小休憩
小休憩 ― つかの間の現実
ペンギンとグランドゴルフ
なぜなのかはわからないが、わが高校の体育は圧倒的にグランドゴルフにその時間が費やされていた。
「ホールインワン!」
「じゃないでしょう。朱音また他所に飛んで行った。」
「仕方ないじゃん。これでも4月のころよりは上手くなった。」
「確かに、あのときうちのグループだけコースを半分も回れてなかったよね。」
言っておくが別に時間を掛けていたのは自分だけじゃない。
だらだらとしゃべりつつ、4、5人のグループをつくってボールを追いながら校庭をぐるぐる。
「そういえばさ、進路調査の紙もうだした?」
A子が言いだして、以下B子とC女を加えた会話がしばらく。
「いやまだ。」
「だよねぇ。進学するとはしてさ、私まだ学部のことで親ともめてるもん。」
「あー理沙は文学部に行きたいんだっけ?」
「そう。でも親は文学部になんていって何になるつもりだ?作家にでもなるつもりなのか?って。」
「文系だと、法学部に行った方がいいって周りからも説得されるもんねぇ。」
会話になるべくかかわらないように、そろりそろりと退散・・・しようとしているところをつかまる。にやにやしながら腕をつかまないでほしい。
「朱音黙ってるけど、進路きまってるのぉ?」
「いやに静かだけど、調査の紙まだ出してないでしょ?」
BとCの追求に耐える。耐えればいつかは過ぎていくものだ、大丈夫だ自分。
「朱音がどこに出したか気になるなぁ。」
「まぁどうせ南君と一緒なんだろうけど、」
「ねぇどうするの?」
Aまでも加わり八方塞かとも思えるなか、これを切り抜ける打開策と諦めが駆け巡る。
「…まだ決めてないよ。」
やむをえまい。どこか吹っ切れたようにABCを振り切るとついでに思い切りボールを飛ばした。
「あー、またあんなところに。」
「自分で取りに行くよ。」
どうにかみんなから離れて落ち着きを取り戻す。ここから抜け出して、家に帰って穴でも掘りたい。それでなければファミレスにいってパフェを頼んでぼんやりとつつきたい気分だ。
そうだ、今日は帰りに寄り道をして帰ろう。今月もう出ているはずの雑誌を買って、コンビニでケーキを買って、それでぶらぶらと遊んで帰ればいい。
ちょっとした妄想は自分の気分を大分楽にした。
「もどってきましたよー。」
「で、結局どこにいきたいの?」
「え?」
「え?じゃなくて、進路。はっきりしなくても希望があるでしょ。漠然としててもいいから希望が。」
自分が非常にゆるい妄想に浸かっている間もどうやらこの話題は断固として続いていたらしい。
「んーーー、はぁ。・・・・ペンギンか、それでなければ何にもなりたくない。」
「またペンギン?」
「そういえば、朱音ついこの前もペンギンが、ペンギンがって南君としゃべってたよね?」
「もうペンギンの話題は勘弁してよ。私もさんざんペンギンのフォルムと生態についてうんざりするほど聞かされてるんだから。」
「はぁ。」
ペンギンと答えた自分も、A子もB子もC女も脱力感で力が抜けたようだった。
「まぁいいわよ。決まってないならいないで、でもどうせ南君と一緒に地元には残るんでしょ?」
A子が少し心配げに、でも決定事項みたいにそういうのを自分はあちこちで何度か聞いている。
「ずっと南と一緒なんてわけにはいかないよ。いくらペンギンでもね。」
「でも、それじゃ南君悲しむんじゃない?」
自分は今たまらなく、庭に帰りたい気分だった。