あの晩の出来事(改訂版)
この晩から泰子のゼンタイフェチな世界が始った。
わたしは野林泰子。自分で言うのもなんだけど極普通の高校一年生の少女だった、あの事を知らされるまでは。うちの両親の秘密を知ってしまったから、その事にわたしにも関係があったのよ。しかも、あれ以来両親と同じ道に引きずり込まれてしまったのよ。そのうえ周囲の同級生や上級生、そして後輩まで巻き込んでいってしまった、そうフェチな世界に
稔と美智代がわたしの両親だけど、父は平凡な会社員、母は家で絵画教室をしている以外は普通の主婦だったはずなの。父は背が高く母もそれなりに美人だったけど、同級生の両親と比べ若かったので、若く結婚したんだねといわれていた。
弟の真司はサッカー少年で、将来の夢がプロのサッカー選手なので休日は試合に明け暮れているような中学生だった。私のほうはといえば、足が速いというのが唯一の取り柄なのに、出来もしないのに新体操部に入って、補欠にすら入れないでいた。
そんな家族だったけど、同級生の家庭と比べ、なんらおかしなことは何もないと思っていたのよ。あの夜の両親の姿を見るまでは。
秋も深まった十一月のある晩、私は就寝中に今までにない激しい腹痛に襲われて目が覚めてしまったの。今まで経験したことない激しい痛みでベットから起き上がれないほどだった。そのまま死んでしまうのわたし? と思ったほどだった。
その痛みを最初晩に食べた鍋物の牡蠣でも当たったと思ったけど、お腹の下の辺りだったので、もしかすると小学校の時に同級生がやった盲腸炎じゃないのかなと想像していた。でも、朝まで我慢できそうもないぐらい痛かったので、無理をしてでも今すぐ病院に行かなきゃと咄嗟に思った。
それでベットから転がり落ちて、床を這うようにして両親の寝室に助けを求めたの。途中、お腹のなかで何かが暴れまわっているような痛みをこらえながら行ったので、本当に悪い事でもした罰がと考えていた。本当はすごく悪い娘かもしれない、このまま気を失ったらもう二度と目覚めないかもしれない、そこまで深刻に考えてしまったの。
わたしは永遠とも思えるぐらい時間をかけて廊下をすすんでようやく両親の寝室のドアを叩いた。両親の寝室は弟の部屋を挟んでいるだけなので、距離がないはずなのに・・・
「パパ、ママ。お腹が痛いよ! どうかして!」と、わたしはまるでで五歳の少女が助けを求めるようにドアを叩いて起こそうとしていたの。本当それだけ見境がつかないほど事態は切迫していた。
このとき、私はあることを思い出した。今日は絶対両親の部屋に夜入ってはいけない晩じゃなかったの? まあ、そういって男女がやることといえば私も年頃だから理解できるけど、悪い事をしたかもしれないと思った。もしかすると、すぐに出てきてくれないと観念した。両親がまあパジャマを着ている間に、私はこのまま死ぬのよねなんて悪い事を思っていた。
しかしノックした直後に予想に反して、部屋の中から両親が物立ち上がるような音がしてきた。どうも両親がすぐ飛び起きてきてくれるようだった。それで、とりあえず一安心、そのまま病院に連れて行ってもらえると思ったけど、私の眼には両親のとんでもない姿が飛び込んできたの!
「泰子、こんな夜遅くにどうしたというの? 大丈夫なの」の声だったがその姿はピンクに覆われたようなものだった。その声はたぶんママだったの。
「泰子を早く病院に連れて行ってあげないといかんぞ」とそして後ろからパパの声が聞こえたけど、その姿は黒いシルエットのようだった。二人とも人間の形はしていたけど、顔も肌も一切見えなかったの! その姿って何なのよ!
目の前で起きていることが理解できないわたしは戸惑ったが、きっと自分は錯乱しているのだから、こんな変なモノの見え方がするんだ、きっと死ぬからだと考えてしまったの、それから程なくして私は気を失ってしまった。私が気を失ってしまったあと二人はこんな事を話していたという。
「今日に限って泰子が部屋をノックするとは思っていなかった。泰子も驚いただろうけど俺も驚いたよ。こんな俺たちの姿を見たら嫌悪感を覚えているだろうな、そんな風にはなってほしくないが」
稔は頭部を覆っていた黒いマスクを外していた。一方の美智代も頭部を覆っていたピンクのマスクを外していた。二人がこのとき着ていたのは全身タイツ、略してゼンタイだった。二人で夜の営みの代わりにゼンタイ姿でいちゃついていたのだ。それは学生時代に知り合ってから夫婦になってからも続く二人の楽しみだった。
「大丈夫よあなた。泰子は私たちの娘よ! きっとゼンタイの事を気に入ってくれるよ! それよりも早く泰子を病院に連れて行かなくちゃ! その前に着替えましょ!」
二人はゼンタイを脱ぎ捨てて泰子を病院に連れて行く準備をし始めた。夫婦のベットの上には黒とピンクのゼンタイがかけられていた。そのゼンタイが両親と同じように泰子の人生を大きく変えていくことになる。