夢の話
ペンギン、穴、木苺とか島etc
1.物事の意味を考えてみる。君がすることについて
――― 例えば、こんな話をしてみる。夢の話とか空想の話とか。
結局南と自分は日ごろをこんな風に過ごしている。
「なんかさ、」
「ん?」
「60年代って感じだよな。」
「何がだよ?」
「さっきの時間にしてた妄想。俺が1960年代にタイムスリップして、街頭のテレビで
アポロなんかを横目で見ながら学生運動に勤しむ彼女に付き合って手製の火炎弾を手にもっている感じの。」
「朱音ってなんでいつもそんなくだらないことばっかり考えられるんだろうな?」
しかも、いくつになっても俺って一人称使うのどうかと思うぜ。一応女の子なんだから、とか。
そんな苦情を漏らす友人と机を挟んで議論する午後3時。東高校2年B組、窓際の隅。
「下らなくなんてないぞ。今朝みた夢には南も出てきた。」
「え?おれもかよ。」
若干嫌そうな顔をする南に向かってにやりとほほ笑む。
「町から向け出せなくなるんだよ。壁に阻まれて。車も人も誰も出られなくなる。」
「うわぁ。なにそのB級映画的展開。まぁいいけど。それで?」
紙パックのイチゴ牛乳を飲みながら、ちょっと間をおいて
「で、家族と一緒に車で町中をさまようんだよ。出口を探して。けれどどこに向かっても壁がある。
しかもそれはただの壁じゃなんだ。決して壊せないし、登れないようなオーラが掛かっているというか。
そうだな、むしろ呪われた感じ。突き当たると人はあきらめざるを得ない。
そんな感じだから町中の機能が少しずつおかしくなる。
みんなここから出られなくなるかもしれないってことに気づいてくるからだ。」
「というかその話のどこら辺におれがでてくるんだよ?」
「ここからだよ。南の出番は。さまよう街の中で、自分たち家族は次々と車が吸い寄せられていくように
入っていく道を見つける。うちの父親もそこが出口なのかもしれないと思ってカーブしようとしたさ。
けれどその様子はどうもおかしかった。車は入っていくだけで一台も出てはこないし、傍には人一人いないんだ。
そこで自分は確信する。ここには入れるけど出れないんだと。
ともかく気味が悪くなって、祖母にいる病院に向かったよ。町中が淀んだ空気に飲み込まれているみたいで、みんなに不安が伝染する。」
「だからおれは出てこないじゃん。」
「その病院に南はいるんだ。病院は町でもやたらでかい施設で、町のおかしな様子に耐えかねて人がどんどん集まってくる。
そこで南が祖母のすぐそばにいて俺たちが来るまで祖母の世話をしていたんだ。
でもな・・・それが南ではあるんだけど、やたら雰囲気がおかしいんだよ。偽物みたいに気味が悪いのに家族はその偽南に気を許してどんどん親しくなるし。
そんな状況に耐えかねて風呂場に行ったら・・・・」
「行ったらどうしたんだよ?」
「そこでは更衣室に何重にもビニールのカーテンが張ってあって、女の人たちが裸でうごめいていた。
色っぽい感じじゃないんだぜ。むしろみんな正気を失ってるみたいな、
ほんとに気味が悪いんだ。もういよいよ駄目だと思ったよ。町中が気が狂っていて、たぶん自分も・・・ってところで夢が覚めた。」
案外あっさりと最後を締めると、むしろずっと聞き役だった南の方が疲れたみたいにぐったりしている。
「なんてゆう夢をみてるんだ。」
「まぁ夢だからな。」
「それを自分でいうんだな。」
「結局なんだったんだろうな。別に夢に意味なんていちいち考える必要はないけどさ。
閉塞した現代社会へのアンチテーゼ的な?」
「どこからそうなるのか、その思考をおれは覗きたい。」
いろいろくだらない話に脱線しているうちに、一緒にやろうとしていた宿題は結局全然終わっていなくて、気づいたら日が傾きかけている。
「そろそろ帰るか。」