小説書いてたんですよねー』とかこぼされたら……?
だめだ、これはもう確実に終わったぁぁぁ!!!
私は必死で走る。今の私に周りなんかみえちゃいない。そしてさらなる悲劇が起こったのだ。




