帰宅
*
「南。」
自分は手にした紙袋を何気なく床に置く。どこか見たことのあるような居間だ。大きなソファーが2つ。テーブルと。少し大きい鉢には名前の分からない木が植えてある。
「朱音、こっちにこいよ。」
南はもうソファーに座り込んでいた。
「おれたちいつからこんな感じだったっけ?」
「こんな感じって・・・・。」
「いつもこんなことしてたわけじゃないだろ。学校に行ったり家にいたりさ。」
「うん。してたような気がする。」
「おれたち起きていないんだよ。夢の中だ。ずっと目を覚ましてない。」
「いつもならもっと簡単に夢が覚めるものなのにな。」
「そうなんだよ。おれたち夢が覚めないままうろうろして、どうやって起きるのか忘れているみたいだ。」
南がぼんやりしてみえるのは、疲れているからなのだろうか。
「・・・朱音、最近寝たのはいつだ?」
「寝たのはいつかというより、今眠っている最中だって。」
南が今にも寝てしまいそうな気がして、一人で残されるのは嫌だ。そう思っても南はソファーの上で既にうとうとしている。
「今眠っているのに、どうやってこれ以上寝られるんだよ?」
「大丈夫だ。なんとなくわかってきた。ほら、朱音もそっちのソファーに横になれよ。」
一人で取り残されたくなくて、言われるがままにソファーに横になって目をつぶってみる。けれど、
「眠れないよ。」
「眠っている自分を想像してみろ。なんなら羊でも・・・、いやペンギンでも数えるか?」
「・・・・・・、ペンギンの方がいい。」
「そうか。じゃあペンギンを数えるぞ。ペンギンが一匹、ペンギンが二匹・・・。」
*
目を開く前に自分にすごく現実的な感覚が戻ってきているのが分かった。体の感覚と土の匂いが瞬間的に自分に湧き上がって、素早く目を見開いた。
ここは・・・、自分は、庭の穴の中にいた。一体どういうことなのか。いつ自分が穴に入ったのか覚えていない。夢を見ていた?
「南―?」
思わず口からでた呼びかけに返事があった。
「朱音か?」
まさか、そんなところからが夢・・・・だったのか?いや、まて。今まで自分は何をしていたんだっけ?
穴から少し顔を出すと南と目があった。南は隣の穴にいる。
「戻ってきたらしいな。」
「どこかにいっていたんだっけ?」
「・・・・、まぁいいよ。取りあえずここからでよう。」
たいして深い穴でもないから、起き上がってすんなりと穴からでる。
「南、なんかさっきまで夢をみていた気がするよ。」
庭の様子は何ら変わりなくて、そういえば自分が南を夕食に呼んでいたことを思い出す。
そのまま穴を見ていると他に何かを思い出しそうだったけれど、やっぱり何も思い出さなかった。
「おれもなんか、考えていた気がする。」
「この穴埋めないとな。」
自然に口に出た自分の言葉に驚いた。なんでそんなこといったんだろう。けれどそれは悪い考えではない気がする。
「手伝うよ。――穴を埋めるときは呼べよ。今日はもういいだろ?埋めるときはおれも手伝ってやる。」
「うん。そうだね。そうする。」
穴とか、夢の話はこれまでだった。南と自分は家に帰って、夕食を食べて、そのあと南は帰って行った。何事も変わりなく。だいたいそんなものだろうとは思う。
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