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夢の始まり1

 朝の補習が終わった後…南とちょっとだらける。それと南に聞いておかないといけないことがあった。

「来週うちに来れないか?」

「へ?また課題で何かわからないところでもあったのか?」

「むしろ分かる部分を探すのが大変だけど、そういうのじゃないよ。」

いやついでに教わってもいいんだけど、とかいいながら南のノートに落書きする。

「おい、やめろって。しかもなんだよ。この旧ソビエト式ロケットって。あーもうおまけに日本の旗立ててるし。」

自分が書いた中で最高傑作のロケットを消されるのを眺めながら、

「この前勉強教えてもらいに行った時にさ、焼き肉御馳走になったじゃん?

あれを母親が気にしてさ、今度はうちにご飯食べに来てもらえって。」

「そうか。それじゃあ、迷惑じゃないならお邪魔しようかな?」

「そうしてくれ。母親も喜ぶよ。」

                    *

 とある日曜日。自分の家の前。

「朱音の家にきたの初めてだ。」

「そりゃそうだろ。呼んだことなかったし。」

南は自分の、庭はやたらと広いけど古臭い家にどう思ったか知らないけど少し眩しげな顔をしているような気がする。

「そういえば、そもそも友達自体を家に呼んだのも小学校ぶりかもな。」

「まぁ、そんなもんかもな。」

「じゃあ、ちょっと先に家に行ってってくれないか?少しきりのいいところまで終わらせてから家に戻るから。」

庭に出ようとする自分に南は首をかしげた。


「なにかやってたのか?まさか家庭菜園とか?」

そんなマメなタイプだったかぁ?とかいいつつ一緒に庭にやってきた。

 そこは家庭菜園どころか穴ぼこだらけの悲惨な地面。

ごく自然にスコップを構えて一つの穴の中に入り込むと穴を掘り始めた自分に

「朱音、何やってんだよ?」

南はおそろしく反応に困っている。気持ち悪いとか思ってるかもしらん。

「別に。何って・・・・穴を掘ってる。」

「いやなんでだよ?木でも植えるのか?しかもこの辺穴だらけだし。」

「気をつけろよ?穴に落ちないように。」

「意味あるのかよ。こんなに穴掘って。あちこち穴だらけじゃないか、・・・・まったく。」

ちょうど自分たちのそばには特に大きな穴が二つ。しばらく南は辺りを見回す。

「意味なんかないけどさ。」

「うわぁ。こっちの穴かなり深いな。」

「ん?ああ、でもそこ父親が今埋めようとしてるやつ。」

南は結局自分になんて言ってやればいいのかわからないらしい。まぁ南に何か言われたぐらいで止めるつもりもないけれど。

「どうして穴なんて掘るんだよ?困ってるんだろ?おじさんも。」

「よくわかんないよ、そんなの。掘りたいから掘るだけさ。まぁ確かに父にはいい顔されないな。

昨日なんて、これ以上もう勘弁してくれって、泣きそうだった。」

南はその時の様子を想像したのか、大いに自分の両親に同情しているように頷く。

まったく・・・だ、こっちこそ。

「そりゃ泣きたくもなるだろ。17の娘が意味もなく庭を穴だらけにしたら。」

「いいじゃん。穴くらい。」

しばらく無言で穴を掘って、南はそれを少し痛々しそうにみていた。

「よし、今日のところはこれで終わっておこう。でも夕食にはまだ早いだろうな・・・取りあえず部屋にいくか。」

南はそれを聞いて心底ほっとした顔をする。そして、

「ちゃんとその穴埋めるんだぞ。」

余計なひと言を。

「わからない。どうするか、わからない。」

「わからないってお前。」

 手を洗って自分の部屋に行く。その前にちらっと母親をみかける。

母は台所にいて揚げ物をしていた。おそらくてんぷら、何を揚げているのかはよくわからなかったけど、

「準備ができたら呼ぶからね。」

ゆっくりしていってね、南も愛想よくそれに答えていた


「優しそうなお母さんじゃないか。あんまり親を心配させるようなことするなよ。」

まだいってるし。でもまぁ母はきっとそんなに心配はしてない。

案外母は娘の奇行にも心を広く構えていて父みたいにいろいろ動揺することもないから、そんなところは頼りになる母親だ。

そして自分はドンと構える母親に甘えてさらに奇行を重ねる、そんな構図だ。


自分の部屋。

南を連れて部屋にやってきてベッドのわきに2人して座っている。

壁にはペンギンのポスターが掲げられていて、それをぼんやり一緒に眺めた。

「なんだか朱音らしいな。」

「俺の部屋なんだから、当たり前。」

「・・・」

「・・・」

二人で緊張感が途切れたようにぼーっとして、そこで南は一冊の本を見つけた。

“ペンギンになる方法”

タイトル通りの内容ではない。一種の変わり種の啓もう書。

ページをめくればペンギンはたいして出てこない。途中で飽きて投げ出した。

「やっぱりペンギンが多いな。」

「学校で言ってるとおりにね。」

「そんなものか。」

「そんなものだよ。」




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