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布団をはがないでちょうだい

 自分の部屋に入った泰子はゼンタイの上にパジャマを羽織ってベットに潜り込んだ。ゼンタイによって身体は程よい拘束感で気持ちよかったが、心のほうは乱れていた。そう弟の真司が入ってくるかもしれないからだ。


 ママには真司にゼンタイのことをまだ言わないでと言われたが、たしかに高校受験を前にして両親と姉が”アブノーマル”な世界に入っている事を知ったら、受験どころでは無くなると心配するのも当たり前だった。


 そうやってドキドキしていたが、もっと大変な事に泰子は気付いた! いくらパジャマを着ても手足はゼンタイの赤い生地に覆われているのだから布団から一切出すことが出来ないことを。そのため布団から首から上以外は全く外にだせないのだ。


 そうこうしているうちにドアをノックする音がして真司が入ってきたのだ。彼は部活と学習塾が忙しくてお見舞いに行けなかったことを詫びてきた。そして枕元にお見舞いの品として入院中に発売された泰子がいつも買っているコミックの最新巻を置いてくれた。おもわず泰子は布団から手を伸ばしてしまったが、当然真っ赤な右手を真司に見られてしまった。


 「お姉ちゃん、手が真っ赤だったけどそんなに症状が悪いの? ママを呼んできたほうがいいかな?」と言われてしまった。泰子は一瞬戸惑ったがすぐ「ううん、大丈夫。これはねえ寒いので手袋しているのよ。結構あったかいのよ」と言い返した。


 「でも姉ちゃん、そんなに寒いわけなの。タオルケットに赤いものが薄っすらと浮き出ているよ。これってどうしたというわけなの? 」と指摘するではないか。確かに今は初秋とはいえまだ薄い夏布団だ。真っ赤な布であるゼンタイを纏っているのだから透けて見えてもおかしくなかった。


 「お姉ちゃん、布団をはぐってもいいかな? どんな物を着ているのよ」というではないか。真司の好奇心に火がついたようだ。しかし此処で彼に今、ゼンタイ姿を見せるわけにはいかない。


 「布団をはがないでちょうだい! あたしとあんたはいくら姉弟といってもあたしは一応年頃の女の子よ! そんな失礼なことをしないでよ」と叫んでしまった。その剣幕に彼はひるんでしまった。


 「ごめんね真吾。言い過ぎたね、コミックありがとうね。後でゆっくり読ませてもらうよ」といって謝罪とお礼を言った。真吾が部屋を出た後、泰子はゼンタイの手を伸ばしてコミックを取った。

 

 「もしかすると気が付いているのかな真司は? いつかパパとママと真司とあたしの家族四人でゼンタイ姿になったりしてね」と考えながらページをめくっていた。

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