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25話 宣戦布告

久しぶりの投稿になります。

今回は閑話的な話です。

その日王国に衝撃が走った。


かつて魔王を倒し、その後人間を裏切り人外側についた勇者から宣戦が布告されたのだ。王国上空に映し出された巨大な裏切りの勇者の映像を王国民全てが見た。

その姿は勇者として召喚され、この国を出立する際に王国民が見た当初よりも年齢を重ねたためか、落ち着きを感じさせる風貌となっている。薄く微笑みながら宣告した内容は、王国民にとっては寝耳に水。王女達貴族にとっては予想されていた事実の暴露だった。


その内容は簡単に纏めれば次の通り。


「勇者召喚とは本人の同意を得ない、異世界からの誘拐である」

「帰る為には魔王を倒すしかないという話だったが、実際には勇者を元の世界に送還する方法は無い」

「それを知られたく無いがため、祝勝会で殺されそうになり逃げた」

「裏切りと言われているが、魔王を倒した後に人外、人間が共存できる街作りをしようとしていただけ。そのため帰れないという事に対する悪感情は無い」

「王国軍の襲撃により保護していた仲間達に死傷者が出た」

「襲撃してきた者達は、魔王軍幹部のクインと手を組んでいた」

「騎士団長、教皇、クインは捕らえており、手を組んでいたという証拠は揃っている」

「それらの事実を王女へと伝えたが、謝罪も弁明も無く騎士団長と教皇を返せとしか言わない」

「よってこの度、裏切りの勇者ことナオエが王国に対して宣戦を布告するものである」

「明朝、日が頂点を指す頃こちらから赴く」


王国民はこれに大混乱に陥った。真実を知らない貴族や有力者が王女へ真実を問い合わせても言いがかり、教皇と騎士団長は任務のため軍を引き連れ王国を離れているだけとしか返答が無かったためだ。

このままでは、噂に聞く裏切りの勇者の仲間達である人外が攻めてきてしまう。ただの魔物達でさえ軍隊で相手取らなければならない状態で、肝心の『グロリアス』も『ホーリーオーダー』も不在。魔物退治を任せられるほどの冒険者、傭兵は明日の昼までに全員をかき集めても50人ほどしかいない。

先手を打って攻める事は論外。タダでさえ元魔王城のあった場所までの道のりには魔物が住み着いており、下手をすれば裏切りの勇者の町へたどり着く前に全滅してしまうためだ。城下町を取り仕切る有力者達が時間を惜しみ対策会議を行う中、ある者は戦いの準備を、ある者は逃げる準備を進めていた。


慌てふためく城下町とは一転して、城内は開戦に向けて兵士達が装備の点検をしている。それを取りまとめるのは対人間用の軍隊である『クルセイド』騎士団団長ヒューダーだ。

彼は魔法的な素養が低く戦闘面では役に立たないと言われる『男』でありながら、剣の腕前と高い状況判断力により一兵卒から騎士団長にまで上り詰めた傑物である。

その彼は今、人生最大の選択を迫られていた。場所は王城の一室、そこには女王、先代法王が揃いヒューダーを見据えている。投げかけられた言葉は一言。


「命を賭して、裏切りの勇者を王城内部薔薇の庭園内で足止めしなさい」


薔薇の庭園とは場内にある庭園の1つで、本来ならば王族しか立ち入りが許されていない区域だ。勿論騎士団長であるヒューダーですら見たことが無い。そのような場所で足止めしろというのもおかしな話だが、それ以上にわざわざ裏切りの勇者を場内で足止めしろというのがおかしいのだ。


「裏切りの勇者を確実に倒すための仕掛けがある、という事でしょうか?」

「ヒューダー団長、質問は許可していません。命令に従いなさい」

「は、仰せのままに」


豪奢なシャンデリアが辺りを照らす一室から出たヒューダーは、しばらく歩き周辺に誰もいないのを確認するとそのままため息を付く。


「このままバックレちまいたいなぁ。だが、そういう訳にもいかないか。家族のためにも、最後のお仕事といきますかね」


ヒューダーはそのまま魔道具を取り出し耳に当てると、どこかへと連絡しながら歩き去る。それが王女と前法王の目論見どおりだとも知らずに。

ヒューダーが退室したその一室、そこには王女と先代法王が重い空気を纏い静かに座っていた。


「一応は予定通り、そう言っていいものかいのう?」

「そうですね。逆上してすぐに攻め込んできてもらうのが一番良かったのですが、結果として攻めてくるのであれば問題はありませんよ」

「彼奴の手下共はどうする?クルセイド騎士団では足止めにすらならぬぞ?」

「あの勇者ならば1人で来るでしょう。わざわざ『ナオエ』が『宣戦布告』とまで言ったのです。アレはその言葉通り動きます」

「ふぉっふぉ、やけに訳知り顔で話すではないか。…そこまで勇者殿の事を知っているのならば、何故あれほど虐げたのかのう?」

「いくら勇者とは言え、男を祭り上げるわけにはいかなかった。王国の国民感情がそれを許すはずが無い、それだけの事よ」

「ほう、それだけかえ?それだけならば、わざわざ裏切り者になど仕立てなくとも良かろうに」

「ここは魔王軍との戦争、その最前線にある国です。その国の召喚した勇者が人間と魔物の共存を掲げ、実際に成功した場合、各国からの戦争支度金などすぐに打ち切られるでしょう。碌な産業の無いこの国にとっては死活問題となります」

「わしゃ、本音を話せと言うとるんじゃ。そんな建前など聞きとう無いわ。母親を殺してまで王位を継いだのも、あの勇者殿に対抗するためなのじゃろう?」


前法王の言葉に王女は眉根を寄せる。今まで暗黙の了解であった事を今更蒸し返した前法王の意図を察しかねて。


「やけに絡みますね。何か思うところでもあるのですか?今更勇者に情でも沸いたとか?」

「ふぉっふぉ、なに、『お主の作戦を実行するために』かわいい娘を生贄として勇者殿へ差し出したんじゃ。最後の最後でお主の心の内を知っておきたいと思ったのじゃよ」

「………黒い瞳、黒い髪、平らな顔、黄色い肌、その全てが不快でした。同じ人間とは思えません。私は勇者という者に憧れを抱いていたのですよ?美しい金髪、高い鼻に透き通るような青い瞳、高い身長に美しい白い肌。それがあのような!」

「随分と個人的な理由じゃの。まぁよいわ。ワシにとっても魔物との共存など許すわけにはいかぬ。ああ、そうそう。例の『勇者』殿はどうするかのう?」

「何もしません。下手に動かせば『ナオエ』に気付かれてしまいますので」


前法王はその言葉に笑みを浮かべると、胸の前で印を切る。


「神のご加護のあらんことを」



現在パソコンが死んでおり、ネカフェで投稿しています。

12月のボーナスが出たら新調しますので、更新はもうしばらくお待ちください!

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