出航1
2.小島を探して、木苺を拾う。
ある日の休み時間。
「次の授業は?」
「英語。」
「知ってる。」
なら聞くなよ、不機嫌そうに答える南は今日に限って気だるそうだ。
「予習は済んでるのか?」
「珍しく、ね。」
そういうわけで自分は南の机に何重にも円を描いて真っ黒に塗りつぶしていく。
「人の机に落書きするなよ。」
けれども毎度のことだから、そんなことを言うのもめんどくさそうに、どうでもいいみたいにほっておかれる。
円が真っ黒になって、その一点を見つめていた。
「穴みたいだな、これ。」
「変なこというなよ。」
うつ伏せになっていた南が急に起き上がった。
「どうして?」
「どうしても、だ。」
なんだか会話のピントがうっすらとずれていく感じがした。
「どうしてだろう?」
授業開始のチャイムがなった。自分は席に戻って、教科書とノートを広げる。
ノートの上の隅に何かみつけた。何を書こうとしていたんだっけ?
“for example・・・・”
教室に入ってきた先生と黒板が一瞬遠のいた。けれどそんなのは目の錯覚だ。
*
船は港を見つけて、碇を下ろし、いよいよ乗組員たちは上陸しようと賑わっていた。
「だって久々の陸だぜ?十分に羽を伸ばさなきゃやってられねぇよ。」
そんな声も行き交う甲板で自分は、他の乗組員たちと今夜の楽しみに思いをはせていた。
少し離れたところには南もいる。自分たちはこの船に雇われて積み荷を積んでやっとここまでやってきた。はるばるとやってきた見知らぬ土地に期待も高まり、ようやく一息つけるうれしさもある。
自分たちがのってきた船は改めて眺めるとそれは幾分、趣味がいいとはいえないような造りになっていることはいなめなかった。さながら海賊船のように船の先頭には竜だか蛇だかがとぐろを巻いている像がはりついている様は威嚇的であるともいえる。
だがそれもいたしかたないことだ。ここまで来る航海の中で海賊行為を一度も行わなかったといえば嘘になるし(それが正当防衛と当然の賠償だったとしても、適法かと言われればそれは果てしなくグレーだっただろう)、そもそもそんな甘い考えで海は渡れない。
「南、陸に付いたら一番に何する?」
自分は断然酒場に行くね、なんて息まきながら南の賛同を促したけれど南の顔色は冴えない。
「どうしたんだよ。」
「お前、わかってないのか?」
南はいぶかしんだ様な顔のまま何か考え込んでいるようだった。せっかく船が港に着くというのに、こんなにあからさまに気分が悪そうな人間は他に居ない。
「どうしたんだよ?あんまり船に長く住みついたんで、陸にでる感覚を忘れたか?といっても俺たち初めての航海で感覚を忘れるほど船に傾倒してるわけでもないだろ?」