青い空を行く白い雲 (イメージ画像あり)
一週間ぶりに出席した泰子は外の風景を見ていた。まだ残暑の熱気は残るが空は秋の様相を呈していた。どこまでも高く澄み切った青空と遠くかすむ山々の上に小さな雲が風に流されていた。
その空の色は真美子からもらった写真集にあったスカイブルーのゼンタイを着た女性を思い出していた。その写真は、今見ている空を背景にしており、まさに空に溶け込もうとしている瞬間を写したかのようであった。そして背景には遠くに白い雲が写っていた。
「あの女の人のように空に溶け込むような姿になったら気持ちいいだろう」と考えていた。そう考えるのも今朝までゼンタイ姿で眠っていた時の感覚が甦っていたからだ。制服姿であるがあの時の身体が包まれた心安らぐ心地よさを懐かしく思っていた。ママには止められたが、今日も着てみたいなと考えていた。
そして遠く見える雲を見て、あたしはこれからどうなっていくのだろうかという不安も思っていた。あの雲はどこかに流されていくだろうし、いつかは消え去ってしまうものである。あの雲のようにゼンタイの世界に入り込んだあたしが、何処に行くのだろうか、そしてどのような大人になるのかを思い悩んでいた。
「快楽、というのよねあの気持ちよさは? 中学生の時に同級生の男子生徒がエロ本を持ってきて、馬鹿じゃないの? と軽蔑の感情を持ったけど、あたしのあのゼンタイに対する気持ちよさを同級生に話したら、きっと変態といわれるだろうね、本当」と思っていた。
泰子はこのように考えていたが、当然授業の内容は耳に入らず周囲には上の空のように見えた。あの青い空のように。そのようなボーとした泰子に衝撃が走った。
「野林泰子さん、一週間闘病生活していたのはわかるけど、いつまでもボーとしていたら駄目でしょ? もうすぐ中間試験だからしっかりしなさい」と三十路過ぎの女の声が頭の上に響いた。泰子の副担任の日本史の矢野宏美だった。




