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五話

 ルイのおじいさんの家の前の空き地には、沢山の車が停まっていた。

「まあ、親戚が沢山来ているみたい。この車は、いとこのレオ君の車だわ。この隣に停めちゃお」

ルイはそう言って、派手な赤いスポーツカーの隣に停めた。

「この車はね、歯医者さんをしている、いとこのレオ君の車なの。う~んと、私より10才年上なの」

歯医者か…。通りで車の事をあまり知らない僕でも、カッコイイなと思う車に乗っているのか…。

他にその空き地に停まっている車も、なかなか大型車ばかりで、間違っても軽トラなんて一台も停まっていなかった。

「ここに停めてある車、全部親戚の?」

「うん、みんなお祭りを見にきたのね」

「なんか、僕が行っても大丈夫?」

「大丈夫よ。きっと大歓迎してくれるわ」

僕たちは、車から降りておじいさんの家の門をくぐった。

純日本建築の家で、まず、格子戸があり、玄関まで規則性は無いが、飛び石のように石が敷いてあり、その両側にいろいろ木が植えられ、きれいに剪定されていた。

少し奥に建物が見え、玄関には大きな表札がかけてあった。

その表札には、三条院豪之丞と書いてある。

僕が、表札を見ているのに気づいたルイは、

「この表札の名前、おじいちゃんの名前なの。なんだか怖そうな人が出て来るんじゃないかと、思うような名前でしょ。でも、会ったらわかるけど、全然名前と違う感じのおじいちゃんだから」

と言いながら、玄関の引き戸を開けて

「こんにちは。おじいちゃん」

と大きな声で言った。すると、すぐさま白いエプロン姿のおばさんが出て来た。

「あら、ルイさま。いらっしゃいませ。ご主人様が、首を長くしてお待ちですよ」

そう言いながら、手際良くスリッパを二足並べ、

「お連れ様もどうぞ」

とニッコリしながら、先に立っておじいさんのいる部屋へと案内してくれた。



家の中は、綺麗に掃除され無駄なものもなく、いくつも部屋があり、池のある中庭の周りを廊下伝いに僕たちは奥へと歩いて、一段と中庭の景色が良く見える部屋へと通された。

その部屋は、洋室でとても大きなソファーがあった。

「ここ、おじいちゃんのお気に入りの部屋で、滅多に誰も居れてくれないのよ。でも、ハルは大切なお客さまだから、特別なのね」

部屋の飾り棚には、象牙で作ってある置物やキラキラ光る花瓶、シルクで作った造花の花束、そして今にも動き出しそうな、赤ちゃんほどの大きさの金髪の西洋人形が、こちらを青い目で見ている。

「すぐご主人様もおいでになると思います。何か飲み物、お持ちいたしますね」

そういうと、お手伝いさんらしき女性は部屋から出て行った。

「ルイのおじいさんって、大きなお屋敷に住んでいるんだなあ。どんな仕事をしているの?」

「ルイもはっきりとは、分からない。でもおじいちゃんはね、黒い洋服を着た男の人たちとよく会ってお話してるわ」

黒い服?それってヤバイんじゃないか?

廊下をペタペタとスリッパの軽快な音が響いて来た。

そして、白髪の上品な白い和服を着た80才位の老紳士が入ってきた。

「やあ、ルイ、よく来たね。こちらは、彼氏かい?なかなか好青年じゃないか。お前の母親みたいに外国人じゃなくて良かった。最初、英語なんか話せないから、どう挨拶していいのか分からなかったよ。まあ、お座りなさい。今日は祭りだ。ゆっくりしていくといい」

おじいさんに進められて座ったソファーは、ゆったりと僕の体が、まるで雲の中に沈んでいくような柔らかなものだった。

「おじいちゃん、実はね、ハルの家に遊びに行った時に宇宙人さんと会ったのよ」

ルイは、何を言いだすのかと思えば、あの山で出会った宇宙人の話を始めた。

「そうか、ルイも会ったのか」

「うん、それでね。スペイン語が話せるのよ」

「そんなに大きな背丈ではなかっただろう?」

驚いたり、バカにしたりしないで、おじいさんは、宇宙人の話を真剣な眼差しで聞いた。

「おじいさんも、宇宙人と会ったことがあるのですか?」

僕がそういうと、おじいさんは、テーブルの上の箱から葉巻を取り出し火をつけようとして、

「一本、いいかね?」

と僕に断りをいれた。

「はい、どうぞ」

おじいさんは、葉巻に火をつけ、煙をくゆらせながら、

「あっ、何か飲み物」

と言いかけ、両手をパンパンと打ち鳴らすと、さっきのお手伝いさんが、トレーにコーヒーを乗せてきた。

「遅くなりまして、すみません」

そう言いながら、僕たちの前にコーヒーカップを出した。

「ルイは、コーヒーよりレモネードじゃないのかい?」

とおじいさんが言った。お手伝いさんがクスリと笑った。そして、

「もうルイ様も大きくなられましたから、コーヒーかと…」

と言うと、ルイも

「そうよ。おじい様、私はもうレディですから」

と言って、僕にコーヒーを進め、自分もコーヒーカップを手に取り、

「やっぱり、おじいちゃんの家のコーヒーは美味しゅうございます」

とかしこまって言うと、フフッと笑った。

おじいさんは、ルイの言うことは、何を言ってもにこにことして、聞いていた。


お手伝いさんが部屋を出ていくと、おじいさんは、宇宙人の話を続けた。

「わしが、見た宇宙人というのはだね。わしが、まだ中学校に行っていた頃、友達三人と海のそばの漁師小屋の中から、小さな人間と言っていいのだろうか、1メートルぐらいの背丈の人間が、銀色の全身タイツの様な物を着ていて、そいつらが、4~5人で小屋の中に出入りしているのを見つけて、隠れて見ていたら、なにか一生懸命運んでいくから、よく見ると、どうも魚の干物のようで、どうするのかと思って友と不信がっていたら、そのうちムシャムシャと音が聞こえてきて、どうも中で、そのなにか食べているみたいで、もう少し小屋にちかづいたら見えるかと音をたてないように、小屋の壁の木の穴まで近づいて、その穴から中を覗いたらなんと10人ほどの宇宙人が、干物をムシャムシャと頭からうまそうに食べていたんだよ。その時は、びっくりしたねえ。宇宙人でも干物を食べるんだってわかったからさ。宇宙人は、たぶん宇宙食とかあって、サプリの様なものをのむか、それとも何も食べなくても充電して動いているとか思っていたからね。友が、枯葉を踏んでしまって、カサッと音を立てたものだから、気付かれたと思って、ひとまず、逃げたんだよ。取って食われたら、大変だろ。それから、何度か、その小屋に行ってみたけど、もう二度と会えなかったね。あれ以来は…。何処かに逃げて行ったかどうかは、分からないけど、後になって宇宙人でも腹がへるんだと、一緒に見た友としばらく笑ったね。干物を食べていたのには、驚いたけど…ところで、ルイも会ったんだって?その話聞かせてくれないか?」

「おじいちゃんの会った宇宙人さんと、きっと同じ仲間よ。私、お話もしたわ。スペインにいたこともあるんだって。スペイン語が、上手だったわ。色んなところに行ったことがあるみたい。いいな。好きな所に宇宙船でピューと行けて」

「ほほぉ。宇宙船も見たのかい?」

「うううん。見てない」

「ルイ、実はね。ルイの楽しい空想を壊して悪いんだが…、わしは、見たんだよ」

「何を?」

「その、漁師小屋に出入りしている宇宙人の正体を…」

「なんだったの?」

僕も、宇宙人の正体を知りたくて、ソファーの前の方に座り直した。そしておじいさんの声がよく聞き取れるように、耳をそばだてた。

「う~ん」

おじいさんは、吸っていた葉巻を置き、少し前のめりになって、イタズラをする前の少年のような眼で言った。

「タヌキだよ。タヌキの仕業だったんだよ」

「タヌキ?」

僕とルイが、同時に言った。そういえば、ルイが前におじいさんの家の近くで、タヌキが人を騙すとか言っていた。

「そうだ。タヌキのやつ、上手に宇宙人に化けて、浜の堤防に干してある干物を少しづつ小屋に運んで、仲間と食べていたのだよ」

「どうして、タヌキだとわかったの?」

ルイが聞くと、おじいさんは、にっこりして、

「その宇宙人、銀色のタイツのようなものを着ていたけど、後ろを見ると、なんだか変なものがついていて、ふさふさとした尻尾のようで、友達の一人が、その宇宙人に「干物は、少し炙ったほうが美味しいと教えてやろう」とそう言って小屋に入っていって、持っていたマッチで火をおこして、干物を炙ろうとしたら、元のタヌキの姿に戻り、大急ぎで逃げて行ったのさ。はっはっは」

「取って食われるって、逃げたんじゃなかったの?タヌキさんって、火が怖いの?」

ルイが言うと、おじいさんは、

「一度は、逃げようとしたけど、その時、宇宙人が振り返った時に尻尾があるのにわしが気づき、友に言ってもう一度小屋に戻ったのさ。タヌキは獣だからね。獣は、火が怖いと昔から言うじゃないか。キツネやタヌキに騙されない様に、昔の人は、お酒に酔って帰り道、よくタヌキ達に騙されて、みやげにもらったお寿司なんかをだまし盗られていたんだよ。だから、お寿司の折ずめなんかの箱には、マッチ箱が添えられていたのだよ。まあそれで、友が宇宙人の正体を暴いてやろうと、火をおこしたのさ」

そうか、獣は、火が怖いと言われている。

んん?もしかして、僕が山で会った宇宙人もタヌキが化けていたのかもしれない。海で洗濯していたあいつらも……。そうか、タヌキの仕業と考えると、そうかもしれない。山の中や、人のあまりいない所に奴らは、現れるからだ。あの時、火を見せてやれば、正体がわかったかもしれない。

でも、それなら、コンビニで会った子供は?そうか、タヌキは何にでも化けられるから…、人間の子供にだって化けることは可能だ。

でも、一つ疑問に思うことがある。タヌキは、人間の言葉が話せるのだろうか?しかも、スペイン語まで…。

「タヌキって賢い動物なんですか?人間の言葉も話せるのですね?」

僕がそういうと、おじいさんは、

「確かに、人を騙そうとするには、何か目的があって」

「目的?」

「そうだよ、人間を騙して、食べ物を奪おうという目的が多いんじゃないかな」

「食べ物?タヌキさんは、なんでも食べるの?」

「ああそうだ。雑食だからね。ルイが会ったという宇宙人もタヌキじゃなかったのかな?尻尾が生えてなかったかね?ふはっはっは」

確かにおじいさんの言う通りかもしれない。宇宙人に出会ったことで、ビックリしてしまって、相手に顔や行動ばかり見ていて、尻尾が生えていたかどうかなんて、しっかりと見ていなかった。

「ハル?もう一度あの山に行って、宇宙人さんかタヌキさんか、確かめに行かない?」

ルイは、僕と同じ事を考えていたようだ。

「さあ、タヌキの話は、もうおしまい。今日は、祭りだ。存分に楽しんでおいで。もうみんなも行ってるはずだ」

おじいさんは、そう言ってルイにおこずかいを渡した。

「これで、ルイの好きなわたがしでも買ってきなさい。ふはっはっは」

「おじいちゃん!私は、もう大人よ!わたがしなんて、もう買わないから」

「おお、そうかいそうかい」

「ふ~んだ」

「あっはっは。じゃあ、何を買うんだい?」

「りんごあめよ」

「りんごあめ?それは、大人になったもんだ。はっはっは」

おじいさんは、笑いながら立ち上がり、その部屋から出ていった。

僕も、可笑しかったけど、おじいさんの前では、にっこりとほほ笑んだだけだった。おじいさんが、部屋から居なくなり急におかしくなり、声を立てて笑った。

ルイは、プイと頬を膨らませ、

「何がおかしいのよ?りんごあめは、大人の食べ物よ。だって、ママが小さい時に(りんごあめは大きいから、ルイは大きくなって全部食べる事が出来るようになったら、買ってもいいわ)って言ってたもの」

「それで、今日りんごあめ?ルイは今日から大人の仲間入りなんだ」

「いいでしょ?りんごあめ食べてみたかったんだもの」

僕がまだ笑っているので、ルイはますますほっぺを膨らませて、

「ふ~んだ。おじいちゃんもハルもキライ!」

と言った。

「あんまり、ほっぺを膨らませると、ルイのほっぺのほうが、りんごになってしまうよ」

「もう、知らない」

ルイもソファーから立ち上がり、

「さあ、お祭りに行きましょう」

と言った。

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