レオタードへの憧れ
泰子が新体操をしようとした最初の切っ掛けはあの身体にぴったりと張り付いたようなレオタードに見せられたからであった。無論、泰子は女性が好きというわけではなくあのピッタリとしてスベスベとした美しい色彩の布地が身体にピッタリとはりついている自分を想像して、なんとも表現しがたい想像をしたからであった。
今では秋村先輩や顧問の東出先生が認めるように、それなりの新体操の素質があったこともあるが、やはり今でもあの美しい衣装を人前で着たいという願望の方が勝っていた。そのため泰子はある意味「レオタードフェチ」の素質も兼ね備えていたといえる。
それはともかく、泰子が信じがたかったのは、そのレオタードを顔まですっぽりと覆う「ゼンシンタイツ」という衣装の存在だった。あのような姿では息はしずらしそうだったし、前もよく見えないだろうし、何よりも着てしまったら他の人に誰なのか判らないじゃないか! ということだった。その時泰子は何が楽しくて全身タイツを両親が着ていたのかが判らなかったのだ。
思えば、両親は極どこにでもいるような家族だと思っていたし、取り立てておかしな趣味を持っているようではなかった。パパは日曜大工とドライブが趣味で、ママは絵画教室をやっているぐらい油絵やイラストが好きだった。特にママは画廊やネットで作品が売れるほどの腕前で、本当はプロではないかともいえたであるが。
そう考えていた時、真美子のあの「あなただってレオタードに憧れているでしょ? それと同じようにあの衣装も憧れる何かがあるということかしら? 」という言葉が出たのだ。たしかに真美子が言うように泰子はレオタードに憧れていたのは事実だった。それと両親のゼンシンタイツフェチを一緒にされたため、この時泰子はたまらなくなってしまった。
そのため泰子は、それ以上この話題を続けるのはやめて別の話題に入ったが、この言葉がしばらく泰子を悩ますことになった。