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へんけんはいけません

「今日は、旅行研究会の新歓に来てくれてありがとうございまーす!一年生のみなさん!! ゆる~いサークルなので、全然何でも聞いてね! それでは、かんぱーい!」


 軽い部長挨拶の後、乾杯の合図とともにグラス同士をくっつける。喉が渇いていたので、そのままごくごくとビールをあおった。


「おー高崎ちゃん、良い飲みっぷりだね!」

「……どうも」


 先輩がはやし立てるのを受け流しながら、私は内心ため息をついた。心底行きたくなかったサークルの飲み会。1年前の嫌な記憶がよみがえる。まぁ、今日のメインは1年生なのでいくぶんかマシではあるが。


 コミュ障の私は、恭子以外の同級生および先輩と話すことはかなり苦痛だった。何なのあのテンションの高さ。何でも「うける~ww」とか言うけど、何が面白いのかよく分からない。お前らの笑いのツボマジどうなってんの?

 まぁ、今日は先輩の話に適当に相づちを打ちながらご飯でも食べていよう。あまり目立たないようにゆるーく参加しながら。



「隣、いいっすか?」


 やや緊張した1年生も雰囲気に溶け込めてきた頃、話を聞き(流し)ながらビールを飲んでいたとき、上から声が降ってきた。


「俺、吉田 翔太っす。このまえ、ぶつかっちゃいましたよね?」

「………………はぁ」


 私の返事を待たずによいしょっと座ってきたのは爽やかなイケメンだった。お、お前は!!


 金髪犬ーーーーーーーーーー!!!!!!


 なんでここに!広いキャンパス内では二度と会わないだろうと思っていたのに!窮屈そうにあぐらをかいた姿を見て、くっそこいつ足なげぇな、とひそかに殺意がわいた。


「先輩だと知らずに、失礼な態度とっちゃったっすよね?すみませんっした」

「いや、別に……」

「なになにー?2人って知り合いなの?」


 金髪犬改め吉田と先輩が話しているのを聞きながら、横目で吉田を見る。一歩間違えばDQNに見えるのに、彼の顔立ちの良さが華やかな雰囲気をかもしだしていた。背が高くて、顔が良い奴とか無性に腹立つな。世の中理不尽極まりない。


「高崎先輩ってビール飲むんすね」

「まぁ、20歳超えてるし」

「意外だよねー。お酒なんて飲みませんって顔してるのに、高崎ちゃんビールしか頼まないんだよ。さっき店員のお姉さん二度見してたね」


 先輩、発言の後に草生やすのはやめてくれないですか?飲み物くらい好きに飲ませてくれよ。対する吉田はオレンジジュースをちびちび飲んでいた。チョイスが女子ちっくだな。


「あーっ。翔太くんこんなところにいたぁ~」

「ねぇ、私たちともおしゃべりしよ?」


 わらわらと女の先輩方がこちらへ集まってきた。ちょ、やめてよ。目立ちたくないのに!


「高崎ちゃんもこっちいたんだ~」

「久しぶりだねぇ。元気にしてた?」

「ちっちゃーい、かわいい~!」


 わしゃわしゃと撫でられたり頬をつつかれたりする。うわわわわっ。これ確実にセクハラだよ先輩! 吉田てめぇ!! 貴様が来たせいで人が寄ってきたじゃねぇかぁぁぁ!!


(もう早く帰りたい……)


 だんだん騒々しくなる周りに思ったことはただ一つだった。



「はーい!じゃあ王様ゲームはじめるよ~」


 楽しそうな先輩にマイクを投げつけたい衝動を必死に抑えた。一次会でさっさと帰ろうとしたのだが、先輩と恭子に阻まれ強制的に二次会参加となってしまった。舞台はカラオケ。変な深夜テンションで、どこから持ってきたのか先輩が割りばしを掲げたことから王様ゲームが始まった。


「あ、俺王様だー!じゃぁ3番と8番がポッキーゲームで!!」

「林田と中村じゃん」

「男同士じゃねぇか!ふざけんな!!」


 サークルでこんなことすんなよ。合コンでやってくれ、頼むから。何が楽しいんだよ。本気でやめてくれ。みんな酒が入ってるから、きわどい命令が下る。完璧罰ゲームじゃんこれ。お願いだから早く終わって!! はらはらしながら進行を見守る。


「次いくよー!王様だーれだ!」

「俺俺~!」


 げっアホ峰が王様!?こいつ突拍子ない上無自覚に迷惑かけるタイプだから超苦手なんだよな。こいつの命令だけは当りたくない! 頼む、神様!!


「う~ん、う~ん。じゃあ、6番が!今からコンビニでエロ本買ってくる!!」


 人生、うまくいかないもので。私の祈りは儚く散った。いつも拝まない神様にここぞとばかり頼る私にばちが当たったのか。ていうか、こういうときって絶対当たるよね。


 きゃー、やだーなど笑い声がする。なんでここでテンション上がるんだよ。名乗りにくいじゃないか。


「6番誰だー!」

「やだーかわいそ~」

「……私です」

「えっ」


 名乗り出た途端、静まる周り。……なんだよ。


「秋峰、命令を別のにしろ」

「店員にあやしまれる」

「補導されるし」


 外野ががやがや騒ぐ。おい最後の補導って何だ、傷つく!! まぁ、外に避難できるしいっか。


「じゃ、行ってきます」

「ちょっと待て高崎! 戻ってこーい」


 私は先輩たちの制止を振り切ってカラオケルームから出た。


 外に出ると、頬をかすめる風が冷たい。暖房が利いていて暑いくらいだったので、今はそれが心地よかった。この近くでコンビニどこあるっけ。できるだけ時間稼ぎたいから、適当に歩いとくか。


「高崎先輩!!」


 大きな声で名を呼ばれ、振り返ると吉田がいた。


「吉田くん、どうしたの?」

「俺もついて行くっす!」

「は? 命令違反でしょ」

「先輩方もついていけっていってたから大丈夫っす!」


 あの、はじめてのおつかいじゃないんだから大丈夫だよ?先輩方はなぜか私には過保護だった。


「コンビニ、あっちのほうが近いっすよ」

「……そう」


 吉田の指さした方へ方向転換する。……っち、余計なことを。しばらく歩くと彼が言った通り、コンビニが見えてきた。


「じゃぁ、吉田くんはここで待ってて」

「え、何でっすか?」

「なんでって……」

「俺、買ってくるっすよ」

「いや、王様から私への命令だから、私が買わなきゃ」


 2人で仲良くエロ本買うのはちょっと……。それこそ罰ゲーム以外の何物でもなくなる。そう思っての申し出だったのに、なぜそう食い下がるのか。


「女の人に買わせられないっすよ」

「とりあえず行ってくるから、ここで待ってて」

「でも……」

「ついてきたら怒るから」


 ぐだぐだ言う吉田を置いて、コンビニの中へ入る。……熟女とOLか。どっちにすべきかな。『OLのお姉さん』ってなんか響きいいよね。OLにしよ。ぐへへへへ。

 「いらっしゃいませー」という店員の笑顔を一瞬固まらせながら、私は颯爽とエロ本をお買い上げした。


「お待たせ」

「先輩!!」

「じゃ、戻ろっか」


 吉田は何か言いたげにチラチラこちらを見ている。何、気が散るんだけど。


「どうしたの?」

「……先輩は、その、恥ずかしくないんですか?」

「何が」

「その……」

「あぁ、エロ本買うのがってこと?」


 男性向けのそれは、私から見ても何とも思わないし。それとも女子として恥じらいを持てってか?


「需要があるから経済が成り立ってるんでしょ。私がさっき出したお金でコンビニは儲かるし私は王様ゲームの命令を達成できる。Win-Winの関係じゃないか。第一、売ってあるのに買っちゃダメなんておかしいでしょ」


 売り物買って何が悪い。私ははっきり言い切った。


「……そっか、そうっすよね」


 吉田は納得したようだ。よかったよかった。しかし、こいつと関わるとロクなことないな。しばらくサークルに顔を出すのはやめよう。私は密かに決心した。


 また先輩たちがいるカラオケルームに帰らなきゃいけないのが憂鬱で、そればかりを考えていたから、吉田が「かっこいい……」なんて呟いているのを私は知らない。

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