夢の始まり2
ぼんやりするのにもいい加減あきてきたので南と宿題を広げたけど、はかどらなくてだらけた。
それでちょっと夕食のことを考える。
「俺は海老フライよりエビ天のが好きだなぁ。」
「ペンギンだったら生の方がいいんじゃないか?」
ちょっと調子の戻ってきた南が意地の悪い笑み。
「なんつー意地の悪い返事だ。ペンギンだって揚げ物を食べればやっぱり普段の小魚が味気なく感じるさ。」
夕食はえびとかなすとか野菜だののてんぷらで、南のことをてっきり女の子だと思い込んでいた父が最初はぎくしゃくとした様子だったけれど、自分たちが兄弟みたいになつっこく会話しているのをみて、次第に気にならなくなったみたいだ。
普段はデザートなんて手作りすることなんてないくせに、今日に限って母親特製の杏仁豆腐。
どうせなら普段から作ってほしい。聞き入れてもらえるわけがないから口には出さないけど。
帰りに玄関先で母親が本当に送っていかなくていいってしつこく聞きながら、何か言ってるのが聞こえた。声が小さい。でも注意すればちゃんと聞こえる。
「うちの娘は少し変なところがある子だけどこれからも仲良くしてあげてね。」
「大丈夫です。朱音さんの変わってるところ、おれ結構好きなんで。」
じゃあ帰りますから。
南が帰っていく背中を見送った。ほんとにあいつは余計なことをしゃべるやつだ。
けれどあれで根はいい奴だから・・・自分みたいに変な夢につかまらなければいい。
そう思って寝た。
*
自分が夢をみるのはほとんど明け方。眠りが浅くなったときに夢をみる。
そうして今朝も自分は夢をみている。
汚らしい小屋の中。そうはいってもやたらと広い空間の隅に自分は座っている。
そして目の前にはひよこの山。なぜか自分はひよこのオス、メスを仕分けして段ボールに放り込まなければならない。
夢の中の使命というのは、誰にいわれるでもなく、当たり前のことのように自分の中に存在する。(自然とわかっている)今日はひよこの仕分け。これが済むまで自分は現実に帰れない。
単調な作業を延々とさせられる夢は最近ほとんどみなかったけど、少し前にはベルトコンベアのねじを締めさせられる夢をみたこともあった。
さて、ひよこの雌雄の区別なんてつかない。どうしたものか・・・・。
そこに奥の方から歩いてくる人型が見える。
「お前、朱音?初めて夢であったなぁ。」
今日夕飯食べに行ったせいかな?と呑気に考察する当の彼は別に作業が課されているわけでもなさそうだ。
「相変わらず、夢でもぼんやりしたこといってるなぁ。だいたいこれ俺の夢だし。さすがに、俺も夢の中で自分の夢だって主張してくるやつには初めてであったよ。」
「うわぁさすが朱音だよ。夢の中でまで自己主張が激しいな。」
「・・・・。」
「わかったよ。もう平行線だからやめておこう。」