気まずいけど・・・
美智代は少々焦り気味だった。二度も正体を欺いて接触した相手から声をかけられたからだ。いくら娘の同級生とはいえ気まずかった。しかし、この場は逃げ出さず何とかして切り抜けないといけないと思った。
「あなたは内藤君かしら? 娘がいつもお世話になっているようで」
「僕は内藤豊ですが、こちらこそ衣装の手配でお世話になってありがとうございます。さて、あなたにどこかにあったような気がしますが・・・少し失礼な事かもしれませんが、昨日あったような気がします。この学校で」
「そうかもしれないかもね。昨日校内を主人と一緒にうろうろしていたからね。それに最近娘が私の若い頃に似てきたから」
「ちょっとお尋ねしますが、お袋さんってタイツコさんご存知ですか? ”ガールズZ”のメンバーの。なんとなく雰囲気が似ていますが。あなたがタイツコさんじゃないのですか? 先日会った時と同じような感触がするのですけど」そういわれた美智代は誤魔化しきれないかもしれないかもしれないが、ここで認めるわけにはいかないと思った。
「私はタイツコさんじゃないわ! まあ似ていると他の人に言われた事はあるわよ。わたしに歳が近いからじゃないからかな? そうそう、あの人の事は知っているわよ。私あの人のために全身タイツのデザインをしているからねえ。でも正体は明かせないわね。私の古くからの知人だし。まあ、そのうちまた出逢えるかもしれないわねタイツコさんとは」
豊はもっと追及しようと思ったが、証拠もないのにタイツコの正体だとこれ以上聞くことも出来ないし、同級生の保護者に対し失礼になるので、やめることにした。ただ、疑惑だけは深まったが。
「僕の母よりもずっと若くていいですね。なんかお姉さんみたいな感じで綺麗だし。まだまだ女子高生としていけそうですね」 豊は昨日の午前中におかしな感じがした泰子もこの人の変装だと思っていた。独特な歩き方をしていたからだ。すこし片足を引きずるような歩き方だったからだ。
その言葉を聞いて美智代は心の中で動揺していた。この子にはタイツコとウソを言ってゼンタイを着て会ったし、泰子の振りをしてなんちゃって女子高生をしていたからだ。娘のためにしたことであったが、良心の呵責はあったが、ばれたらまずいのでそのままつききるしかなかった。
「それ褒め言葉なの? 私が高校生だったのはもう二十年前だけど、まだまだいけるってことかしら? それはありがとね褒めてくれて。とりあえず娘の所に行くわね内藤君。娘とは仲良くやってくださいね、そして学業も頑張ってね」そう言葉を残し美智代はその場を立ち去った。
「まあ、認めるわけないかタイツコさんとは。それにしたって綺麗な人だったけど、野林の体力バカも大人になるとあんなふうに綺麗になるのだろうか?」豊は心の中でそう思っていた。このとき、文化祭の展示時間は終わりが近づきつつあった。




