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釣り上げられた人魚姫  作者: 桔梗楓
番外編
14/15

サンシャイン・マリン・アワー 1

 輝く太陽はさんさんと明るく大地を照らし、青い海は美しいきらめきを作り出す。

 騒がしく、しかし楽しそうに束の間の余暇を楽しむ人達は皆、色とりどりの水着を着用していて視界がカラフルに染まり、あちこちでじゃれあう子供達。イカやトウモロコシを焼く香ばしい匂いと、シャリシャリカキ氷を削る、涼やかな音。


 季節流れて、現在は夏である。夏休みにさしかかった最初の週。本州のあちこちが海開きをしたとニュースキャスターが伝える中、俺は浜辺で頭を抱えていた。


「なんでこうなるんだよ……」


 げんなり、げんなりだ。俺の予定が180度変更せざるを得なくなった。折角今日の為にいっぱい調べていっぱい用意していたのに。楽しみにしていたのに。

 俺の目の前には健康的すぎるほどに小麦色に焼けた肌を晒す大内先輩が、満面の笑みを浮かべて仁王立ちしている。


「なんだ光秀。来て早々ネガティブ発言はよくないぞ!」

「誰が俺をネガティブにさせてんですか!」

「はっはっはっ!だってお前、なぁ?彼女と二人きりで旅行デートなんて生意気だろ?しかも俺に何も許可を得ず勝手に、しかもシレッと何時の間にか彼女作ってるし。これは皆で光秀くんの彼女を拝むしかないじゃないか!ついでに俺達もレジャーが楽しめる。一石二鳥だね!」

「一石二鳥なの、先輩だけですよね?しかも先輩、今年大学卒業しましたよね?なんで今だ俺につきまとうんですか!やめて!俺のプライベートを返せ!しかも生意気とか許可取るって何スか!そもそも許可取る必要ないですし!」


 失敗した。完全に俺の失策だ。

 今年の冬、俺はとある事情から行き着けの居酒屋の大将に俺の大切な恋人を紹介した。その大切な恋人っていうのは勿論オトヒメの事だけど、俺はその頃彼女の魚苦手を克服するのに頭が一杯で、他の事を全く考えてなかったのだ。

 そう。失念していた。

 そもそもあの居酒屋を紹介してくれたのは、大内先輩。つまり、大将と大内先輩は、顔見知り。


「いやあもうびっくりしたぜ!川崎がさぁ、もうすっげえ美人だって騒いでたの。モデルばりに可愛いって。なぁ、そんなの聞いたら見るしかないだろ?俺も可愛い女の子見たいもん!」

「もん、って先輩が言っても可愛くないですから。後可愛い女の子が見たいなら自分の彼女見てあげてください。彼女が嫉妬しますよ。ジェラシーですよ。こじれても知りませんよ」

「勇魚先輩、オトヒメちゃんってウェストいくつなんですかね!細すぎですよね。あと何食べたらこんなに美人になるんですか?やっぱりDNAの問題ですかね?私にはこの自然の神秘に抗える気が全くしません!これはもう拝むしかっ!ははー!」

「桐谷あああ!お前はもう少し嫉妬しろ!先輩と一緒にデバガメしてんじゃねえよ!あと拝むな!触れ伏すな!」


 白い砂浜で正座し、まるで神を崇めるかのごとく体を伏せる桐谷にビシッと突っ込むと、ビニールシートで俺の隣に座るオトヒメが困ったような顔をした。彼女は陸の人間と関わる事をまだ少し怖がっているふしがあり、俺にはとても明るい表情を見せてくれるが、多人数を相手すると途端に大人しくなり、口数が少なくなる。人見知りというやつだろう。それでも全く無愛想というわけではなく、彼女のペースで少しずつ打ち解けてくると笑顔を向けたり話したりもする。例えば義兄や姉、居酒屋の大将やおかみさんだ。


「でも、本当に溜息が出るほどの美人さんだよね。あはは……はぁ」

「名取先輩が昼間から黄昏てるー!しっかりして先輩!傷はまだ浅いですよ!まだ一歩はおろか半歩も進んでなかったですから!」

「フォローにならないフォローありがと桐谷ちゃん……。そうだよね、私片足すら進んでないし……ショック受ける必要ないよね。はは、うふふ……」


 遠くを見つめ、どこか全体的に白くなっている名取に首を傾げる。彼女は彼女で今日現地集合をしてからずっとこの調子だ。オトヒメを紹介した後フラフラと浜辺を彷徨い、砂浜で一人砂山を作り始め、山の両側から手を突っ込み、トンネルを作ってトンネル内で両手を握っているのか「あくしゅー」とか言っていた。何か辛い事でもあったのだろうか。


「まぁ、名取は貴重な二年間を最大活用できなかったのが敗因だな!よしよし今日は先輩様がたこ焼きを奢ってやろう!」

「ありがとうございます~ううう」

「そういえば大内先輩。結局今日って何人参加してるんですか?現地集合って聞いてたからさっぱり把握してなくて」

「あー何人だろ。サークルメンバー、OB、適当に満遍なく全員に声かけたからまぁまぁ来てるんじゃないか?」

「それって適当でも満遍なくでもなく、全員に声かけたんですよね?なんって大内先輩はなんでもかんでも大事にするんですか!このお祭り好き!騒がし屋!一見ギャル男!」

「光秀てめえ人が卒業した途端、まじ遠慮なくなったな!?前はそこはかとなく俺に対する険はチラ見せしていながらも、体裁的には丁寧を貫いていたのに!この逆浦島太郎!」


 なんだそれ逆浦島太郎って。もしかして昔話をなぞっているのか?だが、それの逆と言うなら、見た目は青年、中身が老人と言いたいのか。相変わらず大内先輩は曲がりくねった悪口を言う。

 

 さて、俺はそろそろオトヒメを連れて退散したい。大学の知り合いがかわるがわるとシートに座る彼女を眺めに来るのだ。俺の恋人は確かにモデルばりの美人だけど見せ物じゃない。その可愛らしい顔も、目を細めてしまうほど眩しく輝くブロンドも、全ては俺のもの。だから彼女の手を引き、無言で立ち去る。だけど俺の背中に「昼食はバーベキューするから正午集合な!」と大内先輩のばかでかい声が届いてきて、がっくりと肩を落とした。



「あー、ごめんなオトヒメ。こんなはずじゃなかったんだ。マジでごめん。本当は昼はゆっくり散歩でもしてさ、波が当たらないような海辺で冷たいものでも食べたり貝焼きとか食べて、夕方の人が少なくなった海で一緒に泳ごうって思ってたんだ。それなのに……」

「いいんですの、光秀様。オトヒメは光秀様と一緒にこうやって歩けるだけでとても楽しいですの。それよりもごめんなさいですの……。私、もっと愛想よく笑いたいのに、どうしてもまだ初めましての方は怖くて、うまく喋れなくて」


 しゅんとして歩くオトヒメの姿は俺的に完全防備だ。なにが防備って、勿論足部分である。海水浴真っ盛りな浜辺なんて、どこで海水の水滴が足にかかるか判らない。考えた俺はこの際オトヒメの水着を堪能したいというよこしまな考えを捨て、オトヒメを守る方面を強化する事にした。

 先日オトヒメと一緒に行ったユニクロで購入したのは足首まで覆うスキニーなデニムパンツ。さらに真夏だが靴下に、厚手のスニーカーを履かせた。更に念には念をと言わんばかりに防水スプレーもかけまくった。もし雨が降ったら彼女の脚部分だけが水滴をはじくくらい、強固なガードである。ちなみに季節感は真っ向から無視をした。そんなものより守るべきものがあるのだ。

 さすがに上は薄着にしたが、そうは言っても俺のバイト代で出せる稼ぎなんて知れている。一応、ユニクロ製のちょっと可愛い感じのするレースな白い襟のついた紺色ポロシャツにした。

 ……俺のファッションセンスはハッキリ言うと全然自信がない。あの父親よりはマシだと信じたいが、大概俺も着れたらいいやという感覚の持ち主なのだ。こういう事で気軽に聞けそうなのは名取なんだけど、彼女は彼女で今日はとても大変そうであり、のんびり質問できる雰囲気とも思えない。

 まぁ、唯一の救いはオトヒメがどんなダサ服でも割合着こなしてしまう程の美人であり、一見おかしく見えない所だろうか。さすがに真夏に靴下つきデニムパンツは暑そうだけど。

 ともかく、俺は隣を歩くオトヒメの頭をぽんぽんと軽く叩く。


「いいんだよ。今回のは想定外だったし。オトヒメのペースでやっていけばいいんだ。まぁ、ほら……さ、一応安いけど民宿を一部屋とったし、どうにか人が少ない時間を見つけて少しでも泳ごう、な」

「はい!せっかく水着も買いましたですの。やっぱり光秀様に見てもらいたいですの」


 照れたように少し顔を赤らめながらも俺に笑いかけてくれるオトヒメ。ああ、今日も可愛い。そうだ、俺はこの日の為に短期バイトを増やし、お金を稼いで彼女と一泊旅行を企画したのだ。二人でデパートに出かけてオトヒメの水着を選んだ時は顔から火が出るほど恥ずかしかったけど、彼女一人で電車に乗り、買い物に行かせるのは不安でならないから仕方がない。まだオトヒメ一人の行動範囲は近所のスーパーくらいなものなのだ。

 そんなわけで、俺はこの日をとってもとっても楽しみにしていた。なのに、俺はうかつで……。大学でビーチ特集の雑誌を読んでニヤニヤしていた所を名取や桐谷に見つかってしまい、そのままなし崩しに質問攻めを食らって恋人ができた話を白状するはめに陥ってしまった。そして瞬く間にその話がサークルメンバーに広がり、OB……つまり大内先輩の耳に入ってしまった。本当に女子の噂話は恐ろしい。光の速さで人のプライベート情報があちこちに広がっていく。

 そんな訳でげんなりしながらオトヒメと手を繋ぎ、海の見える道路わきを散歩する。さんさんと降り注ぐ太陽の光はまぶしいほどで、アスファルトを照り返す熱気がビーチサンダルを履いた足をじわじわと焼いていく。オトヒメに帽子か何かを用意するべきだったなと彼女の白い肌が赤くならないか心配し始めた頃、向かい側から見知った男女が歩いてきた。


「あれ、勇魚君に……えっと、オトヒメちゃん、だったよね。どうしたの?何かお買い物?」


 やさぐれ心がほんのり癒される。向こう側から歩いてきたのは大内先輩と同学年だったOBで、俺の所属してるサークルの前部長さんと、同じくOBの先輩だった。なんであの騒がしい大内先輩と友達なんだ?って思うほど前部長さんは穏やかで物静かな女性で、もう一人の先輩は男性だけど彼女と同じような穏やかオーラを常に放っている癒し系。ちなみに二人は俺が大学に入る前からつきあっている恋人同士らしい。

 二人を眺めていると成程、似たもの同士だと思う。いつも穏やかでのんびりとした、見ていて気持ちが落ち着く二人組だ。


「買い物ってわけじゃないんですけど、ビーチにいると色々大変で。誰がとは言いませんけど主に大内先輩とか大内先輩とか、あと大内先輩とかが特に面倒臭くて」

「あはは、大内君は相変わらず勇魚君が大好きなんだね」

「やめてくださいよ斉藤先輩。割と本気で迷惑してますし!どうして大学卒業した後もつきまとってくるのか意味がわかりません」

「しょうがないよ。僕にもそうだけど、大内君って気に入った人間に嫌がられると喜ぶ性格してるんだよ。ほんと悪い性格だよね。たぶん一生くらいつきまとってくるだろうから勇魚君も諦めたほうがいいよ?」

「門倉先輩まで……。はぁ、俺なんであの時、大学でビーチ特集の雑誌なんか読んじゃったんだろ……」


 だらりと落ち込むと門倉先輩がヨシヨシと頭をなでてくれる。ちなみに、前部長だったのは斉藤先輩っていう女性の先輩で、同じサークルでお世話になってたのが門倉先輩だ。


「ふふ、オトヒメちゃん可愛いから特にハイテンションになってるんだろうね。本当に可愛いくて、私もびっくりしてたんだよ。ねえオトヒメちゃんって外人さんなの?」

「あ、よく言われるんですけど……外国の血が入ってるだけで、生まれは日本なんです」

「そっか、私英語は単語でしか話せないから良かったよ。まぁ出会うきっかけは大内君が皆に呼びかけたせいでちょっと今日は騒がしい感じだけど、よろしくね、オトヒメちゃん」

「あ、はい……ですの。よろしくお願いします、ですの」


 俺のやや後ろに隠れていたオトヒメがおずおずと前に出てお辞儀をする。斉藤先輩はニコニコと「やっぱり可愛いね~」と笑って門倉先輩に同意を求める。門倉先輩は穏やかに笑って「そうだね」と頷き、俺に目を向けてきた。


「大内君から聞いたかもしれないけどお昼は皆でバーベキューなんだって。もうすぐ始まると思うから散歩もそろそろ切り上げたほうがいいと思うよ?」

「まじか……もう?買い物とかは済んでるんですかね」

「うん。大内君のポンコツ車に積んであるよ。肉5キロだって。ほんと頭悪いよね」

「ごきろ……!?誰が食うんすか!まぁでも、了解です。俺達もビーチに戻ろうか、オトヒメ」

「はいですの」


 もう本当に大内先輩がこんなサークル催しにしてしまったせいで、ぜんぜんオトヒメとゆっくりできない。つかの間の散歩はほどなく終了してしまい、俺は再びからかわれることを覚悟しながら先輩達と共にビーチへ戻ったのだった。

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