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ひよこ工場

ともかく突然やってきた南は手ぶらで軽装。普段良く着てるジーパンにシャツ。夢に出てきたわりに主張の激しい(まったくお前こそ、だよ)南には違和感を感じないでもない。

自分の夢の中の割には、どこか他人の気配というか、南らしいリアリティが溢れている気がする。

「まぁそれはそれとして、朱音。一体そこで何やってるんだよ?また穴掘りか?」

しつこいな、南は。

「ここのどこに穴があるっていうんだよ。いるのはひよこだらけだろうが。」

「確かに。このひよこは一体何なんだ?」

「ひよこの雌雄の仕分け。それが俺の仕事。」

「うちの高校は一応バイトは禁止だっていうのに。まぁ夢の中までは取り締まれないけどな。」

南は自分でいった冗談に勝手に笑っている。たいして面白くないぞ。


「で南こそ何しに来たんだよ?手伝いか?手伝いだろ?日当500円で雇ってやる。」

「・・・まったく、そこは普通時給が500円ってところだろう。」

「まぁいいよ。南でもいないよりましだし。ちょっとこっちこいよ。ほら隣に座って。」

脇に用意してあるパイプいすをもう一つ取り出して自分の脇に並べて、段ボールを指差す。

「今から仕事を教える。一言で済むぞ。メスは右、オスは左の箱に入れる。以上だ。ただしこれが終わらないと夢が覚めない。」


何百匹程度だったら、きっとこんなに気がめいることはない。

けれども目の前には何千匹、何万匹だかわからないほどの大量のひよこたちでひしめいている。なんなのか良く分からないけど、この古い工場みたいな建物は奥が此方から見えないくらいにやたらと広いのだ。

そこにひよこが一面に敷き詰められていて、辺りが真っ黄色になっている。

「なんて不条理なんだ?やっぱり夢だからかな?おれひよこの仕分けなんて知らないんだけど。」

「南も知らなけりゃ、俺も知らないよ。」

「そうだった。朱音のこの間の生物の点数・・・・」

「それ以上いったら、ひよこ投げるから。」

物騒なこというなよ、こんなに可愛いひよこなのになぁ?とか南は相変わらずなことをいってひよこを一匹掌に乗せるとやたらとなでまわしている。

「だからなぜてる場合じゃないんだって。ひよこ仕分けないと。」

「わかってるって。いや、でもおれこんなにはっきりした夢初めて見たよ、きっと。いつもはもっとふわふわっとしててさ、こんな風に誰かとしゃべったり、建物とか出てこないんだぜ?」

「そんなに珍しいものかな?だいたい、今ははっきりしてても目が覚めるとぼんやりしてるものだろ?夢って。」

「うん、まぁ確かにそうだけどさ。・・・そっかぁ朱音ちゃんかぁ。」

「ほら気持ち悪いこといってないで、さっさと仕分けようぜ。良く分からないって思ってたけど、眺めてるうちになんかわかるような気がしてきた。」

「おお!それも夢だからかぁ。そういわれると、おれもなんかわかるような気がしてきた。」

二人してまじまじと黄色のかたまりを見つめて、箱に放り込む。

「南、どこをみて区別してる?」

自分は尻尾のあたりをみて、もう10匹くらい右へやったり、左へやったり。

「んー、おれはなぁ。・・顔をみればなんか分かるな。」

「はぁ?顔をみれば分かるって、ほとんど勘じゃねぇか!まったく夢だからなんでもいいってことにはならないだろ。」

「朱音って夢の中でも相変わらず口わりぃな。」

「勝手にいってろよ。」

しばらく集中。

「前をみないで作業したほうがいいぜ。」

「ん?今頃気づいたの、朱音ちゃん。」

「その朱音ちゃんって言い方やめろよ。・・・・とっくに気づいてた?」

「気づくっていうか・・・・なぁ?」

どのくらい時間がたっているのかは時計もないからわからないのだが、さっきからずっとひよこと格闘している割には、ちらっと顔を上げたときに目があったひよこの数が半端ではない。

いや、むしろ全く減っていないのではないかと思えるほどに状況が変わっていない。

あれだけいたんだ。そう簡単には減らないさ。前を見ると労働意欲をなくす。ともかくそんなわけで南と自分はひたすら手元のひよこにだけ集中しながら、黄色を右へ左へ。

「ねぇ、南。」

「ん?なんだ?」

「あのさ、一緒にあと5羽片づけたらさ。いっせーの、で前を見てみない?」

「・・・・、やめとけよ。絶対まだ何千匹いるって。今度前みたら、完全におれやる気なくすから。」

「でもさっきからずっとこのままじゃん。いい加減首もいたい。」

さっきから体を動かしていないせいで、肩もこったし、腰も痛いし、このままの体勢でいることに体が限界を迎えている。

「わかった。じゃああと10羽で、前をみる。」

「カウントするよ。」

「1、2、3、4、・・・・・・」

「5、6、7、8、9。」

「10」

思い切り顔をあげるとたくさんのひよこが・・・・・・、

いや、思っていたほどいない。

「南、いつの間に俺たちこんなにこなしたんだろうな?」

いるのはせいぜい数十羽だろう。

「やりきったな。あと10分もあれば終わりそうだ。ラストスパート掛けるぞ。」

でそこからは南と競い合うように、ひよこが箱の中に飛び込んでゆく。

「あと8羽!」

「よし、あと4羽だ。朱音。」

ほら最後のひよこだ、と言って渡された黄色のふわふわ。これさえ箱に入れ込めば・・・・。

手にしたひよこをそっと眺めた。

それは掌の中でぐにゃぐにゃとまるまって・・・・


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