黒の結晶
<人>は世界の安寧を願い地上に住まう者達を導き続けた
だがいくら強大な力にも限りある
地上に住まう者達を導き続けるためにも
己が力のみでは不可能と考えたからこそ
<人>は創りだした
力を補うための力
それが<黒の結晶>
それは大いなる力を秘めた結晶
だがそれこそが全ての過ちの始まり
大いなる力の誕生に
最初<人>は喜び
時が経つにつれ戸惑い
果ては持て余すようになった
あまりにも強大な力
誤れば一国を滅ぼすも容易いほどの力
次第に<人>は
<黒の結晶>をいかにして壊すかに苦心する
大いなる力は
力を求める者をも呼び寄せる呼び水
人間は力を求めた
自らの知識だけでは足りないと
自らが編み出した力だけでは足りないと
<人>が創りだした力をも求めた
力は力
道具は道具
それに過分な意味はなく
善悪の区別もなく
使うものによって意味は創られる
また求めるものも
立場違えれば意味も変わる
人間は気づかない
<人>でさえ持て余していた物を
なぜ扱うのは容易きことと信じられるのか
自らよりも力持つ存在が
あってはならないものと
破棄することを望んだというのに
目先の欲に踊らされた人間たちは気づかない
自らの欲望に従い
絶大なる力を手に入れる事こそが
自らの未来を更に輝かせると信じるからこそ
人間は止まらない
欲望に濁った目に破滅の未来は映らない
押し寄せる人間の欲望に塗れた視線に
<人>の王と王妃は
悲しそうに顔を伏せ
静かに王城の奥へと姿を消した
<巫女>の先を見通す目で分かっていた
<人>の得た力故に
都市の終焉は予定されたもの
だが<人>の滅びはまだ早い
いずれは始祖と同じく解け消える
それは流れる運命の中で
逃れることの出来ないもの
終わらぬものはない
だがしかし
たとえ<人>としての種族の終焉は迎えようとも
新たなる形を得て脈々と継ってゆく
故に選んだ
新たなる選択肢を得るための時間を得ることを
王は一つの命を下す
人間が攻め込んでくる前に
都市に住んでいた者達を
地上へ また異なる場所へと逃すことを
人足の絶えた都市はたやすく陥落し
最後の王と王妃は
一つの魔法を使った
そして
栄光を示した空中都市は地に落ち
大陸は封じられた
<人>の中で最も力持つ存在が
自らの命でもって全てを封じた
誰も手を出せないように
誰の手も届かないように
そして守るために
誰にも知らせず封じた
全てを終わらせるまで
誰にも手を触れさせないために
閉じた大陸の中で
全ての者達は変わらず暮らす
変化を見せながらも
すべての者達は待ち望む
いつの日か
自由の空へと飛び立てる瞬間を
時至るまで
いつの日か
必ずこの結界は解き放たれる
だから待ち続けるのだ
解き放たれる瞬間を
石が壊される日を……