出航3
なんて連中だ。港の前で襲撃を仕掛けてくるなんて。だが、やられてしまった後では何をいっても無駄だ。
体を起き上がらせるのがやっとのうちの船員たちは圧倒的に不利な状況におかれていた。向こうから何人もの荒くれ者がやってきて、品物を奪っていく。
「きゃあ。」
いかにもといった悲鳴に気づいた時には、女性船員が攫われようとしていた。
「返してほしければ、追いかけてみろよ。」
自分たちから何もかも奪っていった敵は、あっという間にまた船に乗り込み遠ざかっていく。奪われるだけ奪われて、何も出来ない間に。
どうしようもない喪失感だった。ついさっきまであった高揚感が残像のように影を残しているのに、今や我々は壊れた船しか残されていない。実感もわかないまま何もかも奪われた。
「南・・・。」
真っ白になって、傍らの南を見上げた。南は蒼白な顔をしてどうにか立っている。自分は南に手を差し伸べられそうにもなかった。
*
ついさっきこれが夢であることに気がついたというのに、それを思い出したのは陸に上がって他の船員とともに消沈した気分のまま、たそがれていたときだった。
船長であるところの親方はどこかへ行ってしまったし、船員も少しずつまばらに散らばって行った。
その中で自分と南をいれて5人が行き場をなくして港の店から海を見つめていた。自分たちを襲った船がかなり離れてはいるがまだ遠くに逃げるでもなく、港から見える距離に留まっているのだ。
「船長はあの船を追いかけて全部取り戻してやるっていってたぜ。」
隣に座る名前も知らない男がそんなことをぽつりというから驚いた。
「どうやって追いかける気だよ?船は壊れて追いかける手段なんてない。だからあいつら悠々とまだあんなところで道草くってるんだろ。」
夢だとわかっているはずの南でさえ、夢に没頭して区別だとか判断力が低下しているらしかった。いや、はっきりと夢だとはわかっていないのだ。南も。自分たちはぼんやりとしかわかっていない。
「無謀な話だよ。今日はもう出ないらしいんだが、明日朝一番のフェリーで追いかけるらしいぜ。」
「フェリーで追いかけるなんて無理だろ?」
別な船員が馬鹿にしたように笑う。
「近づけるところまで近づいたら、あとは飛び降りて泳いで船に乗り込むんだとさ。さっき誘われたよ。お前もこないか?って」
「やめとけ。やめとけ。これ以上命まで取られる必要はないだろう。どのみち俺たちはどうにか別なことででもやっていけるさ。ばかなことは考えないことだな。お前も。」