神
時は流れ
世界は廻る
時の流れは無情に残酷で
千変万化
時に優しく美しい
流れは留まることを知らず
それ故に幾多の選択肢を与え
選ぶ権利が与えられる
選ぶのは自由
どの選択肢を選ぼうとも
全ては許される
それが望む結末か
望まざる結末か
現在を生きる者達に
未来を紡ぐ権利はあれども
未来を知る術は無し
万物流転
未来は如何様にも転変する
世界が始まりの者達を忘れ去るほどの時間が過ぎた
世界を席巻するほどのものとなった人間
だが人間が決して超えられぬものがあった
それは始まりの種族
<竜族> <魔族> <人族>
彼の者たちに与えられた命題は
安寧を作り出すこと
安定をもたらすこと
そして神が創りだした世界を導くこと
それぞれの種族が
それぞれの考えのままに行動する
<竜族>は知識と知恵で以って教え導き
<魔族>は力で以って支配し
<人族>は統治することで安定を齎した
彼の者達は
地上に住むどの生き物よりも
長い生を生きる存在
彼の者達にとって
地上に住まう生き物たちの生は
星の一瞬の煌めきに等しい
未だ混沌とした世界
世界の形は未だ不安定で
同時に未だ地上の種族もまた不安に揺れ動く
定まらぬ故に天秤の針は激しく動く
彼の者達は
時には無情な審判を下し
時には癒しの手を差し伸べる
彼の者達こそ
地上に生きるどの種族よりも
畏れ敬うべき存在
他の種族がそう考えるのは
しかたのないこと
だが彼の者達は
自らが神では無いことを知るからこそ
神に近しい存在は世界に解け消えたことを知るからこそ
自らを神と称することは決してなかった
しかし短い生を生きる者達にとって
特に人間にとって
彼の者達の偉大さに
違う感情を抱く
人間と同じ姿をも持ちながらも
<竜>のもう一つの姿
人間の目を一番引いたのが
並び立つ我が身を矮躯と思わせるほどの雄々しき姿形
天地を食らうほどの大きな顎
雄大なる空を駆け支配する勇壮なる姿
時に牙をむく獰猛なる姿は恐怖すら抱かせる
だからこそ人間は<竜>を恐れた
<魔>は様々な形持つ存在
時に醜く 時に優美で
時に勇ましく 時に厳しく
時に儚く 時に慎ましく
異形の姿持ち 異彩を放つ
人間を惑わし 迷わしめ
時には弄び 時には救いの手を差し伸べる
千にも及ぶ種族に別れるその姿は
時には畏怖すら抱かせる
だからこそ人間は<魔>を畏れた
先の二つの存在と違い
人間は特に<人>を厭うた
先の二つと違い異なる姿持たぬ存在
だが姿形は同じだというのに
自らの持ち得ない圧倒的な存在感に
そして種族を超えて誰もがその美しさに魅了される
強大な力を持ちて世界を導き続け
求めても得られない
永久にも等しく感じられるほどの寿命を持つ
近いもののようでありながら
あまりにも遠すぎる存在
違いすぎるその在り方に
人間は何よりも<人>を
――羨んだ
人間は何も知らぬからこそ
短い生の中で生きるからこそ
知識を薄れさせ忘却の中に生きるからこそ
長い寿命を生き
強大な力持ち
雄々しき姿持ち
異形の形持ち
何よりも抗いがたい魅力を秘め
決して到達出来ぬ場所に立つ存在を
自らの決して超えられぬ存在を
敬意と畏れを込めてこう呼んだ
<竜神> <魔神> <人神>
これはささやかな出来事
超えられぬもの故に
手の届かぬゆえに
<神>の尊称をつけ呼んだ
それは純粋なる敬慕の念
だが後に
引き金を引くこととなる
始まりの合図