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四話

 シャワーを止めると、部屋の方で何かガタガタと音がする。

少しビビった。何者かがいる。体を拭きながら、部屋の音の様子をうかがっていた。

思い切って、風呂の扉を開けた。そして、なるべく大きな音を出して、風呂から出た。何も音がしなくなった。

 まだ油断はならない。僕は、鼻歌を歌いながら、頭を拭き拭き柱越しに部屋の中を見回した。

 何も起きていない。

「ああっ」

さっき飛んできた時計が、元の壁に掛かっている。

「疲れているのかな?」

僕は、目をこすった。やっぱり、元の位置にある。

「いや、待てよ。何かおかしい」

時計の側に行くと、分かった。

「時計が、逆さまじゃないか」

やはり、何者かがいる。僕は、怖いというより、勝手に人の部屋に入って、イタズラをする奴を捕まえてやろうと考えた。

「誰かいるのか?出て来い!」

………。

「出て来いと言って、出て来ないなら、探し出して懲らしめてやるまでだ」

………。

「さあ、出て来い!」

………。

誰も出て来ない。誰もいないのか。一人で叫んでいる僕を隣の部屋の住人は、ついにおかしくなったと、思っているかもしれない。

 作戦変更だ。

「イタズラした事は、許してやるから出て来い」

 ………。

相手も、なかなか手ごわい。もしかすると、頑固じじぃかもしれない。

じじぃ?……緑のおじさんか?おじさんとか言ってるけど、案外じいさんかもしれない。

 そうとなると、第2作戦だ。

「隠れているのは、巷で緑のおじさんと呼ばれているおじさんか?もし、そうだったら

一度姿を見せてくれないか?」

………。

なかなかの頑固者だ。

それでは、最終作戦だ。僕には、これ以上の作戦を考えられなかった。


「かくれんぼに疲れたから、何か食おうと思うけど、あんたも腹減ってないか?もしよかったら、あんたの分も作ろうと思うけど…」

………。

やはり、だめか。

そう思って台所に立って、冷蔵庫を開け何か残っていたかと覗いた時、僕の下で、緑のジャージのおじさんも覗いていた。

「わあっっ。ビビった!」

僕の大きな声に、おじさんもビックリしたのか、三歩下がって両手を上げ

「いきなり、大声を出すな。驚いて心臓が飛び出るかと思ったがな」

わあっ、おじさんが喋った。しかも日本語。しかも関西弁。

「おじさん、関西人?」

「そんなことより、何かこしらえて食わしてくれ。腹が減って死にそうじゃ」

「ああ、分かったよ。何食う?」

「お前の冷蔵庫の中身は、何にも無いじゃないか」

「急に来られても、何にも用意してないし…」

って、そんなことより、ルイに見せる為に緑のおじさんの写メを撮らないと。

でも、まだ会ったばかりだし…。やはり、まず、御馳走しなくては…。

「おじさん、カップ麺食べる?確か二つ残っていたから」

「体に悪いものばかり食ってはるな~。骨、溶けてまうやろ。けど、それしかないんなら、しょうない、カップ麺でも御馳走になろか」

「じゃあ、お湯沸かすから、待ってて」

僕は、おじさんと自分の分のカップ麺を用意した。

「来るって言ってくれたら、ステーキでも用意してたんだけど…」

「ステーキを買うてくる気もないのに、そんなことよう言うわ。よし、明日もまた来る言うたら、ステーキ食わしてくれるんか?」

「明日来てくれるのか?」

「ステーキ食わしてくれるんならな」

「ああ分かった。用意しておくよ」




おじさんと僕は、カップ麺をすすった。

「俺はな、カップ麺は、ラーメンよりうどんの方が好きなんじゃ。特にキツネうどんがな。ドンドンペイとかいうやつが最高やないかい」

よく喋るおじさんだ。

「おじさん、名前は?」

「俺か?グリーンマンとでも言うんかのう、リョクとかもかっこええのう、まあ、昔のことは忘れたわい」

「じゃあ、何歳?」

「ううん、むずかしい質問じゃ、いくつと言われても」

「それも忘れたの?」

「いや…」

年齢は、忘れてないみたいだ。

「ああ、たぶん50才から60才くらいだったと思うんじゃが」

「たぶん?」

「ああそうじゃ、他人の年齢をあまり聞くもんじゃない」

女性であるまいし、どう見ても70はいっている。同年齢を忘れるくらいボケてるのかな。

「ごめん、ごめん、じゃあ何処から来たの?」

「こっちからじゃ」

そう言って、おじさんは窓の方を指さした。

「窓?そちらはベランダだよ」

「ああ、窓の鍵はしめて出かけないと、泥棒が入ってくるぞ」

泥棒って、お前が勝手に入って来たんじゃないか、お前が泥棒じゃないかと思ったけど、まだおじさんに聞きたいことがあったので、気持ちをとりなおして話を続けた。

「どこで生まれたの?」

「そんなこと覚えてないわい。と言うより、わしのおっ母は、もうとっくの昔に死んじまってのう、あの日は寒かったんじゃ…お前も覚えているじゃろ?」

「僕は、おじさんのお母さんに会ったことなんてないよ」

「お前さんが、小学生の4年生の頃じゃったと思うけど、忘れたか?」

「僕、知らないよ」

「えっ?あっ、そうか、お前さんとは、今日会ったばかりじゃ、すまんすまん、つい前からの知り合いのような気がしょったわい。そうか、今日会ったお前に言うても、分からんことじゃ。あっはっはは…」

「で、何処に住んでいたの?」

「ん?色んなとこを旅していてな。まあ、さすらいの旅人ってところじゃな。生まれも育ちも……葛飾じゃなくて、世界を股にかけてさすらう男じゃ。どうじゃ、かっこいいやおまへんか~」

「おじさん、おじさんは、関西弁で話すところをみると、大阪の生まれじゃないの?」

「おお、お前さんいい勘しておるの、お前の推理は実にすばらしい」

「おじさんの仕事は?どうやって生活してるの?」

「んん、難しい質問じゃな。わしの仕事は、そうじゃコメディアンか、俳優か、はたまたサッカー選手といったところでおまんわな」

「まるでルパン3世みたいだね」

「おお正解~」

おじさんは、僕の質問にまともな答えを出してくれないのか、答えられないのか、たぶん忘れてしまったのか、茶化されているのか、僕は判らなくなってきた。

少し、おじさんと仲良くなったので、ここで一番聞きたかったことを聞くことにした。

「おじさん、僕の友達がおじさんと会いたいって言うんだけど、今度会ってくれる?それから、おじさんと一緒に写メ撮りたいんだけど、だめかな?」

「それは、女か?」

「うん」

「よし、分かった。会おうじゃないか」

「本当?会ってくれるんだ」

「男に二言はない。いつ会えるかな?」

女と聞いて俄然張り切ってきた。なんだかルイに会すのが、不安になってきた。でも、ルイに話したら、きっと会いたいと言うにきまっている。

「とりあえず、僕と一緒のところの写メを撮って、その写メを友達に見せて、都合のいい日を連絡するっていうのはどう?」

「写メ?」

「うん」

「写メってのは、どうやってとるんじゃ?」

「こうやって」

と、僕が携帯を構えると、おじさんは、すばやい速さで画面に映らない場所に逃げた。

「どうしたの?」

「お前さんは、今わしを狙ったじゃろ?」

「ええっ?違うよ。写メっていうのは、写真を撮ることだよ」

「小型鉄砲で、わしの息の根を仕留めようとしたではないか」

「小型鉄砲?」

僕はおかしくて、笑いが込み上げてきた。

「これは、携帯電話だよ」

そう言って、おじさんに画面を見せた。そして、ルイに電話を掛けた。

「もしもし、ハル?」

ルイが、電話の向こうで話す声を聴いておじさんは、ゆっくりと近付いてきて携帯を見た。

「あ、ルイ。ごめん、今、緑のおじさんが、僕の隣にいて一緒にカップ麺食べていたんだ」

「ええ?わたしも話がしたい」

僕は、おじさんに携帯を渡した。

「友達が代わって欲しいって、何か言ってあげて」

おじさんは、携帯の裏や表を見た。そして、何も言わず、僕に返した。

「おじさん、何か言ってくれよ」

電話の向こうで、「もしもし」とルイの声がしている。

「あっ、ごめん。おじさん、緊張しているのかな?今日は話せないみたいだ。また電話するよ。おじさんは、ルイに会ってくれるって約束したんだけど、また日が決まったら電話するね」

そう言って電話を切ると、おじさんが、

「線が繋がってないのに、電話が出来るなんて、おかしいじゃありませんか。何処で、しゃべっておった?」

「おじさん、携帯をしらないの?」

「携帯?携帯食?」

「違うよ。携帯電話だよ」

どうやら、おじさんは、よっぽど昔の人か、年をとっていて携帯を使った事がないようだ。

写メを撮ろうとすると、逃げまわって、結局無理だった。

「腹も一杯になったし、そろそろ帰ろうかのう」

「もう、帰るのか?もう少し、話を聞かせて欲しいよ」

「いや、色々と忙しくてな。また来るわい」

「今度、いつ来る?」

「気がむいたら、また来るわい」

「えっ?友達とは、いつ会ってくれるの?」

「そうだのう、お前さんがわしを呼んでくれ」

「何て?」

「助けて~ルパン~がええかな」

「そんなの恥ずかしくて、言えないよ」

「じゃあ、ドラエモ~ン」

「あのね、おじさん~って呼ぶよ。ちゃんと来てくれよ。てか、呼んだらくるのか?」

「あっははははは…。笑い声だけを残して、正義の味方黄金バットは、帰って行った」

「少し古いよ」

「ほな、さいいなら」

おじさんは、そういうと(しゅっ)と、消えた。

僕は、部屋に中を見渡したが、おじさんはどこにもいなかった。

「どこに行ったんだ?」

クッションの下にもいなかった。ドワの開く音もしないし、あけてもいないに、どこから出て行ったのだろうか?おじさんは、僕の部屋からいなくなった。




「おはようハル」

元気のいい声が聞こえる。ルイからの電話だ。

「昨日、おじさんは本当にハルの家に来たの?」

「ああ勿論」

「じゃあ、おじさんの写メ送って」

「それが…。おじさん、写メ撮ろうとすると逃げるんだ。命を盗られるかととにかく逃げまわすんだよ」

「あ~あ。残念!」

「でも、いつかルイとも会ってくれるって」

「わたしの友達みんな、緑のおじさんを見たって、言うんだよ。私も早く会いたい」

「今度来たら、ルイも呼んであげるよ」

「わ~い。ねえ、今から、私のおじいちゃんの家に遊びに行かない?パパから車借りたから、迎えに行けるけど」

「おじいさんの家?隣の町だったよね?突然におじゃましてもいいの?」

「うん大丈夫。今日はおじいちゃんの町の神社がお祭りだし、ごちそうもあるかもよ」

「じゃあ行こうか」

「すぐに迎えに行くから、用意して道路に出ていてくれる?」

「わかった。気をつけて」





僕は身支度をして、道路まで出た。

すぐ、ルイが来た。パパの車というのは、なかなか派手な大きい白い外車だった。

僕は、車にあまり興味がなかったので、車種はわからなかったが、道幅いっぱいに堂々と走ってくる姿は海に泳ぐサメのようだ。

「プォ~ン」

クラクションの音も重厚な音で、ここちよく辺りに響いた。

「お待たせ、ハル」

「いや、さっき出て来たところだよ。パパさんの車、高級車じゃないか、よく貸してもらえたね」

「うん、パパは、いつも黒いベンツの方に乗っているからね。これはガレージの中にばかりいて可愛そうな車なのよ。さあ、乗って」

左ハンドル車なので、僕は反対側にまわって車に乗った。シ―トも真っ白でまるでソファーに座っているようだ。

白馬の王子様が迎えに来るって言う物語は、よくあるけれど、白い外車でお姫様が迎えに来た。と言ってもいいくらいだ。

僕は、かしこまって座っていた。

「ハル?今日のお祭りね、神社の氏子がみんなでおみこしかついだり、男の子が女装して踊りを踊ったり、出店も沢山あって楽しいのよ」

「男の子が女装?」

「うん、なんか昔女の子が好きな怪人がいて、女の子を連れ去っていったんだって、それで男の子が女装してその怪人を捕まえたんだって、そしてその怪人をみんなでこらしめて小さな箱に押し込んだんだって、そうしたら大人しくなって、それ以来悪さをしなくなったから許してあげたみたい。で今日がそのお祭りなのよ」

「ふうん」

女好きの怪人で、小さい箱に入れられた。ということは、もしかして僕の推理があっているとすれば、その怪人は小さいということではないのか。ということは、緑のおじさん!あるいは、あの山の宇宙人!あるいは、また別の何者か!

真相は判らないけれど、もしかすると今日の祭りで判明するかもしれない。

しかし、このパパさんの車は一体いくら位するんだろう?うん千万円もするのだろうか。パパさんは、どんな仕事をしているのだろう。もしかして、やばいお仕事をしていたりして。

「ルイ、おじいさんは僕が来ることを知っているんだろうか?」

「もちろんよ。沢山ごちそう作って待ってるって」

ルイの運転は、なかなか慣れたもので、狭い道に入ってもすぅーっと滑る様に、少しも心配なところなくおじいさんの家まで行った。おじいさんの家は、りっぱな門構えの日本建築の家だった。

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