ゼンタイってどんな感じだろう
入院中の泰子は暇を弄んでいた。元々ゲームをする趣味はないし、普段見ることの無い平日の昼間のテレビ番組を見てもつまらない。ましては漫画もあまり読まないから時間をつぶすことも出来ない。しかも病室は相部屋だがみんな年上のおばさんばかりで話し相手にもならない。
そのため色々と想像していたが、いま一番気になるのが両親があの晩着ていた全身タイツ略して「ゼンタイ」だ。真美子に新体操の時に着るレオタードみたいなものと言われ、少しではあるが興味が出てきていた。
だいたい泰子が新体操をやるようになったのもテレビで演技をしている時に衣装のほうが気に入ったからだ。あの綺麗な布地が女性の身体に密着するさまを美しいと思ったからだ。幸い泰子に多少の才能があったので、新体操部に入っても練習についてきているが、厳しい練習に耐えられるのも、レオタードで練習したいという想いがあったからである。
そのような感情を客観的に考えると泰子は不純な動機だと思われるかもしれないと、人に言うことは恥ずかしくて出来ないことであった。そして今はあのゼンタイに興味があるのだ。この事については両親に質問すればいいが、はたしてマトモに答えてくれるかが心配だった。
まだ抜糸も出来ずサラシを巻いている腹部の痛みをこらえながら、ベットのシーツを身体にまいていた。そうゼンタイで身体が包まれたらどんな感じだろうと想像していたのだ。
「やっぱり足の感覚は冬に履くロングタイツみたいなんだろうな、それに手は長い手袋をはめたようなんだよね。そして体はレオタードや水着を着たような感じだろうね」と想像しながらシーツを身体に巻きつけていた。想像の中で泰子はゼンタイを着ていた。あの母が着ていたピンクのゼンタイと同じ物を。
でも、想像しにくかったのは顔面をすっぽりと覆うレオタード生地だ。あれでは前が見えないだろうし苦しそうだと思えたからだ。そういえば昔のコントで女物のストッキングを強盗が被るというシーンがあったけど、顔はストッキングの中で押しつぶされておかしなことになっていた。やはり母もあの生地の下の顔は押しつぶされていたということだろうか?
そう思ってシーツを顔にまき付けて想像してみた。すると薄っすらであるが外の風景が見える事に気付いた。そして僅かに呼吸しにくいが、それがそれで快感だということにも気付いた。
「これって、ママやパパと同じようにあのゼンタイを着る事を体が欲しているというわけ? 」と、泰子は両親と同じ姿になることを望んでいる自分の心に気付いてしまった。その後泰子はベットのシーツを交換しに来た職員のおばちゃんに「なんでこんなにシーツが皺だらけなの? 」と注意されてしまった。