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9話 鬼とコボルト

この物語には、人によっては嫌悪感を抱く可能性のある人外娘が登場する可能性があります。

自己責任においてお読みください。

※昆虫類など


また、お使いの作者は筋肉デカ娘も大好きです。


ご安心してお読みください。

コボルトを後ろに引きつれ、俺は猪を探している。

まずは昨日のコボルトとの約束を果たさねば。


・・・抱いてしまったしな。


実はすでに数回獲物を見つけているが、このコボルト達がまた問題だった。

大声を上げて突っ込むものだから、草食系の獲物は逃げるわ、猪や熊には返り討ちにあうわで任せると必ず失敗する。

これで今までどうやって生活していたんだ。


次の獲物を見つけたら、俺が仕留めることにする。


その後1時間ほど山を捜索していると、猪を発見した。

とは言え、普通のではなく魔物の一種であるアイアン・ワイルドボアだ。

鼻先と角が鉄に匹敵する硬度を持っており、自分よりも大きな生物を押しつぶして食べる事もある危険な魔物だ。

コボルト達に絶対に声を出さないよう注意すると、後ろから忍び寄る。

万が一コボルト達が見つかれば、彼女達では絶対に勝てないだろう。


木や草を利用し後ろから近づくと、アイアン・ワイルドボアはキノコを貪るのに夢中のようだった。

静かに剣を抜くと、一撃で仕留めるべく狙いを定める。

鋭く息を吸い走り出す。

剣を突き出し、アイアン・ワイルドボアの後頭部を貫くと同時に走った悪寒に身を任せ、その場から飛び下がる。

その次の瞬間には、上空から巨大な質量の何かがアイアン・ワイルドボアを押し潰した。


「く、何だ?気配を感じなかっただと!?」

「ア、アレハマサカ!」


声を上げたコボルトを振り返ると、全員が抱き合いながら震えている。


「何だ、アイツを知っているのか?」

「私達ヲ脅シテイルオーガデス!」


オーガ?

それにしては大きいような・・・。

アイアン・ワイルドボアを押し潰した存在は、立ち上がると俺より一回り以上大きい。

恐らく2.5mは超えている感じだ。

普通のオーガは大きくても2m程であることを考えれば、規格外の大きさだ。


赤みがかった肌に、乱雑に切られ首下まで伸びている漆黒の髪。

耳の上から天を突き刺すように生えている双角


・・・角?


その身体は正に筋肉の鎧であり、拳に血が付着している事からアイアン・ワイルドボアの鉄に匹敵する硬度を持つ頭を潰したのは素手だと推測される。

獣の皮を胸と腰に巻いているのはコボルトと同じだが、皮がなめされていてより服らしくなっている。

圧倒されるほどの気と、体格だが最も目を引くのはその瞳だ。


真紅の瞳に、本来白目であるはずの部分が黒い。


まるで魔眼のようだ。

角の生えた頭に人間に近い顔立ち、異形の瞳。

見上げるほどの巨体に筋肉の鎧。

その立派な体躯に比例するように、全身のプロポーションは見事なバランスを保っている。

俺の頭並みにでかい胸が垂れておらず、ツンと上を向いているのは筋肉のおかげなのだろうか。

腹筋は見事に割れており無駄な肉など一切無い。


うん、絶対これオーガじゃないよね。


「オイ!オーガ!モウ私達ハオ前ナンカニ従ワナイゾ!ナオエガ助ケテクレルンダカラナ!」

「何言ってんの!?そんな話した覚えがないんだが・・・」

「おや?まさかコボルト如き雑魚が、この私に歯向かうとはね。ナオエ・・・だったかい?私のモノを奪うとはやってくれるねぇ?」


完全に誤解されている。

しかし、悪いほうにばかり考えていても仕方が無い。

来るべき決戦の際には、強い味方は大勢欲しい。

その交渉のチャンスが来たと思えば良い。


「待ってくれ、俺は獲物を狩る手伝いをしているだけだ。別に奪うつもりなんて」

「デモ、私達ナオエに子種モラッタ!私達ナオエノモノ」

「しっかりと奪っているじゃないのさ」


返す言葉もございません。


「まぁ、あたしも元々そのコボルト共を本気で欲しいってわけじゃないのさ。食い物を集める効率が少しは上がるかと思ったんだが、さっぱりでね。むしろ私が養っているような状態だったのさ。」

「それは解る。こいつらに狩猟を任せてたらいつまで経っても集まらないな」


ハハハ、と笑いあう。

これはいけるんじゃないか?


「俺の名前はナオエ。ここから2・3日ほど歩いたところにある街で代表をしている。ヨロシクな」

「あたしは『鬼』のシュカク。よろしく、ね」


鬼・・・個人主義者であるため特定の集団を作らず各地を放浪している種族だ。

こと格闘戦において敵はいないとされているが、実際に見たのは初めてだ。

何せ数が少ない上に、前魔王にすら従っていない種族なのだから。

それに、何故ニヤリとした笑みを浮かべるのか。

嫌な予感しかしない。


「実は強いヤツを探しててな。シュカクさん、俺に雇われないか?食うには困らなくなるぜ?」

「いきなりだねぇ。残念だけど食うに困ってないんだよ。コボルト共が一緒でもね」

「そうか、それは残念だな。ちなみに、シュカクさんを誘うなら何が良いのかな?俺に出せる条件ならかなり譲歩しても良いんだが」

「そんなに求められるのは久しぶりだねぇ。あたしを誘いたいなら簡単さね。・・・強ければ良いのさ」


これはマズイな。

鬼は、単純な腕力と耐久力だけでも全種族の中でも上位に入るほどの強さだと聞いている。

下手をすれば殴り合いでは鋼鉄竜スティールドラゴンのスメラギよりも強い可能性もある。


「つまり、俺が勝てば良いと?」

「そうさ、鬼にとっては力が全て。強いものが奪い、弱い者は奪われる。自然の摂理だろ?」


言い終わった途端にシュカクさんは突っ込んでくる。

2.5mもの体格から繰り出される拳は、まるで巨大な砲弾だ。

首を横に振る事で避けると、風圧で頬が裂け視界が歪む。

俺を通り過ぎた拳は、その直線状にあった木を『風圧』のみで粉砕した。


反則にも程がある!


全身に魔力を込め身体機能を強化すると、距離を取るべく後ろへ飛ぶ。

必要なのはあの攻撃を受け止めるための防御力と、あの筋肉の鎧を貫くための攻撃力。

ミスリル製の鎧でなら砕ける事無く受け止める事は可能だ。

・・・まぁ、あの威力じゃ砕けないだけで俺自身は吹き飛ぶだろうが。

とは言え、黒鉄製の剣で受ければ簡単に砕かれてしまう。


何より、いくら規格外の存在とは言え素手の相手に剣は無粋だ。


ミスリル製の篭手を外し投げ捨てると、今度はこちらから仕掛ける。

一気に踏み込み右ストレートを放つと、シュカクさんは防御すらせずにその拳を腹に受ける。

ズン、と拳がシュカクの腹にめり込・・・まない!?

見事に割れた腹筋が、俺の全力の一撃を防ぐ。

シュカクさんはそのまま頭上から拳を振り下ろしてくる。

それを両手をX型にクロスさせて防ぐと、嫌な音と感触が両腕から脳へ伝わり、俺の両足が衝撃で地面に埋まった。

とっさに足を引き抜こうとするが、そこに追撃の拳が正面から迫ってくる。

それを今度は両手を十字に組み防ぐと、まるで破裂するかのように弾けた両腕と共に、強烈な衝撃が俺の足を地面から引っこ抜き水平に吹き飛ばした。

その勢いのまま木へ衝突すると、半ばまで木をへし折りながら身体が前方へバウンドする。

そこへ距離を詰めてきたシュカクさんの踵落しが迫る!


履いてない上に・・・生えてない・・・だと!?


馬鹿な事を考えている間に、シュカクさんの踵が俺の背中を捉え地面へと押し込んだ。

意識が飛びそうになるのを、唇を噛み切る事で抑える。

息も出来ない。

魔術を使い土を巻き上げ簡易の煙幕を形成し、短距離テレポートで距離を取る。

そのまま自身に再生魔術をかけ、見るも無残な形となっていた両腕を直す。

背中はミスリル製の鎧があったおかげで折れるところまでは行っていない。


強い。


悔しいが魔術無しの肉弾戦では歯が立たない。


「どうしたい?その程度の力じゃ、あたしを従わせる事なんて出来やしないよ?」

「ああ、確かにそうだな。そっちの得意な領域で勝とうなんて思った俺が馬鹿だった。成る程、鬼というのは人型はしてても同じ人間を相手にすると思っちゃいけないな」


土煙が晴れると、腕を組んでこちらを見据えているシュカクさんがいた。

確かにこのままでは勝てないが、俺にも意地がある。


「俺もこんなに強い奴を相手にするのは久しぶりだ。シュカクさん、あんたを従えるためにも、全力をもって『素手』で勝ってやる!」

「ハ!大きく出たね人間!やれるものならやってみな!」


体内から魔力を体外へ排出する事で、濃密な魔力の鎧を形作る。

本来ならこれを固めて全身鎧として使うのだが、素手での勝負をするため身体の表面を流動させる事で純粋な身体機能の向上に使う。


シュカクさんが先程と同じように突っ込んでくる。

迫る巨大な拳が伸びきる寸前、その腕部分を下から上へこちらの左拳で突き上げる事で軌道を逸らす。

先程は余波ですらダメージを受けたが、今は魔力の鎧を纏っているため問題無い。

そのまま右掌をシュカクさんの腹部へ軽く触れさせると、足先から太股、腰、背筋、肩、腕という全身の筋肉に回転を加えて一気に押し出す。

シュカクの腹部に掌を半回転させながらめり込ませると、そのまま後方に吹き飛ばした。


立て直す暇は与えない!


一気に距離を詰め、左で速さを重視したジャブを腹から胸に向かって打ち込む。

本当は顔を狙いたいところだが、身長的に届かない。

軽いジャブとは言え、全て魔力を込めた攻撃だ。

人間が出せる威力の限界など完全に無視するほどの攻撃は、鬼であるシュカクにも有効だった。

何発かはシュカクさんの両手で払われるが、当たった数発はその筋肉に深く突き刺さる。

そんな状態にも拘らず、シュカクさんも手刀を作り振り下ろしてくる。

右手でそれを受け止めると、ズン、という衝撃と共に又も身体が沈み込むが今度は受け止める。

お返しとばかりに左拳を全力で突き出すと同時に、手刀を受け止めていた右手を後方へ引っ張る事で無理矢理カウンターの形へ持っていく。

突き刺さった拳は、今度こそシュカクさんへダメージを与えたはずだ。

手刀を抑えていた右手を離すと、追撃として更に右拳を腹部へ叩き込む。

その衝撃によりシュカクさんが大きく後方へ吹き飛び、そのまま仰向けに倒れた。


勝った・・・か?


「あ~、良いねぇ。まさかここまで強くなるとは思わなかったよ。久しぶりだ。本当に久しぶりだねぇ。ここまで楽しませてくれるヤツなんて、しかもそれが男だとは思いもしなかった」


シュカクさんはそのまま何事も無かったかのように立ち上がる。

嘘だろ、クリーンヒットしたのにまだ立つのかよ。

というより、ダメージ入ってるのか?あれ。


「そっちも本気をだしなよ?あたしも本気でやるからさ」


そう言うと、シュカクさんの肘がパクッと開き硬質な角のようなものが生えてくる。

両掌からも同じように角のような物が突き出してくると、それを近くのあった木へ差し込んだ。

その角は、まるで豆腐に刺す様な抵抗の無さで木を貫くとそのまま『爆砕』した。


「なにそれこわい」

「鬼の角には、鬼の力が凝縮されている。あたし達鬼は魔術を使えないが、魔力自体は持っているんだよ。それを角の形に固めたのがこれさね。気をつけなよ?刺さったらタダじゃ済まないからね」

「拳と拳の勝負・・・って感じじゃなくなりましたかね?」

「ハッハ!あたしもそのつもりだったんだがねぇ。こんなに強いヤツにあったのは久しぶりなんだよ。・・・トコトンまで楽しまなきゃ損ってもんだろう?」


確かに全力のシュカクさんを倒そうとはしたが、さすがにこれは予想外だ。

殺し合いになる可能性のほうが高い。

だが、正直楽しいのも事実だ。



魔王を倒して以来、本気で戦った事なんて無かった。



シュカクさんなら本気を出すに値する相手だろう。

角を出してから、シュカクさんの魔力が更に大きく感じられる。

ここで引けばシュカクさんをスカウトするなんていうのは無理になるだろうしな。


「確かに、俺もシュカクさんほど強い相手には久しぶりに会いました。具体的に言えば前魔王以来です」

「へぇ?その物言いはやっぱりあんた『裏切りの勇者』かい?どこかで魔物の街を作ってるって話は知っていたからね。そうかな?とは思っていたんだよ」

「知っていてくれているとは光栄です。そこでもう一度聞きますが、このまま雇われません?それとも前魔王が勝てなかった相手に勝てるつもりですか?」

「言っただろ?鬼に言う事を聞かせたいなら、強くなけりゃいけない。あたしは魔王には会ったことなんて無かったからねぇ。・・・あんたを倒せば自動的にあたしは魔王より強いと証明できるわけだ」


やっぱり説得は出来ないか。


全身に纏わせていた魔力を固め、全身を黒い全身鎧に変化させる。

その見た目は、黒いという以外はシンプルだ。

間接以外には繋ぎ目や装飾などが一切無く、兜にも前を見るためのスリット等が無く完全に頭を覆っている。

実用主義の兵士用鎧のように見える。

ただ一点、口元が白い歯を剥きだしにし、耳まで裂けるような笑みを浮かべたデザインになっている事以外は。


また、同じく左手に魔力で盾を作成する。

盾といっても拳よりも少し大きい程度であり、このままナックルダスターとしても使える。

右手に出現させた武器、その見た目はこれもまた真っ黒な棒だ。

ロングソードの先端を水平に切り取り、刃を無くし厚さを1.5倍ほどにしたタダの棒に見える。


「おや、それがあんたの本気の状態なのかい?案外弱そうに見えるね。・・・そのニヤけた剥き出しの歯が少々不気味なくらいだねぇ」


何も言わずに棒を横に振り払う。

棒自体から発生した魔力の衝撃は地面を三日月状に抉り飛ばし、その先にあった木々を地面ごと数十メートルに渡って吹き飛ばした。

勿論コボルト達のいないほうを選んでやったが、このまま戦い続ければどうなるか解らない。

正直ここまで魔力を引き出すと俺の理性がもたない。


「これデもか?」

「ハ、ハハ、なるほど。見た目で判断しちゃいけないって事かい?良いよ、本当に良い。さあ、始めようか!」


シュカクは地面を掌の角で爆砕すると土煙に隠れてしまう。

土煙が俺を包み周りが見えなくなると、強い気が向かってくる。

せっかくの土煙だが、シュカクの強い魔力じゃどこから向かってくるかなんてバレバr

魔力が消えた!?


土煙の動きが急に変わり、ある一点に向かって流れるのを目の端で捉える。

その一点に盾を向けた瞬間、シュカクの角が土煙を割って現れ盾に激突した。


「くっ!刺さらないどころか、触れもしないのかい!」


そう、シュカクの角は盾に触れる寸前で何かに邪魔されたかのように止まっている。

シュカクは両手、両肘の角でさらにラッシュを仕掛けてくるが、それを全て前に突き出した左手の盾で弾き返す。

闘技場でも見せた俺本来の構えだ。

防御に特化させた左と、相手に合わせて最善の攻撃を行う右。

無論武器が槍ではなく、この棒であったとしても戦い方に変わりは無い。

隙を見て突き出した右手の棒は、シュカクの身体に軽く触れさせるとそれだけでシュカクの奥深くへダメージを与えていく。


しかし、シュカクは引かない。

ダメージを負い、口から血を吐きながらも攻撃を続けてくる。

掌の角を突き出し、肘の角でなぎ払い、蹴りでこちらの足を潰そうと攻撃を繰り返す。

このまま続けても俺が勝つだろう。

だが、勝負を決める時だ。

受け流した角へ、棒を一直線に突き出し触れさせる。

角度を調整しその背後に誰もいないのを確認すると、握り手部分に設置してあるトリガーを引く。

棒の先端が十字に開き、そこから光り輝く『ナニカ』が発射された。

それはシュカクの角を消滅させ、その背後の木々を跡形も無く消し去ると、そのまま空へと消えていった。

シュカクが硬直した直後、その喉へ棒を突きつけた。


「俺の勝ちだな。これからアンタは俺のモノだ」

「・・・ハッハ!さっきまでの馬鹿丁寧な態度より、そっちの話し方のほうが好きだねぇ。良いよ、これからあたしはナオエのモノだ」

と、言う事で誰得な戦闘回でした。


次回が本番ですね。


ええ、2つの意味で本番です。



いきなりですが、仕事の内容が大幅に変わり、小説を書ける時間が減ってしまいました・・・。

ペースは遅くなると思いますが、頑張って生きますのでよろしくお願いします。

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