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六話


僕たちは、おじいさんの家から祭りに行くことにした。


「いってらっしゃいませ」

さっきとは違うお手伝さんが、玄関まで見送りにきた。


ルイのおじいさんって、相当なお金もちなんだ。

僕は、そんなことを思った。なぜなら、家もそうだけど、ガレージには高級外車がなんと6台も止まっていて、みんな黒塗りで、ぴかぴかに磨き上げられていた。

どんな仕事をしているのか謎だけど、とにかくすごい家だ。


お祭りは、おじいさんの家から100メートルくらい行ったところにある神社で行われていた。


「ハル?先に神社にお参りに行きましょう」


「うん。誰が祭られている神社なんだい?」

 

「う~んと、よくわかんない。けど、確かどんなお願い事も聞いてくれる神様が祭られているわ」


「どんなお願いも?」

僕は、何をお願いすればいいのか迷いながら歩いた。


「ルイは、何をお願いするんだい?」


「ひみつよ。だって言っちゃうと、お願いが叶わなくなるっていうでしょう」


「そっか…」

ルイは何をお願いするのだろう?少し気になった。




神社に続く参道の両側には、屋台が立ち並んでいた。

ルイのお目当てのリンゴ飴の店もあった。

おじいさんの言っていた綿菓子の店や、良い匂いのするベビーかすてら屋やイカ焼きの店、射的、金魚すくい、たこやきにフライドポテトの店などずらりと並んでいた。





「わっしょい!わっしょい!」

威勢のよい掛け声がしてきた。


「おみこしが来たわ。神社に向かっているわ」

ルイが後ろを振り返った。


「子供みこしかな?」

僕も振り返ると、かわいい子供たちが揃いの法被を着て、小さなみこしを担いで来た。


「あれ?みこしの上に乗っているのは何だ?」


「ああ、あれはね、おうどんなのよ。もちろん作り物だから、軽いんだけど」


「どうして、おうどんなんて担ぐんだい?」


「前に話したことあったでしょう。悪さをする怪人がいたって、その怪人を捕まえるのに使ったのよ」


「うどんを?」


ルイと話をしていると、こどもみこしの後から、女の子の着物を着た小学生から高校生の男の子たちが、踊りを踊りながら僕たちの目の前を通っていった。


「ほら、悪さをする怪人を捕まえたってこの前言ったでしょ。怪人は女の子を捕まえて行くって言われていたから、男の子が女装して怪人をおびき寄せたのよ。そして、怪人がおうどんが好きらしくて、おうどんを食べている隙に大人たちが捕まえたのよ。そして、木の箱に閉じ込めたのだって」


「そっか。怪人を捕まえた時の言い伝えをこのお祭りで伝えているんだね」


「そうなんだ」


「えっ?」


「そうなのね。今まで神社にお参りして、おみこしを見て屋台を回ることしか考えてなかったから…そういう意味があったのねこのお祭りには。ハルはすごいね」


なんだかルイに褒められて、僕は照れくさくなった。


「わっしょい!わっしょい!」

今度はさっきの子供みこしとは違って、大きなおみこしが来た。


「大人のおみこしよ」


今度のおみこしの上には、太い縄がトグロを巻いた蛇のように乗せてある。


「この縄のも、意味があるのかな?」


僕が聞くと、ルイは待ってましたとばかりに、


「女装した男の子たちと大人たちが、この縄を使っておうどんを食べている怪人を捕まえたのよ」


「ふう~ん。よっぽど大きな怪人だったんだな。こんなにも大きな縄で縛ったのだから」


「そうね。相当大きいよね」


大人みこしが通りすぎると、最後は揃いの着物を着て、片袖を脱いだ女の人たちの踊りだった。お囃子もにぎやかだ。


「この踊りは、楽しそうだから、きっと怪人が掴まって喜びの踊りなのかな?」


「本当。お祭りにはちゃんと意味があったのね」


ルイは感心していた。




見物の人達の波について神社の中に入ると、おみこしを担いでいた子供たちや大人たち踊りの女の人たちでごった返していた。


紫の袴をはいた神主さんが、小さな木箱の前で祝詞を上げていた。


「あの箱が怪人の入っているという箱?」


「うん。怖いよね、出て来るなって神主さんが言ってるって、小さい時おじいちゃんに聞いたわ」


「どうやって、あの小さな箱に押し込んだのかな?」


「お塩を掛けたのだって、聞いた事があるわ」


「なめくじみたいに縮んだのかな?」




僕とルイは、人ごみを掻き分けて前に進み、神社にお参りをすませた。


「何、お願いした?」


ルイが言った。


「言ってしまうと叶わないんだろう?」


僕は、思わず、ルイにお願いしたことを言ってしまうところだった。(僕のまわりに宇宙人や緑のおじさんや、怪人なんかがもう出て来ないようにって)怪人を封じ込めることが出来た神社だから、きっと僕にも効き目があることだろうって、おもったからこのお願いにしたんだけど。


「そうね。わたしのお願いも教えてあげない」


「さあ、綿菓子、買いに行く?」


「違うでしょ!」


「あはは、リンゴ飴だっけ」


僕たちが、神社の鳥居をくぐって参道に出ると後ろから誰かが呼んでいるような声が聞こえた。


「お~い。」


やっぱり声がする。


「ルイ、何か聞こえなかった?」


「うううん。何にも」


「そう」


「お~い。助けて~ルパ~ン~」


「んん?やはり何か聞こえた」


「ハル?疲れてない?」


「助けて~ドラえもん~」


確かに何か聞こえた。僕は、後ろを振り返ったりキョロキョロと辺りを見回した。

しかし何も見えなかった。と言うより沢山の人で誰が叫んでいるのか分からない。


「おい、ハルさんよ」


ええっ、僕の名前を呼んでいる。誰だ?


「じゃじゃじゃじゃ~ん、正義の味方黄金バットとは、俺様のことだ!」


んん?どこかで聞いたことがあるような…。


「忘れたんかい」


そう言いながら僕のジーンズの裾の方を引っ張っているのは、緑のおじさんだった。


「ああ…!おじさんこんな所で会うなんて!」


僕がそう言ったので、ルイもおじさんに気付いた。


「まあ!かっわいい」


「おおっ、なんときれいな御嬢さん、初めまして以後よろしゅう頼んます」


おじさんはそう言ってルイと握手をしょうと手を伸ばしたが、背が低いので必死に背伸びしていた。


「まあ、緑のおじさん?手が届かないわね。ごめんなさい」


そう言ってルイが、下を向いた時おじさんはニッコリとした。僕はその時おじさんの目線を見て気づいた。どうもおじさんは、ルイの胸元を見ている。

ただのエロジジィじゃないか。おじさんは、言った。


 「ルイさん、祭りはたのしいか?」


 「ええ、とっても」


 「おじさんは、何をしに祭りに来たんだい?」


 おじさんがなかなかルイの手を離さないので、僕は少しムッとして言った。


 「何をしにとは、どういう事を聞きたいのかな?おじさんは、ただ祭りに来ただけなんじゃが…。きんぎょすくいが楽しみとか言って欲しいのかね?」


「まあ、おじさんも金魚すくいが好きなの?」


「おお、そうじゃよ~。家に持って帰るの大変じゃがのう」


明らかにおじさんの態度が、僕に対する態度とルイに対する態度が違っている。

もうこれは、早くルイからおじさんを離さないといけない気がする。

僕は、おじさんの手をルイから無理やり離して、ルイの手を引っ張って言った。


「ルイ、行こう」


「じゃあ、おじさんも一緒に行きましょう」


「おお、一緒に行こう、行こう」


「だめだ!」


「なぜ?」


「おじさんは、色々と忙しいんだよ」


「わし、何にも忙しくないぞ」


「じゃあ、一緒に屋台を見に行きましょう」


「だめだって言ってるじゃないか!」


僕が声を荒げたので、ルイはビックリした様子で黙ってしまった。 


 「わしもルイちゃんと行きたいのう」


 「じゃあ僕の質問に答えてからだ。おじさんは、一体誰なんだ?」


 「だから、おじさんは緑の…」


 「真面目に!」


僕が怒っていると気付いたのか、おじさんは僕たちを神社の裏手の方へ手招きして連れていった。



 「さあ、話してもらおうか」


神社の裏は、山がさし迫っており薄暗く誰もいなかった。

おじさんは、石の囲いに腰かけて俯いた。なんだかお母さんに叱られた子供がしよんぼりとしているようにも見えた。


 「さあ、おじさんは何が目的で僕たちの前に現れたんだい?」


 「おじさんは…」


おじさんは、なかなか話し出さない。ルイが言った。


 「ハル、人には言いたくないこともあるのよ。無理に聞かなくても…」


「いや、こいつは勝手に僕の部屋に忍び込んだり、いたずらしたり、ルイの…」


「えっ?わたしの?」


「いや、いい。おじさん!早く言えよ!」


「ううっ、じゃあお前たちにだけ話すとするか。おじさんはな、実はこの神社に祭られている箱の中の怪人なんじゃよ」


「怪人?」


「おお、そうじゃ。おじさんは、女の子が好きでな、昔から女の子と話をしたり遊んだりしたかったのじゃ、しかしなここの村人たちが、わしのことを恐れてな、なにしろわしは、昔は2メートル以上もあるオオオジサンじゃったから…それにわしには指の間にもう一つずつ指が生えておつて、全部で10本ずつ指があるじゃろそれでわしを捕まえようとしてな、村中の男の子に女の着物を着せて化粧もさせてな、わしは女の子が沢山おると喜んで遊ぼうと出てきたら、みんなでよってたかって、わしを叩いて蹴って、もう大変な目にあったんじゃ」


「まあ、かわいそうに」


「そうじゃろ」

「ルイ、こいつに騙されてはいけない!こいつの正体は恐ろしいやつだ」


「恐ろしいやつとは、なんじゃ。わしは、ただのおじさんだ」


「じゃあ、どうしてみんなに叩かれたり蹴られたりしたんだ?」


「それは…村の女の子といつも一緒にいたかったから、わしの家に、家と言っても山の洞穴みたいな所じゃが…。そこに、女の子たちを連れていったから、みんなが怒ったんじゃろ」


「まあ…」


ルイが僕の横から僕の後ろに隠れる様に回った。


「それで、みんなに掴まったんだな」


「そうだ、叩かれ蹴られ大変な目にあった上に、村人の誰かが小さい箱を取り出して(この箱に押し込め~)ってな。ギュウギュウと押されたが、わしがそんな小さい箱の中に入る筈もない。それで、また誰かが神主さんを連れてきて、まじないみたいな祝詞っていうのを唱えはじめたら、まあわしもビックリしたんじゃが、見る見るうちに体が小さくなっていって、箱の中に入ってしまったんじゃ。もう一巻の終わり!その後箱のふたが閉められ五寸釘が打たれ、わしはもう外に出れなくなってしまったわい。かわいそうじゃろ?」


「なにがかわいそうじゃ。自業自得じゃないか」


「さらに箱の上に村一番大きくて重い石が置いてあったんじゃ」


「でも、どうしておじさんは今ここにいるの?」


ルイがそう言った。そうだ、箱に閉じ込められたはずなのに…こいつ、抜け出したな。


「わしは、何年も箱の中でじっとしておったんじゃ。しかしな、一年に一回だけこのお祭りの日に箱の上の石をのけて、本殿からわしの入った箱を人の目の前でまた呪文めいたことを言うんじゃな。その日の為にここの神主さんが2~3日まえから準備するわけだ。箱の釘はユルユルになっておってな、石をどけてもらえばもうこっちのもの、わしは自由の身になれる」


「それで、僕の部屋に忍び込んでいたずらしたのか?」


「いたずら?ああ、あの時計か?時間が狂ってたんで直そうとしたらお前さんが気付きそうだったんで、とりあえず逆さに掛けたんだ」


「でもその後、時計を投げつけたじゃないか」


「ああ、あれは時計の針が動かなかったから癇癪おこしてな…」


「やめてくれよ。人の部屋のもの勝手に触るなっていうんだよ」


「でも、あのカップ麺は美味かったぞ~。ウマかったウマ勝った。で、ウシ負けた~」


「で、おじさんはどうして緑色の服を着てみんなの前に現れるんだ?」


「これか?この色は、ほれ、あれじゃよ。その~長い間箱の中におるから、まあ一年じゃが…カビが生えたってとこかな」


「カビ?」


「おお、だれも洗濯してくれんからな」


「おじさんは、お祭りがすんだら箱にもどるの?」


ルイが聞くと、


「おお、さみしいか?ルイちゃんが居て欲しいと言うんなら…おじさん、箱に帰らずルイちゃんとこに行ってもいいんじゃよ」


「ルイ、もうこいつと話すな!」


「おお、ハルさんのイケズ~」


「お前みたいなやつは、早く箱の中に戻ってしまえ!」


僕はそう言ってルイの手をひいて神社の表に回った。そして社務所に行くと、神主さんを探した。

神主さんは、忙しそうに紫いろの袴の裾をさばきながら歩いていた。


「神主さん、実はお願いがありまして」


「何か?」


神主さんは快く応えてくれた。


「お忙しい所、申し訳ないのですが、このお祭りが終わったら怪人の入っているという箱をしっかりと釘で打ち付けて、もう二度と怪人が出て来ないようにしてほしいのですが…」


「釘?」


「はい、僕は、信じてもらえないかもしれませんが、怪人を見たのです。また昔のようにいたずらをはじめるといけないので、しっかりと打ち付けておいてください」


「ほほう、貴方も見たのですか?実は私も最近、この祭りの前に可笑しなことが起きまして、どうもおかしいなと感じていたのですが…怪人の仕業とは…」


「もしかして緑のおじさん?」


「そうです。すぐにどこかに行ってしまったのですが…箱の上の石を神社のお世話人さんたちとどかして、祭りの準備をしていると箱のふたが開いたような気がしまして、傍に行きますと少し木のふたがずれているんで私が直したのですが…その時緑色の小さな人の形をした生き物が、逃げたような気がしまして、その時箱の中をみるとよかったのですが、先代の宮司から中には恐ろしい怪人が入っていると聞かされておりまして、とても見る事は…」


「そうですか…。でも、お祭りごとに抜け出しているようで、今回のお祭りの後はしっかりと釘打ちつけておいてください」


「はっ、ありがとうございました。」


神主さんは、僕の言うことを真剣に聞いてくれた。これでもう緑のカビのエロおじさんは当分出てくることはないだろう。

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