水の楽園
人には必ず敵がいる。
強大な敵を倒すために、それまで敵だった二つが一つになり、強大になる。
それを倒すために、また強大な敵が現れる。
こんな戦いの悪循環の中で、生命は繋がれる。
いかなる時に二つの関係が「敵同士」になるのか、その理由はさまざまだ。
ただ、そんな中でも人類みなが想っていること…。
戦争の根絶。
なぜ戦争が起こるのか…
それは、人類が賢すぎたからだ。
だからといって今さらどうすることもできない。
だからこの世から争いは絶えない。
自らの生活を便利にしようとし、一人では出来ない事をやるためにコミュニティを作る。
自分の所属するコミュニティの得は自分の得でもある。しかし、そのコミュニティの中でさらに損得のやり取りが続き、その偏りが争いを生む。
全人類一人一人が自分の利益を優先するこの世界で、争いにおける悪なんて存在しない。いや、全てが悪なのかもしれない。
もし、本当に世界を一つにしたいのなら…
そこには、絶対的な指導者が必要だった。
全てが平等化された世界を作り、自分の仕事を全うし、見返りをもらって毎日を過ごす…。
それが平和の答えかもしれない。
常に利益を求める人間には、それができなかった。
指導者になった者はその権力を自分の利益に使うだろう。
人間は愚かだ。
そして今、ついに土地がなくなり、我々の住む海にまでその手を伸ばしてきた。
長い間守られたきた「人間」と「水人」の沈黙は、破られてしまうのだろうか…。
今からずーっと前に、人間はとつぜんこの星にやってきた。
我々は人間を迎え入れ、共存しようと試みた。
そこで、人間に「水」を与えた。
それが、人間のいう「海」の正体。
ずーっと前に人間は、一度だけひとつになったことがある。
人間と水人の戦争だ。
すべての水は、罔象女という神が管理していた。
その神は偉大だった。
人間のように決して欲を出さず、限られた自分の生命でもある水を平等に分け与えていた。
人間はこの星を、人間のいう「陸地」というものを作り、開拓し、文明を作った。
そして、自分の欲望に忠実な人間たちはついに同種族で争いを始めた。
その様子に呆れた罔象女は人間から海をとりあげ、懲らしめようとした。
しかし人間は、どこまでも愚かだった。争いという概念すらなかった水人に、鋭くとがったものを突出した。
水人は抵抗虚しく地底へ追いやられ、海の永遠の供給を約束された(それまで水人は、自分たちの力で作り上げた森で暮らしていた)。
それが、今も海が地底から湧き出ている理由だ。
その「水人戦争」こそ、人間がひとつになった、たった一度の戦争。
「人間」というコミュニティの敵、「水人」。
所詮あの種族たちは敵がいないとバランスを取れない。
そして罔象女はついに決断した。
人間をこの星から追放する、と。