表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

神話





 遥か遠い昔の話


 未だ何も存在しない世界の中心で


 物語は静かに語られ始める





 世界を創った神達は



 地上を彩るものを


   地を駆けるものを



 水中に漂うものを


   水に住まうものを



 空間を泳ぎ渡るものを


   空を飛ぶものを




 世界を豊かに彩る


 様々な言葉持たぬものを創りあげた


 次に創ったのは言葉持つもの


 最初に創りだされたのは三つの存在




 <運命の観測者(オルディネ=ヴァール)


 創られた姿は


 二本のまっすぐ伸びた角と一対の翼もつ凛々しき形


 また同時に異なる姿をも持つ


 それは天地を喰らうほどの雄々しさ秘めた


 百の獣を合わせた勇猛なる姿



 <孤高の調停者(エテルノ=ソリトゥス)


 創られた姿は


 角を三本持ち二対の翼に不可視の翼を持つ威容


 同時に持つ千の異なるその姿は


 定まらぬゆえに見るものに多種多様なる思いを抱かせる



 <忘却の先導者(オルビド=アルモニユ)


 先の二者と違い異なる姿を持たず


 整った顔立ち以外さしたる特徴を持たぬ


 だがそれ故か創られた姿は


 全ての種族を魅了する優美さを秘めたものとなった




 始まりの者達に神は道具を与えた



 <運命の観測者>の手に掲げられしは天秤


 <孤高の調停者>の手に握られしは剣


 <忘却の先導者>の手に掴みしは杖




 神は世界をこの三者に任せると


 新たなる世界を創るべく旅立った


 後を任された三者


 それぞれがまず最初に創りしは自らに似た生き物を




 <運命の観測者>は<(シャンヴール)>を


 <孤高の調停者>は<(シュトゥルム)>を


 <忘却の先導者>は<(ヴェレーノ)>を




 それに続くように次々と


 時には一人で 時には協力し合い


 言葉操るものも そうでないものも


 地に立ち駆け巡るものも


 水の中を泳ぎ住まうものも


 空高く舞い上がり舞い踊るものも


 多彩にして多種多様なる生き物が創られた


 地上を様々に彩る生き物たちを創りあげた三者は


 最後に人間レミュルクを創った



 三者は世界に生き物が満ち溢れるのを見届けると


 最初に創りしものにそれぞれ王を定め


 世界にその身を横たえると


 その姿はゆるやかに解け消えた




 王を定められた三者の一族


 それぞれ自らの一族をこう名乗った


 <竜>は<竜族(シャルヴァン)


 <魔>は<魔族(ソリトゥルム)


 <人>は<人族(ヴェルモニア)




 地上に残された様々な生き物たち


 様々な変化を見せながら関り合いを持ち


 時には諍い


 時には協力し合い


 生き物たちは世界をめぐる




 王を定められた一族


 <竜>は知識と知恵を使い全てを見つめ


 <魔>は力で以って全ての有り様を平定せしめ


 <人>はただ静かに全てを導いた




 そうした平静の時がどれほど流れただろうか


 創りあげられた生き物たちは


 変化し 進化し 退化しながら


 世界に広がってゆく



 <竜>はもうひとつの姿で空を駆け世界を見つめ


 <魔>は様々な姿形を映し出し周囲に溶け見つめ


 <人>は変わらぬ姿で全てを見つめた




 変わらぬ世界


 だが確かに変化はある


 ささやかな変化


 時には大いなる変化


 変化は確実に世界に住む全ての生き物を飲み込んでゆく



 <竜>は些細な変化に視線を向ける事は無かった


 <魔>は変化に気づきながらも静観した


 <人>は移ろう時の変化に何かを察した




 時の流れは残酷


 されど時は無情に流れ行く


 時は移ろい


 生き物たちの感情も移ろう


 時代の流れと共に


 それぞれの在り方も移り変わる



 <竜>は争いの種を静かに見つめ


 <魔>は時に諌め時に諍いを増長させ


 <人>は変わらず導きそして守った




 歯車が狂い始めたのはいつの頃からか


 気付けばそれぞれの種族は互いに相争うようになっていた


 種の存続を守るため


 己が楽しみのため


 様々な思いを抱き他を淘汰すべく


 種族の広がりと共に争いの種火は広がり行く


 特に人間の増加は目覚ましいものであった


 他の種族と違い特筆すべきものを持たない代わりに


 知恵と知識を駆使し


 その繁殖力でもって世界に一番広がりを見せた



 <竜>は冷ややかな視線を向け時に爪牙をふるい


 <魔>は己が考えのままに自由に場をかき乱し


 <人>は二者の行いを諌めるに止めた




 争いの種は大地に生きる者達全てに飛び火する


 誰もが各々の思惑のままに動き始める


 己が欲望のままに


 己が信念のままに


 互いを助け 撃ち滅ぼし


 互いを傷つけあい 癒しあった


 誰にも止められない


 時代は変化し


 地上に住まう者達も変化し続ける


 留まる事を選ぶものも 進み続ける事を選ぶものも


 終りを迎えるものも 新しき始まりを迎えるものも


 変化は留まる事を知らず


 その変化は次第にはじまりの三族をも飲み込む





 始まりの三族は気付いていた


 時とともに薄れゆく記憶と記録


 そして血と力


 自らの衰退を感じ取るからこそ選択する



 <竜>は長き寿命と力を保つゆえかその数を減らし


 そこに自らの種族の限界を悟る


 故に在り方を変え生き延びる手段を講じた


 そして己が姿が恐怖を抱かせるならばと


 容易き侵入を拒む地の奥深くへとその姿を隠し


 穏やかな時の流れに身をまかせ


 緩やかなる変革の道を選んだ



 <魔>は様々な形持つものに分かれるも


 果ては各々の形持つ者達がそれぞれの理を持つにいたり


 それゆえか同族での諍いが絶えず


 大いなる力を保ちつつも数を減らすに至る


 なればと百八の監視者を定め世界に千々に散らばり


 種に存続と滅びを齎した


 監視者は後に王と呼び名を変えた



 <人>は何も持たなかったが故か


 他の二族の持ち得ない力を持った


 それは先を見通す目


 数を増やしたが故か薄れゆく血と力


 だがそれでも大いなる力を保ちながら


 変わること無く自らの住まう大地を治め続けた


 見通した未来に何が待つのか


 一族の行く末を知るからこそ静かに時を待つ






 先の未来に訪れるものが何なのか


 それは誰も知らぬもの


 未来は現在いまを生きる者達が紡ぐもの


 それ故に先の物語は誰にも語る事は出来ぬ


 ただ語ることのできるのは



 <竜>は種の存続を願うべく在り方を変え 時折姿を現すに留め


 <魔>は個々の意思で世界に広がり 時に気まぐれの裁定を下した


 <人>は自らの最期を知るからこそ 静かに時を待ち目を閉じた










 流れる時の先に訪れる未来


 今はまだ語る時ではない


 ただ語れるのは


 先の未来を紡ぐのは


 始まりを紡いだこの三族ではなく


 世界を席巻した人間






 そして物語は次なる時代へと紡がれる







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ