八柱
我らは世界の最初
我らは眠りにつきし母の夢の始まり
我らは母の創り出した最初の八つの存在
我らは異なる形持つ
我らに雌雄の差はあれども
我らが相争う事は無い
我らが互いを憎み合う事は無い
我らは母より与えられた命題を為すことを優先するがゆえに
我らはただ与えられた使命を果たすのみ
我らは世界を創る
世界は泡沫の夢
泡の如く容易く弾ける星の集い
幾億もの星の集いが世界を形作る
星の中に住まうは小さき子
我らの創り出したる小さき生き物達
星を動かすは小さき者達の思い
思いの連なりが世界を動かす
我らは世界を見つめる
我らの庇護に甘んじる世界の流れを
時には世界に我が身の分身を置き
欠片を通じて移ろいゆく世界を見つめる
外から眺めるのみでは何も届かないからこそ
小さき子らの抗い続ける姿を
脆弱ゆえに抗う意思を持つその姿を
ただ見つめる
我らは識る
移ろい行く世界に落とした分身
我らの欠片なれど我らの意思に非ず
ゆえに我らの思惑に関わることなく
ただ己が意思で過ごす
その寿命尽きたとき我らの元に還る
そして我らは識る
世界の有様を
在り様を
我らの分身
異なる我らの分身が
同じ世界に立つ事もあろう
時には手を取り合い
時には敵対し
時にはすれ違うことなく生を終える
されど我らがその意思によって争う事は無い
我らが憎み合う事は無い
欠片の思いは欠片のもの
我らにとって世界はただ知る為の場に過ぎない
我らにとって分身はただ知る術にしか過ぎない
我らは選択肢を示す
我らの分身は我らが欠片
時には力持つ者として
時には力無き唯人として
星に降り立ち
抗い続ける子らにつきつける
安穏たる停滞か 激動の独立か
全ては子らに託す
我らは受け入れる
子らの選択肢を
我らの手を離れる事を望むか否か
選ばれる中では
時には我らが欠片に刃を向ける
それもまた一つ
我らはただ
驚きと喜びと悲しみと静寂をもって
世界を受け入れる
我らは世界を渡る
無限に広がり続ける世界を知る為に
我らの手を離れた世界が何処へ行くのか見届けるために
咲き誇る世界の可能性を識るために
散り急ぐ世界を見定めるために
千々に散らばる星の連なり
世界は一つからなるように見え
星の連なりが世界を創る
ゆえに我らは世界を巡る
世界に安寧を齎すために
我らは世界を壊す
肥大した世界が悲鳴を上げるからこそ
可能性が潰えた事を知るからこそ
だが大きな目で見れば些事
小さな星が消えるだけ
幾多にも重なり続ける世界の数々
その中の一つが消えようと
母の夢に終わりは来ぬ
終焉は新たなる始まりの呼び声
ゆえに我らは破壊する
安らかなる終わりを与えるために
我らは進む
終わらない世界を維持するために
我らを創りだしたる母の望みのままに
母の眠りを守るために
終わることのない世界を創りつづけ
夢を壊し続ける
夢は広がり続ける
母のみの夢に限らず
世界の見る夢は広がり続ける
我らの手を離れた果ての果てに
なにが待つのかを知らぬゆえに
我らは進み続ける
我らに名は無いが
創り出したる世界に在る者達は
我らの存在を識るからこそ
知らずとも信じるからこそ
欠片を我らと思うからこそ
自らの得た言の葉を使い
我らに意味を持つ名を与えた
ある世界では
我らを神と呼び
我らを神と呼んだ
またある世界では
我らを悪と呼び
我らを善と呼んだ
時には悪神と呼び
時には善神と呼んだ
どのような名を付けられようとも
我らを戒めるに足る名は無い
我らを満たす名は無い
それでも飽きることなく名を与える
ある者達は創造神と呼び
ある者達は創造神とも呼んだ
どのような名を付けられようとも
我らに響くものは無い
どれほどの名を付けられようとも
我らを縛るに足るものには至らない
ただ
我らの命題を鑑みた名を付けるならば
ある世界の言葉を借り呼び名を付けるならば
<揺り籠の番人>が正しいであろう
決して母の眠りを妨げる事なく
揺り籠は永久に広がり続ける
我らは創り続ける
我らは母の眠りを守る存在
母の眠りを守り続けるために
我らはそのための番人であると理解するからこそ
母の目覚めは成してはならぬと心に刻む
母の目覚めは世界の終わり
母の目覚めは夢を泡沫の幻の如く消し去る
それは我らの終焉
それは我らの消滅
そして創り出したる全ての世界の終焉
ゆえに目覚めた母の傍に広がるのは
果て無き無の空間
幾度と無く繰り返される再びの孤独に泣くが故に
我らは眠りを守るべく創る
ああ
何も知らぬ子らよ
世界の中の泡沫の星に住まう小さき子らよ
母の眠りに触れること無かれ
知らぬは一つの幸福
己が母の夢の一つと知らぬからこそ
星の中で踊り続ける
知る事は一つの不幸
自らの運命という楔に囚われ
道を見失うこともあろう
それもまた母の夢の一欠片
眠れる母は時折欠片を落とす
残酷にして優しき欠片
安易に手出しすれば
如何なるものに巻き込まれようとも
それは己が選択肢の末の結末
どのような結末を迎えようとも
それは全て己が選択の答え
ただ
万に一つの可能性
だが無きにしも非ず
世界は時に我らにも考え及ばぬ出来事を齎す
だからこそ
何も知らぬ星の子らよ
母の眠りに触れ
母の眠りを妨げること無かれ