電気屋
*
「南、ひよこの仕分けは終わったんだっけ?」
「ひよこ?そういえばおれたちさっきまでどこにいたんだ?」
自分はなぜか掌に卵を握っている。ゆで卵だ。
「南、俺良くわかんないけど、手にゆで卵もってる。」
食べたほうがいいかな?と南に見せると、南はあっさりと自分から卵を取り上げた。
「良く分からないものをなんでも口に入れようとするな。だいたいここはどこだよ?」
ついさっきまで自分たちがどこにいたのかも、あんまり良く覚えていないのだが、ここはどうやら大型の電気屋らしい。
かなり大きなフロアの一角に自分と南だけぽつんと立っている。けばけばしい明かりの中で、周りを見ても店員も客もいない。閉店後か開店前の店みたいだ。
電気は付いているけれど、音は全然しないし、とても静かだ。
「南、ここ電気屋?近所にこんなおっきい店あったかなぁ?」
「さぁ?おれもよくわからないよ。」
二人して、その辺をぶらぶらと歩いてみる。
「最近何か欲しいものある?」
「あー、おれ音楽プレーヤー新しいのに買い替えたい。この間ベッドの下で踏みつけてから調子悪いんだよなぁ・・・・って買いものに来たわけじゃないだろ?」
自分につっこむ南もどこか半信半疑な感じで、二人でどことなくふわふわとした会話を続ける。
「じゃあ、なんでここにいるの?俺たち。」
「よくわからないな。」
テレビのコーナーだ。一台も電源が付いていないから、真っ黒の画面がずらっと壁のようにならんでいる。
「一台電源つけちゃだめかなぁ?」
「触らないでおけよ。」
「なんで?」
「いや、わからないけどさ。」
「さっきから、南わからないばっか。」
「あっ、南あそこレジだ。」
レジの横には出口があるし、そろそろここを出たほうがよさそうだ。
「ねぇ南?」
南が見ていたのはワゴンに乗っているパネルだ。
「おい、朱音これなんだろうな?」
「パネルに数字が出てる。5分45秒?」
それはどことなく不吉な装置だった。数字は止まったままにも関わらず、今にもカウントダウンを始めそうな。
夢の中で使命というのは自分に自明なものとして存在する。
「南、カウントダウンが始まるよ。」
「わかってる。5分以内にレコードだ!」
赤い数字が動き出すのと同時に南と駆け出した。レコードを探さないといけない。この広い店内で5分以内に。それが自分と南に科せられたミッションだ。
「どうして電気屋にレコードがあるんだ?」
「CDとかゲームとおもちゃコーナーに行ってみるしかない。今時レコードが置いてあるかなんて分からないけど、・・・・あーでもそんなもの売ってるのか?」
「このフロアじゃないよ。ホビーコーナーは一階。」
エレベーターを駆け下りて、
「南!CDの棚の上にレコードが飾ってある。」
棚の下まで駆けつけた。
「しまった。このままじゃ届かないな。」
背伸びしたところで、かなり上にあるから到底触れられる位置にない。
「脚立はないかなぁ?レジの方にあるんじゃない?」
「いや、まて。時間がもうない。朱音、肩車するから乗れ。」
いきなりしゃがみこむ南にうろたえた。
「だって、重いんだぞ俺。肩車って・、」
「早く乗れって。」
まったく、ぼやきながら南をまたぐように肩車されて、手を伸ばした。
「とれそうだ。後もうちょっと。」
それで南が自分を少し押し上げた。
「とれた。とれたよ、南!」
ん?・・・・・手にしたレコードが・・・・・丸い円が、その中央の穴が・・・・