表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

記憶の旅

 南と自分は流されて、砂場の上に投げ出されていた。

「ここはどこだ?」

南と辺りをきょろきょろと見渡すと、近くには小さなバンガローとターコイズ色の水面。

「ここバリだ。」

「バリ?」

なんでまたそんな場所に?という南の怪訝な顔に、はっとした。

「そうだ!この間本で読んでいいなぁと思ったんだよ!バリ旅行。ここ、その写真にそっくりだ。」

「ってことは朱音の夢の続きなんだな。」

「たぶんね。なんだか、時間がゆっくりしててさ。好きな本を読んだり、隣のバンガローには南がいて・・・」

「そうか、いつか来れたらいいな。」

「・・・・」

「どうした?朱音?」

口に出して驚いた。自分は、将来バリに行きたくて、当然のように南と一緒に旅行したいと思っていたのだ。

「まぁともかくここだったら、しばらく過ごすことになっても嫌な気はしないな。朱音もそう思わないか?」

「…帰る。ここにはいられないから。」

 これ以上は考えたくなかった。すぐにここから離れなければ。何も考えていないような南にすらいらついた。

「おい、帰るって、どうやって?」

「南にはこれ以上話せない。話すつもりもないからな。」

「ちょっと待てよ!俺を置いていくなって!」

南の声が遠ざかってゆくのを感じて安心する。自分の体が何かに連れ去られるように移動していった。体に伝わるかすかな振動は、自分が記憶している何かに似ている…。


朱音side


たばこくさい。ここは父の車の助手席だ。音楽が流れている。これは…“太陽がいっぱい”だ。

「あら?起きたの?夢を見ていたでしょう。」

寝言を言ってたわよ、母親の声が聞こえる。

「お母さん、今ね。南と一緒に旅してるんだよ。」

後ろを振り返るといくらか若返ったような母親が乗っていた。隣で運転しているのは父で、いつも通り家族でそろって仕事に回っているのだ。

「あら、この間までゆうきくん、ゆうきくんっていってたくせに。南くんとはたいして仲良くないでしょ?」

「いつの話してるんだよ。ゆうきくんはとっくに転校しちゃったしさ。それに最後の方はそんなに仲良くもなかったんだよ。」

「そうなの。今度お母さんにも紹介してよ。まだ家に呼んだことはなかったでしょ?」

「…そうだね。そのうちね。」

「もう新しい彼氏ができたのか?」

「お父さん、たばこ吸うのやめてよ。それに彼氏とかじゃないんだって。」

しぶしぶ父がたばこを消すのを見ながら、自分が何か忘れているような気がした。けれども、それでいいのだろう。しばらく目をつぶって、音楽を聞きながら窓の外を見つめた。


懐かしくて居心地がよくて気分がよかった。

「南とはそんなに仲良くなかったけどさ。今はそうでもないんだ。意外に優しいんだよ、南は。」

「それはよかったわね。」

「うん。本当によかった。」

「ちょっとねるね。」

たばこの匂いが遠のいていく。鼻孔にかすかな水のにおいを感じる。これは何の水だろう?どこかで嗅いだ事のある…。



「そうか、ここはプールだ。」

自分にとって最も懐かしいプール。昔通っていたスイミングスクールの屋内プールに、自分は一人浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ