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はじめのごあいさつ

『君に告げるサインは甘い』の「秘密がばれて絶対引かれるって思ったのに、なぜか協力しようとしてくる天然系ワンコのお話」連載バージョンです。

 世の中はいたって不公平である。


 『天は二物を与えない』なんていうけれど、スポーツできて勉強のできる奴なんていっぱいいるし、美人で性格のいい人だってたくさんいる。むしろその一物さえ持っていない人間のほうがざらにいるだろう。


 「そんなことないよ~。高崎さんにもいいとこあるって。だって高崎さんかわいいじゃ~ん」だって?


 女子特有の甘ったるい声で言われても説得力ないし、女子の言う「かわいい」に信用性は一ミクロンも感じられない。うるさい、貴様の身長20センチよこせ。


「あんたまだ牛乳飲んでんの?」

「……何、文句ある?」


 食堂で牛乳片手にカツ丼を食べていたら、友人の神田 恭子が前の席に座った。


「あきらめなよ、もう伸びないって」

「……」

「そんな顔して上目づかいしても、怖くないからね?もう大学生なんだから成長期は終わってるよ」


 バカにしたような声で言う恭子がうらめしい。貴様などミジンコほどに縮んでしまえ。踏みつぶしてやる!

 

 私、高崎 鈴は身長142センチの大学2年生である。バスでは無言で子供料金になったり、昼間に一人で歩いていたら補導されかかったり。とにかく難儀な生活をしていた。お前らが背が高いだけなんだ! 私は人より少しちいさいだけだもん。大学に入ったとき周囲からの困惑の目が忘れられない。誰だ『幼女だ……」なんて言ったやつ。絶対許さん。


「それよりも鈴、今度の新歓くるよね?」

「行かない」

「さすがに今回は逃げられないよ。先輩方も鈴を呼んで来いって言っているし」

「えー」


 私と恭子は旅行研究会というサークルに入っている。温泉巡りが好きだったから嬉々として入った。しかし、周りのテンションの高さに加え、一年前の新入生歓迎会の場で先輩方に「ちっちゃ~い、かわいいー」など完全におもちゃ扱いされてしまった。それが原因ですべて億劫になった私は、ほぼ幽霊部員化していた。時々、恭子に引きずられて顔を出していたが。


「気に入られてるんだからいいじゃん。来週の土曜日、忘れないでね。なんだったら迎えに行くから」

「……やめて」


 私は空になった器を持って席を立つ。


「もう行くの?つれないなぁ」

「寄るところところあるから」


 恭子のブーイングを聞き流しながら私は図書室へと向かった。



(おっ!更新されてる)


 私はパソコンの画面を見て、ポーカーフェイスを保ちながら心の中でニヤニヤした。一番すみっこの目立たない場所。ここが私の定位置だった。


『こ、こないで!』

『どこへ行くつもりだい?逃げる場所なんてどこにもないのに』

『──っ!』

『おいで、ルナ。今ならまだ──ゆるしてあげる』


(監禁ルート、キターーーーーーーー!!)


 どうしよう、テンションが上がってきた。落ち着け、私。ほら深呼吸するんだ。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。……あれ、なんか違う?


 私が見ているもの、それは──ヤンデレ小説。


 ヤンデレは愛しちゃったゆえに行き過ぎた行動をとったり、精神的に病んでとんでもない方向で愛情表現を示したりする。優等生だった彼が実は……。とかね。


 私はこのジャンルが好きで好きで好きで仕方がなかった。


 主人公が見逃した小さな違和感。それはどんどん大きくなっていって気づいたときには逃げ道がなくなっていただとか、最初は相手のいびつな愛に抵抗していたけど献身的な姿を見てだんだんほだされていく、だとか。もうたまらんごちそうさまです、ですよね!!


 私は読むだけに飽き足らず、自家発電しようと思いとある大型小説投稿サイトに執筆していた。どこかに同士がいないかー、誰かと語り合いたい! 三次元リアルでカミングアウトしたら社会的に死んでしまうからね!!

 

 図書室は作業するのに持って来いの場所だったので、家からパソコンを持ってきてこっそり執筆活動をしていた。場所を選んだらバレる可能性なんてほとんどないし。


(次の時間は講義が入ってるんだよなー。こりゃ頭に入らないな)


 今日も私は小説の世界にひたる。あぁ、ほんっと最高!!



 お気に入りの小説が更新されていたことにより、上機嫌で図書室を出た。はっきり言って上の空だったので、目の前にいる人間なんて気にしていなかった。


「うわっ」

「なっ」


 反動で体が後ろに倒れる。パソコンは死守した。パソコンが壊れたら私は確実に死ぬわ。


「大丈夫!?」


 上を見上げたら、金髪にピアス、おしゃれな洋服といったいかにも大学デビューしました! な格好の男の子がいた。痛い雰囲気ではないのは、整った顔立ちをしているからか。イケメン補正パない。慌てて彼は私に手を差し伸べる。その手を取ろうか逡巡しゅんじゅんしたとき、


「あれー翔太ぁ?」

「なにしてるのぉ」


 派手なメイクと服を着たギャル系女子たちが男の子のもとへやって来た。うわぁ。私、こういういかにもリア充でーすって感じの子たち苦手なんだよな、目立つし。周りの視線が自然と私たちに集まる。


 なにこの公開処刑。


 私はあわてて立ち上がった。


「大丈夫ですから。よそ見していてすみませんでした」


 早口でそう言うと、一刻も早くこの場を立ち去った。後ろから「あの子すっごいちっちゃーい」なんて聞こえてカチンときたが振り向かなかった私はえらいと思う。あーもう最悪。さっきまでの気分を返せ! よそ見していた私も悪かったけど、何が一番気分を害したかというと。


 ぶつかった男の子の身長がものすごく高かった。


 八つ当たりにもほどがあるが、私は身長が高ければ高いほど許せなかった。おのれ、低身長の呪いにかかりやがれ!って思うほどに。170センチ以上ある奴は私の敵リストに入る。

 しかも後からきた女の子たちも女子としてそこそこ高い身長+超ハイヒールということで私の小ささが際立ってしまった。


 なんか悪態つかないと気が収まらない。そうだ、変なニックネームつけてやろう!顔の特徴は、イケメンだったな。……チッ。金髪男? いや、なんか弱いな。服のセンスは……まぁ悪くなかったような。……思い出せば思い出すほど腹立たしいな。


 うんうん唸っていると、不意に男の子の首元にかかっていたアクセサリーを思い出した。


(そういえば、ドッグタグつけていたな。ドッグタグにちなんで金髪犬にしよう!!)


 ふはははは、ざまぁ、金髪犬! うん、いいなこれ。


 など人として残念なことを思いつきながら気分を向上させようとした。


(ま、どうせ他学年だ。接点なんかないし、いっか)



 この金髪犬が旅行研究会の後輩でなぜかなつかれてしまったり、私の嗜好がバレてしまったりするなんて、この時のおめでたい私はまだ知らない。  

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